エルフ@シノビスタイル
今日もエルフの村が焼かれる。
――何のために?
――一体誰が?
そんなことに意味はない。
時はすでに世紀末。
サイボーグゴブリンが跋扈し、パワードスーツオークが暴れまわるこの時代に。
古き良き文明に付き従うエルフなど、弱者でしかなかったのだ。
今日もエルフの村が焼かれる。
抵抗するエルフは殺され、抵抗しないエルフは捕らえられ、奴隷として売られていく。
エルフは見目麗しい。愛玩用として高い需要があるのだ。
更に丈夫で長く生きる。単なる働き手としての需要も高かった。
なんにせよ――。
今日もエルフの村が焼かれる。
そんな日常に立ち上がった一人の勇者がいた。
―――――――
――――
――
捕らえたエルフを輸送するスチーム特急列車。
煙突から環境に有害なガスを吹き上げ、凄まじい速度で線路を走っていた。
走る場所は現在、エルフの谷。
伐採され禿山が露出した見るも無残な谷であるが、かつては美しい森林があった。
そんな谷を、スチーム特急列車は進んでいく。
ゴトン。
何者かがスチーム特急列車の屋根に降り立った。
「見てこい」
チームリーダーのオークが、サイボーグゴブリンにそう指図する。
これからお楽しみが始まるのだ。
万が一何者かに邪魔されることなどあってはならない。
お楽しみとは奴隷のつまみ食いだ。
オークのいる車両には何人かの女エルフが居た。
いずれも見目麗しく、年頃に見える美少女たちばかりだ。
女エルフたちは怯え、ひとかたまりになっている。
無理もない。さきほど谷の奥――、数少ない秘境であったエルフの村から攫われてきたばかりなのだから。
愛玩用のエルフに生娘を好む客は多い。
だが、彼らは現場を知らない。
エルフは長年生きていて生娘など希少なのだと、現場の者は報告している。
数少ない生娘がいても、現場の者がいただくのが筋となっている。
それが業界の知られざるルールだ。破ったものは厳しく処罰される。
そんなわけでチームリーダーのオークは、今からそのお楽しみを実行しようという最中なのだが――。
スパァアアン!!
突如として、車両の入り口が文字通り”切り崩された”。
ゴトン、ゴトンと床に落ちる扉の残骸。
加えて落ちてきたのは、自分の仕向けたサイボーグゴブリン。
無残に輪切りになっていた。
生々しい臓物と、機械的な部品が一緒になって地面に転げ落ちる。
散らばる血は赤ではなく、緑。人工培養されたグリーンブラッドだ。
そんなグリーンブラッドに靴底を浸らせながら、地面に降り立つ男が一人。
その姿はニンジャだった。
オークは聞いたことがある。
東洋の神秘、ニンジャの存在を。あるいはシノビとも言われるソレを。
頭部に巻かれたバンダナに額当て。
その見目麗しい顔の下半分を覆うマフラー。
全身に着込まれた鎖帷子と、ポケットが沢山のズボン。
いずれも布地の部分は茶混じりの緑だ。
いやグリーンブラッドによって緑に染まったのかもしれない。
手には東洋に伝わるとされる片刃の剣。
床に転がっているサイボーグゴブリンを斬ったのは己だと言わしめるように――。
その刃は緑に濡れていた。
「ワッザ!? まさかおまえは東洋に伝わるとされるニンジャ――!?」
上半身裸で情けなく驚くオーク。
その体には脂肪がまとわりつき、顔は醜い豚面だ。
奥に怯えている女エルフ達が、何もなければこの後どうなっていたか想像に難くないだろう。
「ニンジャ――? 違う」
彼は刃を振り、グリーンブラッドを振り払うと、物々しくこう宣言した。
「俺はシノビ――。シノビエルフだ」
「シノビエルフ!?」
「なんだそれは!?」
「ものども! であえであえ――!!」
事態を聞きつけやってきたサイボーグゴブリン達が、増援を呼ぶ。
わらわらと駆けつけるのは緑の肌をした矮躯の醜悪な妖精。
――とでも言うべき連中に、無理やり機械を継ぎ足したような歪な怪物達。
彼らサイボーグゴブリンの武器は何か。
短刀か。棍棒か。否――。
右腕に備え付けられたサブマシンガンである。
ドドドドドドドドドドドドドド!!
