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森の中

くそっ、いつまでこうして走らなきゃいけないんだ!?




悪態を山ほど吐きながらもオレは一生懸命走り続けた。


ゴールなんてどこにあるのかも分からない。つーか、分かっていることはただ一つ。




 グルルルル…




ガサガサという草音とともに現れた恐竜みたいなこの訳の分からんヤツに。




捕まったら、最後ってことだ!






「ギャアアッ」


「どうわっ!?」




肉食だってことが分かる鋭く凶悪な歯を剥き出しにして、ソイツはまたオレを追い駆ける。




「っ、この…。いい加減に、しろっ!」


「ギャンッ」




こういうヤツでもどんなヤツでも、大抵火が苦手なのはどこの世界でも同じだ。


開いた口の中を目掛けて放った炎に巻き込まれて、ソイツはオレを追い駆けることをやめてその場でのた打ち回り始めた。




 今のうちに遠くへ逃げないと…




「ギャアアアアッ」


「ん?」




オレが投げた火の玉は意外と大きかったようで、みるみるソイツが炎に包まれていく。


しばらくしたら辺りを皮が焼けた焦げ臭い匂いと肉の焼けるいい香りが漂ってきた。




 ぐぅ~…




「そうだな、せっかくだし食うか」


美味いか美味くないかは分からないし、毒とか何かがあるかもしれない。


「それでも即死毒じゃないだろ」


ちょっと痺れるとか笑いが止まらないとか、そういうのじゃなければいいんじゃねえのと。


ついでに肉の香りに集まってきた他の動物っぽいものたちとも一緒に、いいカンジに焼けた肉を切り分けることにした。






「お、意外とうめえじゃん」


なぜか他の動物たちは焼いた張本人のオレが渡すまで手を伸ばしてこないし、何よりオレが食うまで誰も口にしない。




 ここには弱肉強食っつーか、なんかの序列でもあるんだろうか。




「…いや、それより倒せるんじゃねえかよ」


 あんなに走り回ったのに。


たったあれほどの小さい火の玉を口の中に入れただけで、恐竜並みに巨大な獣の全身を、黒焦げになるまで燃やし尽くせたんだ。




 オレはさっき炎を出した右手を見つめて一人ごちる。




出した瞬間も今も熱くはないし火傷もしていない。ただ単純に「アイツを燃やしたい」と考えながら無我夢中で口の中を狙っただけで、炎が出ることもあれほどの物になるとも思っていなかった。




「ついでに意外と美味いっつーことと、焼き加減最高ってところも」


 毒もなさそうだし、このまま満腹になるまで食べていくか。




「うん美味い!…ん?」


 食べ終わった動物たちがちらちらオレを見ていることに気が付いた。


「遠慮しないで食えよ。ほら」


「キキッ」




サルっぽい鳴き声をしたソレは、サルみたいな見た目っつーより…。


「何だろうな。タヌキ…が、近いか?」




丸っこいフォルムにくりっとした目。手には鋭い爪っぽいものが黒く光っているところも目の周りにある模様もタヌキっぽい。


でもガツガツと恐竜みたいなさっきのヤツを美味そうに食っているということは、タヌキじゃねえな。




「あー、食った食った」


アイツ以外に襲ってくるような肉食系はいないようで、オレはその場でごろんと寝転んだ。


一緒に肉を食べた動物たちはオレの近くで眠ったり、周りを監視するように囲っていく。


「肉の礼かな?なんにせよ助かる…」


全力で走った疲れと倒した安堵と満腹感でいっぱいだ。




「あーしっかし、ここはどこなんだよ」


これが最近流行っているっつー、異世界に転生したとか異次元に飛ばされたとかいうヤツなんだろうか?


さっき追い駆けてきた恐竜っぽいものだって、オレが出した炎だって、まさに異世界だもんな。




「まあいいや、起きてから考えよう」


 ふかふかの草の上だし、気候はいいし。


これまた肉の礼なのか、手先を器用に動かしていたサルっぽいヤツが布団のように編んだ何かをオレの上にかけてくれる。




「倒して良かった」


いつ他の獣が襲い掛かってくるかは分からない。そもそもここがどこで今は何時で、炎の魔法以外もどの程度使えるのかも分からない。




 これほど分からないづくしなんだから、全部起きてからの自分に丸投げしよう。




「おやすみ…」


 キキッ ぐぇっぐぇっ シシシシ…




起きる前に頭からでも齧られて、永遠に眠ることになるかもしれないなあ。まあそれならそれでいいやって、オレはぐっすりと眠ることにした。






「ぶえっくしょいっ!」


「ギャンッ」


「ぐぇっ、ぐぇっ」


「…ん?」




ここはどこで今は何時で、さっきからぺちぺちとほっぺたに当たっているこれはなんだ?




