A.C.E.pilot
油と鉄の匂いが漂う広い空間。その中では様々な人の声と機械の音がする。
怒鳴り散らす太い声。それに答える若い声。
おどけて見せる硬い声。それを鼓舞する低い声。
光に連なる短絡音。高々と鳴く空転音。等間隔の装填音。
様々な音と支える熱気。それらが混ざり力となって身体を震わす。
その音を聞き、その力を感じながら、ヘルメットを被り首元で固定する。うなじに手を伸ばしヘルメットとスーツのケーブルを繋げる。ヘルメットのHUDが起動してシステムのチェックが行われる。
センサーも跳躍装置も異常はない。青枠でハイライト表示され、名前が浮かぶ仲間たちを眺めながら、手を開閉し体を上下させる。
『恐いのですか?』
ヘルメットの無線から声が聞こえる。
「それもある。分かるか?」
――頼もしい相棒の声だ。
『戦意高揚ですね』
「ムシャブルイだ、そっちの方が良い」
『記憶しておきます』
――軽口を叩けている位が一番良い。
『――各員へ。
敵がシンクカノンという兵器を開発した。星一つ軽々と破壊するふざけた兵器だ。しかし稼働させるためには、コアというものが不可欠らしい。
本作戦の目標は、輸送前のコアの破壊または奪取。それによるシンクカノン発射の阻止だ。先に浸透した別動隊の攪乱に合わせ、基地を急襲する。
作戦開始まで五分。総員、降下用意。』
――いよいよだ。
ヘルメットを被っているのに、つい両手で頬を張ってしまった。
『どうぞ』
そう言って相棒はコックピットのハッチを開き、招く。
パイロットシートを制御系や動力炉ごと、厚い装甲で包み込んだ大きい胴体。
強力な火器を持ち、障害を排除する手腕部。
それらを支え姿勢を安定させるための堅牢かつ柔軟な脚部。
大きめの胴体に太い手足を備えたどっしりとした造形の九メートルの機体だ。
これでも中量級で見た目に反して運動性は悪くない。
強襲戦闘外骨格。A.C.E.-7738。
それが相棒。名前はベルだ。
数字を逆さにしただけで捻りは無いが、本人が気に入ってるから良いだろう。
「ああ。仕事だ。大仕事だ」
ベルの顔は見えない。上下に開かれたコックピットハッチに遮られているし、そもそもベル達は小顔だ。
上に跳ね上がる様に開いたハッチの縁を掴み、下に開いた装甲を足場にして乗り込む。やや窮屈なシートに腰を下ろすと、上下のハッチが閉じて光が締め出される。パイロットシートの肘掛け部分のスイッチを順々に倒していく。
『システムを再起動。ナーヴレシーバー接続。リアクターを始動』
ベルの声と共に暗闇が晴れ、小さな振動と共に先程まで居た空間が、モニターに映し出される。
その中央にはウィンドウが開かれ、その中では簡易的なCGで構成された機体が表示され、駆動系や制御系のチェックが行われている。機体の至る所につながったアイコンが順々に緑色に切り替わっていく。
『システム異常なし。レシーバー遅延なし。戦闘出力へ移行』
小さな振動が大きくなり駆動系や冷却装置が唸り出す。
『戦闘出力異常なし。A.C.E.-7738オンライン』
無線を通して仲間の準備完了を聴く。
――不調は無い。落ち着いて。冷静に。
「オーケー、降下用意」
『了解。降下コンテナへ移動します』
ゴン、という振動と同時に床の隔壁が解放され、機体がハンガーごと下方へゆっくりと滑る様に降りていく。
カメラが黒く塗り潰された頃、振動と共に機体が止まり隔壁が閉じられる。ハンガーの構造部分がコンテナ内部に固定され、同時に外部カメラが繋がれる。
『固定完了。射出口へ装填』
カメラの風景が横へと流れて、電磁投射機の四角いレールの中へ導かれる。船の隔壁が開かれて、遠くに見える四角い出口から、真っ暗な空間と青い繭で包まれた深緑の星が見える。
『装填完了』
豊かな自然に動植物が溢れ、透明な清流が数多く流れ、降り立ってみれば清涼な空気と生物の心地よい生活音が響く、見ていて思わず惚けるような星。戦地で無ければ何度でも観光したい星だ。
戦地と見れば大きな根を張る巨大な樹木類、至る所でナイアガラが出来るような起伏の激しい地形。
足元が安定せず、遮蔽物が多く視界の通りが悪い上に、高低差が大きく奇襲も易い。
防衛でしか選びたくない所だ。
――まあだから敵は選んだのだろう。
射出口の四辺から赤い筋が伸び、レールに光が灯る。出撃だ。射出の秒読みが始まる。
――作戦開始。
「っ」
その号令と共にコンテナは弾かれ、強烈な加速が起こり宇宙空間に投げ出されると、杭のように尖った縦長のコンテナは、すぐに星の大気圏に入り熱に包まれる。
カメラには処理が掛かり、色彩が消え白と黒に変わる。そのカメラ越しに敵の基地が慌ただしく動いているのを認める。
