Welcome to the New World-er ~ようこそ! 新しい、くそったれな世界へ~
――――西暦2047年
――――秋葉原 ネットカフェ
――――"My Personal(略称、MP)"と名付けられたそのデータは 人々の電脳世界での身分証明書となる
――――"MP"で個人を判別する社会
――――そんな社会の 1人の"平凡だった"少年の話である
☆
>>Welcome to the ReWorld
>>"MP"を確認……
>>照合しました!
>>ようこそ、【アキラ・シノモト】さま ReWorldへ
>>Start to the 『アルダの伝説 ~クリスタル・レガシー~』
>>名前と パスワードを入力してね☆
≫≫名前;アキラス
≫≫PassWord;*******
>>パスワードを確認中……
>>エラー発生
>>お求めのデータは すでにログインしています
>>エラー発生
>>お求めのデータは すでにログインしています
>>2回の 不正アクセスを確認
>>これ以上は ハッカー行為となります
>>よろしければ 仮データとして アバターを作成しますか?
>>はい いいえ
「どうなってんだ、いったいっ!」
誰でも気軽に利用出来る電脳社会、《ReWorld》。
その仮想マルチオンラインゲームの1つ、『アルダの伝説~クリスタル・レガシー~』。
そのゲーム世界にいつもとは違うアバターとして入った、《アキラ・シノモト》は悪態を吐く。
今日も今日とて、いつものように『アキラス』という名前のプレイヤーでプレイしようとしていたのに、そのキャラクターはアキラがログインしていないのに、既にプレイヤーとしてログインしているとの事。
「……まさか、俺が垢狩りをされるとはな」
――――垢狩り。
ハッカーと呼ばれるたちの悪い連中が行う、アカウントを奪う悪質な行為である。
最近、この『クリスタル・レガシー』でもハッカーの魔の手が問題視し始めていたが、まさか自分の身に起こるとは思っても見なかったのである。
けど、幸いなことにまだ『アキラス』というプレイヤーデータは消されていない。
対応の遅い運営の手が遅れてデータが消される前に、自分の手で直接! 280時間以上も費やした、アカウントを取り返しに来たのである。
「こっち、か……!」
知人の伝手を用いて、『アキラス』の居場所は確認済み。
この奥の、初心者ダンジョンに入ったという所は確認している。それに、このダンジョンに入るには、正面の入り口以外は存在しない……。
相手が悪質なハッカーであろうとも、政府も認める厳重なプロテクト"MP"の技術を使ったこのゲームのプログラムには手出しできないはず。
「後は、直接! 文句を叩き込みっ!
俺のデータを返すまで、追い込んでやる!
ハッカーだろうと、俺のプレイ時間294時間28分は返してもらう!」
ぷんすか、ぷんすかっ!
怒り心頭のまま、アキラはダンジョンの中へと入って行く。
時間的に考えれば、もう少しで運営も動き出すだろう。
そんな事を考えながら、アキラはサクサクとダンジョンを進み、一番最奥の本来であれば聖剣を貰えるフロアに、"そいつ"は居た。
丹念に作りこみがなされた金髪西洋風のキャラクター、着ている装備は黄金の超一流の装備品ばかり。全て、アキラがログインし直す前の『アキラス』の装備のままだ。
とりあえず装備がそのままだったことに安心感を覚えつつも、アカウントが盗られた怒りは収まっていない。アキラは、そのまま『アキラス』へと詰め寄る。
「おいっ、お前! サイバーネット法を知らないのか!
サイバーネット法では、アカウントのハッキング――――いや、ハッキング自体が禁止! 破れば、永遠に檻の中だぞっ! 今すぐ俺のアキラスを返すなら、通報はせずに――――」
しかし、その言葉を、相手への侮蔑文句を並び立てることはアキラには出来なかった。
何故なら――――彼の身体にアキラスの剣が突き刺さっていたからだ。
それだけならば、ゲームで良くある光景だ。モンスターに斬られるのと変わらない、アキラも驚くが"今"ほどではない。
――――身体が電脳化していること、以上に、驚く事はない。
「い、いやっ! やめっ!」
身体が電脳化する、それは想像以上の恐怖である。
身体から血が流れる、ズキズキとした痛みに襲われる、少し熱い、少し寒い。
その程度の怪我と呼べるような奴ならば、アキラも経験している。
しかし、これはまったく別種の痛みだ。
身体の内側から、細胞1つ1つが振動されて、別のモノへと置き換わって行く感覚。
言葉にするのもおこがましいが、それは1つの恐怖である。
自分が別のモノに変わって行くという、経験したことがない痛みはアキラの言葉を、思考を、感情を、根こそぎ奪う。
全身に鳥肌が立ち、それが全てデータに置き換わった頃――――
――――電脳世界から、アキラ・シノモトという人間は消えた。
>>警告! 警告!
