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25時限目 対抗戦、迫る(2)


 妖精たちは呼び出されるやいなや、ダンテを襲い始めた。執拗(しつよう)に飛び回り、ダンテの肌をつねったり、ひっぱたりして、良く分からない言葉を放っていた。荒ぶる妖精たちに、ダンテは必死に謝罪していた。


「分かった分かった。今度からはちゃんと定期的に呼んでやるから」


「先生、妖精語が分かるんですか?」


「ん? こんなもん勘だ」


「しれっと四体も召喚しているし……」


 リリアはごくりと唾を飲み込んだ。

 召喚魔導は数ある異界物質の中でも、かなり負荷(ふか)が大きい。持続的な魔導の維持と、異界生物を服従させる術者の力が必要になる。簡単なものでも異界レベルはBクラスで、異界レベルの高い妖精となるとその難易度は計り知れない。


「先生、一体何者? どこの人外魔境で戦ってたのよ?」


「底辺の前線兵だからな。辺境から辺境だ。いやでも魔導は身につくさ。よしよしエレナ。そうだ、お前の相手はあの娘たちだ」


 顔の周りを蜂のように飛び回る妖精を捕まえて、ダンテはリリアを指差した。キキキと笑った妖精はくるくると回転して、リリアの肩に着地した。


 顔の大部分を占める大きな目がリリアのことを見ていた。


「かわいい……」


「見た目はかわいいが、なかなか頑固なところがあるんだ。機嫌を損ねないようにな」


「キキキ」


 口を抑えて、楽しげに妖精は笑った。


「この子が私の訓練相手?」


「そうだ。こいつの名前はエレナ。仮想の対戦相手として、これから三週間みっちり戦ってもらう」


「こんなに小さい子と戦うんだ……」


「戦うといっても、試合をするわけじゃない。さ、これを付けてくれ」


 ダンテは持ってきた箱の中から、風船を取り出した。ベルトが付随していて、(あご)にかけて帽子のようにかぶれるようになっている。ダンテはそれを四人に手渡した。


「本番の対抗戦で使うやつと同じタイプのものを貸してもらった。一分間逃げ続けられるまでやってもらう。バルーンは割られても、また自動的に膨らむようになっている」


「……この妖精がバルーンを割りに狙ってくるってことですか……」


「その通りだ。素早く動くエレナたちの動きを読み、かわし続ける。対抗戦で他のクラスの攻撃を想定した訓練だ」


「身体を動かすのは得意ニャ!」


「もちろん一筋縄ではいかない。エレナの長所は俊敏な運動能力だからな」


 ダンテの言葉を証明するかのように、ミミの近くにいたエレナが動いた。目にも止まらない速さで動いた妖精は、あっという間にバルーンを破壊してしまった。


 ミミは反応することすらできずに、棒立ちしていた。


「……速いニャ」


「ボールとは比べものにならない速さだろ。これが避けられるようになれば、魔導弾(マドア)なんて止まって見えるさ」


 ミミのバルーンが再び膨らむのを待って、ダンテは開始の合図をした。生徒たちの近くにいた妖精が一斉に動き始め、バルーンを狙ってくる。誰一人避けることができずに、バルーンはあっけなく割れた。


「ひいぃ……」


「これを一分……?」


「さぁさぁ、休んでいる暇はない。次も来るぞ」


 バルーンが膨らんだと同時に、再びエレナたちは動き始める。なんとか一回をかわしても、すぐに切り返して襲いかかってくる。視界の端から端を飛び回り、まるで相手をからかっているかのように、攻撃を行う。


 生徒たちになすすべはなかった。その様子をダンテが校庭の隅で見ていると、フジバナが心配そうな表情で駆け寄ってきた。


「あの子たち、大丈夫でしょうか」


「ん?」


「私も同じ訓練を受けましたから。あれは学生というより兵士の訓練です。エレナの体力はほぼ無尽蔵で、途切れることを知りません。何人もの訓練兵たちが脱走したのを覚えています。果たして最後までもつでしょうか」


「分からんな。でも今回ばかりは逃げられない。退学がかかっているんだ。ここで根をあげるのだとしたら、その時は所詮そこまでだったってことさ」


 ダンテは「バーンズ卿に感謝だな」と言ってニヤリと笑った。


「危機感がある時ほど、人は大きく成長する。ここが踏ん張りどころだ」

 遠くの方から破裂するバルーンの音が聞こえた。「うわああん、無理だよぉ」とリリアの泣き叫ぶ声と、マキネスがどしゃりと地面に崩れ落ちる音が聞こえた。


「……さて、どうなるでしょうか」


「あとはうまく祈るようしかないな」


 西日が沈み、あたりが真っ暗になるまで、生徒達の訓練は続いた。命運決する対抗戦は、着実に近づいてきていた。



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