「キキッ」


「…ああ、お前かタヌキモドキ」


すっかり夜になったようで、辺りは真っ暗になっていた。




さっきまでオレを囲むようにたくさんいた動物も半分以上がいなくなっていたし、何より…


「寒っ!!」


目が覚めたらものすごく寒いことにも気が付いた。




眠る前に掛けてくれた草か何かを編んだ物だけじゃ、防げないくらいに寒い。


「うおお、マジかよ」


震えながら自分で自分を抱えてこすりながら立ち上がったら、タヌキモドキが手を一生懸命叩いている。




「キキッ、キキッ」


「何だ、手?合わせればいいのか?…あ、違う。すんません…」




パンパンと自分の手を叩いたら、オレに向かって手を差し出してくるから手を合わせるように重ねたら怒られた。


 これじゃないなら、何だ?




他の動物たちも手を叩いてオレを一生懸命指し始める。


ここだけ外から見たヤツがいたら、森の中で動物たちと呑気にダンスパーティをしているように見える。




「ええと、手、か」


「キキッ」


左手を指したら首を振られたので、右手を指したらスタンディングオベーションみたいに全員が一斉に手を叩いて拍手喝采していった。


 …な、なんか褒められたみたいで照れるな。




「ああ、もしかして火を出せってことか!?」




そう言って小さい炎を出してやったら、集めてきたのか草と木で作ったらしい山に火をくべるように案内される。


「こうか?…あれ?」




さっきと違ってオレの手から離れた炎はあっという間に消えてしまった。全然欠片も残らない。つーか、草に移る前に消えたから燃えてもいない。




「…なんだよ」


 一気にものすごくがっかりした空気と視線に囲まれてしまった。




気を取り直して大きめの炎を出しても、手のひらから離れた途端に消えてなくなる。


「いや、ちょっと待て。さっきはできたんだからな」


じりじりと迫ってくる小動物っぽいものに言い訳をして、さっきの感覚を思い出すように炎を作ることにした。




あれだ、「アイツを燃やしたい」って思ったから燃え尽くしてくれたんだ。そして見事なミディアムに…。




「これでどうだ!」


「キキッ、キキッ」


「ぐぇっ、ぐぇっ」


「シシシシ」


「…いいみたいだな」




とりあえずこれで、オレは生きたまま食い散らかせられることはなくなったようだ。




「なんだ、まだ肉残ってんじゃん」


 本当に、こういうところはキッチリしてんなあ…。




「まあいいや、腹減っただろ?残りもみんなで食っちまおうぜ」


いつの間にかどこかへ行っていたヤツらも戻ってきて、残りの肉も全部食べきる。


 明日のご飯はどうしようかとか、ちらと考えがよぎったけど。


やっぱりどっかに置いとこう。




「どーせここには食べられるもんがあるんだろうし」


 初日にこれなんだからヌルいゲームみたいなんだろうと願いながら、なんなら朝になったらまた、さっきの恐竜みたいなヤツが襲ってくればちょうどいいとも思って横になる。




 それにしても塩も胡椒も味付けなんて何もしていない、ただ焼いただけの肉があんなに美味いとは。




「いやでもソースとか調味料は欲しい。ついでに煮込みとかも食いてえな」


元の世界にいた頃に食べたファーストフードに家庭料理にファミレスにと、次々とメニューが浮かんでは消えていく。




「他の人間はいねえのかなあ」


 そもそもオレは授業中じゃなかったか?…うーん、どうだったかな。




目が覚めたら森の中で、いきなり恐竜みたいなヤツに追い駆けられて逃げ回って今に至る、だしな。


「まあいいか」




また満腹になって襲ってきた眠気に流されながら。


オレが横になったらさっきみたいに囲んで警戒してくれる、この同じ獣の肉を食った動物たちを信用することにしよう。






パチパチと炎が爆ぜる音を聴きながら、明日のことは明日考えることにする。




 …しっかしどれほど万能なんだよ、この炎。




朝まで消えないように、この広場っぽいところ全部が温まるようにと考えながら草に火を点けただけなんだけど。


さっきまでの寒さはどこ行ったってくらいに温かい。しかも適温だ。




「いいや。これもおいおい考えよう」


 眠ったら回復する程度の魔力消費量なのかもしれないし、少しずつ寿命が使われているかもしれないが、そんなことはまったく分からないんだから。




「明日は何食べようかなー」


「キキッ」


「お、お前も美味い物がいいよな?」


「キキッ、キキッ」




笑っているのかは読めないが、さっき炎を出した時のように嬉しそうに手を叩いていく。


 アイツを倒したら寄ってきたってことは、迷惑してたのかな?




「でも肉は結構食ったから明日は魚にするかな」


 もしくは野菜。生じゃなくてもいいから野菜が食いたい。


好き嫌いがなかったおかげで何でも食えるのは助かるんだが、偏ったメニューだと体の調子が良くないんだよな。




「ま、それも明日起きたらにしよう」




そういうことにして。


異世界っぽい所に放り出されたオレは、今夜は眠ることにした。

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