>>アキラ・シノモトのMPに深刻なエラー発生
>>強制排除プログラムを作動……
>>……Error!
>>外部からのハッキングを確認
>>対処プログラムを起動
――――あらあら もう気付かれちゃった
――――最近のプログラムは、あの頃よりも優秀ね
――――流石 Windows25の時代って所かしら?
――――大丈夫?
――――今 あなたの身体は"特殊なウイルス"によって データ体……
――――つまり 現実も人間ではなくデータの身体として存在してる状態ね
――――非常に危険な状況よ
――――下手すりゃ データ崩壊によって二度と元には戻れないかもしれないわね
――――けど 助かる方法が1つだけあるわ
――――そう 1つだけよ
――――あなたには 今からとある力を授けるわ
――――それは、"現実をハッキングする力"
――――完全なる電脳となったあなたの身体は 電脳領域に侵入する力がある
――――それを用いれば 現実を電脳世界のようにハッキング出来るわ
――――勿論 電脳に繋がるモノじゃないといけないけどね
――――あなたはそれを 使って
――――とある人間のデータバンクから あるモノを引き出さなければならない
――――それがあなたを元の身体に
――――そして 世界を救う事に繋がるのよ
――――良い?
――――これだけは 覚えといて
――――迷ったら 新宿歌舞伎町のネットカフェを尋ねなさい
――――そこの 柏木……
――――ダメね
――――これ以上は 無理みたい
――――最後にこれだけ
――――Welcome to New Worlder
――――ようこそ 新しい世界の変革者
――――ハッカー誕生に 祝福を
☆
――――カッコン! カッコン!
鳴り響く青信号の音に目を開けると、そこは秋葉原のとある大きな交差点だった。
数十人が一斉に渡るのが恒例となっているそんな中に、突如として現れたアキラは、キョロリキョロリと辺りを見渡していた。
わいわい、がやがや、と、歩行者達は何故か渡る事なく、何故かジッとこちらを見ていた。
いったいどうして、とアキラは自分の手を、そして全身を見て理解した。
アキラの身体は、全身が薄青のデータとなっていた。
四角い物体がいくつも組み合わさり、それが人間の身体となっていた。
目も、鼻も、口も、なにもない。
データで構成された、人間状の物体。
――――それが現実の世界に、現れた俺の姿であった。
>な、なんだこれ!? お、おれ、どうなってんだ?!
>……あっ、あれっ?! 言葉も変だ!?
アカウント・ハック。
垢ハックされたキャラの、謎の攻撃。
そして、現実世界に戻るとこの身体。
何もかも、あり得ないこと続きでアキラの脳内はパニックを起こしていた。
そんな中、歩行者がまた騒ぎ出した。
アキラの異様な身体を見た時と違う、その異様な騒ぎの向こうからアキラへと迫ったのは――――トラックだった。
ふらふらと、どう見ても普通ではない車の動き。
そして、アキラの目は運転席の、虚ろな瞳をした運転手の姿が映し出されていた。
>とっ、トラック!?
>こちらに迫って来る?!
逃げようとするも、データとなった足は上手く動かせない。
その中でも、トラックはこちらへと迫って来て――――
"咄嗟に、俺はトラックにどけろと命じていた"。
トラックは俺の命令に従い、ガッといきなりあり得ない形で右に移動する。
同時に、トラックはそのままガードレールに突っ込む。
その際にガードレール脇に置いてあった乗用車を巻き込み、乗用車は真っ平らに潰されていた。
真っ平らに潰された乗用車の運転席からは、眼鏡をかけた女性の血がたらたら~ぁ、と――――
アキラはその光景を見て、なんとか足を動かして逃げ出した。
これは1人の平凡だった少年の、物語。
データの身体となり、そしてハッカーとなってしまった少年の、現代譚である。