一列に並んだサイボーグゴブリンたちから撃ち出される弾幕の嵐――!
だがシノビエルフも、そんなことでやられるような並大抵の者ではない。
シノビエルフは刃を振り回しながら、サイボーグゴブリンたちの群れへと駆け出していく!
弾幕はどうなったのか――!?
シノビエルフはなんと、刃によって弾幕を切り裂いて進んでいるのである!
そんなことが可能なのか!?
当然、並大抵のことでは不可能である。
だがシノビエルフにはエルフ四千年の歴史が作り上げてきたエルフジュージュツと。
東洋の神秘――ニンジュツ、そして森林の中で磨き上げられてきた超感覚がある。
それらを駆使すれば、弾幕の一射一弾をすべて予測し、見切り、刃で弾くことなど容易いことなのである!
サイボーグゴブリン達に接敵したシノビエルフはまず一閃――!
跳躍し、潔く目の前のサイボーグゴブリンを縦に切り裂いた!
同胞が縦に切り裂かれ、驚くサイボーグゴブリン達!
――もっとも彼らから恐れなどという高尚な感情は、脳内のチップによって既にとりあげられているのだが。
彼らは冷静に陣形を維持しようと左右に別れる!
否、サイボーグゴブリン達を指揮するAIの性能ではその程度の命令が精一杯なのだ。
だが、これは悪手。シノビエルフが彼らの行動を予測し、そうなるように仕向けたに過ぎない。
仮にこのままシノビエルフを左右から撃てば、互いに撃ち合うことになり、同士討ちになってしまう。
しかしAIにとって、サイボーグゴブリンの命よりも、標的の排除が優先される!
サイボーグゴブリン達は左右に別れた瞬間に、右腕のサブマシンガンを撃ち放った!
当然同士討ちになるサイボーグゴブリン達! シノビエルフはどうなったのか!?
彼はまず右に飛び、サイボーグゴブリンの顔を蹴って左に跳躍。
さらに左のサイボーグゴブリンの顔を蹴って右に跳躍。
これを繰り返し、弾幕間の反復横跳びを行っていた!!
無論それだけではなく、持っている刃でサイボーグゴブリンを斬り殺していく!
みるみるうちに減っていくサイボーグゴブリン達!
同士討ちをしながら、斬られているのだ! 当然である!
「そこまでだ!」
シノビエルフの背後から、ガトリングの弾幕が襲いかかる!
しかしシノビエルフの鍛え抜かれた超感覚はソレを察知した!
前方の車両、その屋根へと飛び跳ね、難を逃れることが出来た!
しかし残っていたサイボーグゴブリン達はガトリングの弾幕によって蜂の巣になり、絶命!
ほとんどが同士討ちによって殺されてしまった。無残である!
ガトリングを撃ち放った主は、先程のチームリーダー――オークだ。
しかし先程のように無防備ではない。
シノビエルフがゴブリン共を相手している間に、強力なパワードスーツを着込んでいたのだ!
二倍の体積に膨れ上がったパワードスーツオーク。
「愚かな。部下を気遣う心はないのか?」
車両の屋根に乗りながら、パワードスーツオークを見下ろすシノビエルフ。
パワードスーツオークは巨大な右腕のガトリングを振り回しながら、シノビエルフに向けた!
「ふん! ゴブリン共などいくらでも量産可能! ソレよりも貴様の排除だ、シノビエルフ!」
「豚のようにトロいおまえに出来るかな? ――おっと、豚に失礼だったかな」
指で印を結び、片手で剣を構えるシノビエルフ。
標的は目前。救うは同胞。
「エルフは俺が守護る。――かかってこい」
――今ここにシノビエルフの反逆劇が始まったのであった!!




