四
泉太朗と藤園は二階の客間をそれぞれ借りることになった。
夕食の間にベッドメイキングされていたようで、パリッとしたシーツが敷かれていた。
「何処も彼処も金が掛かってんな」
「セレブですからね。いやぁ、太朗さんと一緒の部屋じゃなくてよかった!太朗さんイビキ五月蝿そうだし、寝相悪そうだから別でよかったです。静かに眠れますね。では、おやすみなさい」
あっはっはっと笑いながら藤園は一礼して部屋に入って行った。
泉太朗は部屋に入ると荷物を置き、まだ降り続ける雨を見た。
「あいつ絶対厄介者だ」
隣の部屋に入って行った同行者を思うと謎が深まる。
自分のことは話したがらない、仕事もよくわからないけどいつも小綺麗にしている。
笑みを崩さなかったり飄々としているのに、時々憂いを帯びた表情をする。
何より女性にモテるのが気に食わない。
考えるだけ無駄だと溜め息を吐き、泉太朗は屋敷の中をふらふらと見て回ることにした。
上から見て回ろうと三階の階段を上がろうとした時、初老の執事・館に出会った。
「入間様、どうかなさいましたか?」
「いや、ちょっと豪邸散歩を。こんな豪邸に入れることなんて今後きっとないですし」
「あまり勝手に入られると怒られてしまいますよ。口調こそ棘がありますが、奥様はお優しい方ですから罪に問うことはないと思いますがお年頃のお嬢様もいらっしゃいますし…」
「記者の性分というやつでしょうか。興味津々で。不味そうな所は入りませんので」
少し困り顔の館をよそにへらへらと笑いながら階段を上がっていると、メイドの悲鳴が聞こえた。
「きゃああ!奥様!」
「⁉︎」
「あれはメイドの絹越の声です!」
「行ってみましょう!」
メイドの悲鳴で駆け付けると美咲が一階の廊下で倒れている。
腹部にはナイフが刺さり、真っ赤な鮮血が純白のナイトドレスを濡らしている。
「奥様!!!」
狼狽する使用人たちをよそに館が口を開く。
「医者を!早く!」
いつの間にか来ていた藤園が周りに離れるよう指示をする。
「ナイフに触るな!下手に抜くと出血死するぞ!」
泉太朗は1人冷静に脈に触れると、咄嗟に中年の執事横尾が泉太朗の腕を掴もうとする。
「おい!」
「静かに。この家に無関係で恨みも恩も縁もゆかりもないオレが1番冷静で公平な判断を下さると思いませんか?」
「何を悠長な‼︎」
「医者が来るまで出来ることはないですよ。冷静に判断することが1番です」
「言いたいことはわからなくもありませんが…」
「では、ここはオレが仕切ると言うことで」