『攪乱は成功のようですね』
「さすがだな」
味方が上手くやってくれているらしい。
「情報だと空輸だったな?」
『はい、ですので地上のコンテナを探します』
「了解だ」
カメラに色が戻る。進路に入った雲に大穴を開けて消し飛ばしながら、コンテナ越しに渦巻く大気の音を聴く。改めて戦闘前に息を整える為、意識して呼吸をする。腕の操作盤のカバーを開き、スーツを戦闘状態に設定する。
『減速開始』
ボフ、とくぐもった音を立てて減速翼が開き、少し落下速度を下げる。それでも十分速いが。
周りの味方のコンテナも表面に凹凸を作り、開いた減速翼の先で白線を描いている。
高度計の数値が流れるように減っていく。それに合わせて地形の構成物がどんどん明確化していく。
対空砲火の光が上がり始めたがもう遅い。
「……ぐっ」
腹に力を入れると共に、槍となったコンテナは、動き始めた対空機銃の上へ落ちる。他のコンテナも地面だったり、敵機の上だったり、色々のようだ。
衝突と同時に外の映像は途切れ、構造体が拉げて潰れていく音が響き、急激な慣性が働いて身体がシートへ押し付けられる。
コンテナは杭の様になった先端から、わざと潰れていくことで減速を行い、内容物である機体とパイロットを高速かつ、比較的安全に降下させることを両立させている。
金属の裂かれる音が止み、コンテナが着地に成功した事を教えてくれる。
『――攻撃開始!!』
誰かが叫んだ声と共にコンテナが開き、灰緑色と白色の二色で統一された戦闘兵器達が一斉に飛び出した。
――敵の機体は体制を立て直していない。好機だ。
全員が思う事は同じだったようで、全機が前進しながら大小多数の火線が放たれる。
四〇ミリの砲弾を、ドアを叩くように次々と撃ち放つ、手持ちの機関砲の砲撃。
肩部に装備された展開式の多目的兵装ポッドから、無軌道に一息で吐き出された、ミサイルの炸裂。
上下の構造体の間から紫電を走らせ、他の火線とは一線を画す速度を以って、二〇ミリの砲弾が目標を穿つ、電磁投射砲。
八連の銃身を回すモーターの甲高い作動音と、電動鋸にも似た低い唸りで大瀑布の様に三〇ミリ砲弾を吹き出す、バルカン砲。
砲弾が敵を打ち据えその場に釘付け、濃密な弾雨が敵と外壁の区別なく抉り、装甲を剥ぎ飛ばす。
ミサイルが爆炎と破片を噴き上げ強力な殴打を繰り返し、たたらを踏んだ敵機を紫電が一撃をもって四肢を切り飛ばす。
だが、敵も素人な訳が無いので、突撃の勢いはすぐに収まり乱戦に入るが、それまでに二〇秒も無かった。
「……まあ悪くないか」
『はい、こちらの損害は予想より少ないです』
機体を半身に捩って弾を躱し、左腕の盾で溶かし自分への損害を減らしつつ攻撃。乱戦の中で時に一機、時に三機、合流と散開で敵味方が増減するも、着実に損害を与えていき敵を減らしていく。
そんな時、後ろから衝撃を受け、一瞬視線を向ければ敵機が砲口を向けており、挟まれた形だったがまだ距離はある。それをミサイルで牽制し目前の敵に向き直る。
手持ちの機関砲を背に回しつつ、腕を前に構えて全速で突進。多少の被弾は見切りを付け、勢いそのまま体当たりをすると、かち上げる形になり敵がのけ反って隙が生まれる。そこへ背から機関砲を取り、ねじ込むように敵に押し当て引き金を引く。
敵機が沈黙した頃には、後ろの敵機は近くまで迫っていたが、応戦しようにも弾が足りない。ならば、と振り向きながら機関砲を投げ付け、今倒した敵から火器を奪う。投擲によって怯んだ敵へ、弾とミサイルをばら撒きつつ距離を詰める。
距離を詰めた所で、敵が突進し左拳を振り抜き迫るが、それを半身で躱しつつ左拳を叩き込み、よろけた所へ地を蹴って飛び込んだ速度で上体を捻じり、更に加速した右腕を突き出す。
敵機の足が僅かに浮く程の衝撃が響き火花が散り、奪った機関砲は銃身は折れ、敵の装甲は歪んでいきみるみる速度が落ちていくが、力で勝った拳が装甲を破り中身を破壊し、敵は崩れ落ちた。
「ハッ、ハッ……損害は?」
息を切らしつつベルに問う。
『戦闘に支障なし』
「よし……次だ」
息を整えつつ腕を引き抜き、折れた火器を捨て自分の機関砲を拾い、弾倉を交換しながら辺りの敵を探る。
その時通信が入る。味方だ。
『――こちらゴーストタッチ2-4!! 全部隊へ! 目標は地下リニアレール! 地上部隊は時間稼ぎだ!! 繰り返――』
「くそっ!! 囮か! 昇降機はどこだ!?」
『落ち着いて下さい。単機での突破は無理です。まず合流を』
「……ああ。すまない」
――味方で集まり一点突破しなければ。
焦燥に駆られつつ味方の元へ走る。




