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脅威との遭遇

いよいよ主人公たちが旅立ち、敵との闘いに突入していきます。

  一列縦隊になり国道257号線を北上する。並びは先頭セナ、2番目新枝、3番目稲垣、しんがり炭田の順でそれぞれ警戒する方向を分担している。先頭が正面、2番目が右側、3番目が左側、しんがりが後方をバックミラーを用いて警戒する。フォーメーションAだ。そうすることにより死角をなくし確実に危険を察知することが可能になる。理論上は。

  彼らが警戒するのは感染者だけではない。野生動物も彼らの脅威だった。文明の崩壊後や急速に数を増やした野生動物は人間を襲うことも珍しく無かった。実際に作手村でも狩りの最中にイノシシに襲われ脚に牙が刺さって大怪我を負った者もいた。彼はその後破傷風により死亡した。

  もう1つ警戒すべき相手がいた。流浪者エグザイルと呼ばれる人々だ。定住をせず移動しながら残された食料や物資を求め、時には他の生存者を殺して食料を奪ったり人肉を食べたりしている。作手村も何度か流浪者(エグザイル)の襲撃を受けておりこれまでに2人が殺され、4人が重症を負っている。

  そうして進んで行くと先頭を走るセナがスッと左手を上げる。危険を察知した合図だ。全員がブレーキをかける。

「11時方向に感染者1体」

  セナが報告する。その方向を見ると50mほど先で1体の感染者が道路を歩いている。まだこちらには気づいていない。炭田が89式を構えながら言った。

「新枝、稲垣、あれを始末しろ。」

  新枝はスコップを、稲垣はナタを構えて自転車を折り感染者に近づいていく。感染者との近接戦の際には2体1での戦いが基本とされていた。失敗した際に備えて炭田が感染者に銃口を向けておく。できることなら射殺するのが最も安全なのだが貴重な弾薬の節約のためと音で他の感染者を引き寄せるのを防ぐためにナタ等で殺すのだ。

  2人が近づくと感染者はこちらに気づき走り出す。新枝に狙いを定め、手を伸ばして掴みかかろうとするが新枝は素早くスコップを振り下ろし、頭部に刃を直撃させる。感染者は地面に崩れ落ちたがまだ動いており腕を伸ばしてくる。そこへ稲垣がナタを頭部に叩きつけ動きを止めた。

  何度も訓練で繰り返した動きだけあって非常にスムーズな連携だった。しかし新枝は人の姿をした感染者を殺すことへの抵抗感を未だに捨てられずにいた。感染者との戦闘で最も大きな障害となるのがこの抵抗感だ。訓練の際には感染者は人の形をしているだけの化け物だと教えられるが実際に対峙するとそう割り切れものでは無かった。

  スコップに付着した血液を拭き取り腰に収める。自転車に戻り再び走り出す。しばらくすると473号線に入り、急になった勾配を立ち漕ぎで登る。いくらスポーツバイクとはいえ衣類や食料、武器などの荷物があれば坂道では体力を消耗する。そういった状況では注意力が散漫になりがちで危険だ。

  ようやく坂道が終わったところで炭田が指示を出した。

「ここで小休止をとる」

  すでに出発してから約3時間が経過し35kmほどを走っていたので、妥当なタイミングだった。体力が消耗した状態では感染者との戦闘や逃走に対応できない。適切な休憩を取ることが任務の成功と生還につながる。

  道路の脇に自転車を置き、立ちながら用意した握り飯を頬張る。ここで座らないのには2つの理由がある。

  1つは座ってしまうと体温が下がり、運動能力が下がるからだ。

  もう1つは感染者などに発見された際、立った状態の方が素早く戦闘や逃走に移行できるからだ。

  小休止の際には隙が大きくなるため最低1人が見張りをすることになっており、今は炭田が小銃を構えて辺りを警戒している。

  全員が握り飯を食べ終えると稲垣が口を開いた。

「ちょっと気になったことがあるんですけど、言っていいですか?」

  炭田が応える。

「何だ」

「さっき殺した感染者なんですけどあれは多分つい最近感染したんだと思います。肌や衣服がきれい過ぎだったんです。」

  殆どの感染者は1年以上前に感染した者で肌や衣服はかなり汚いものになっている。しかし、言われて見れば確かに先程の感染者は感染したばかりのように見えた。

「確かにそうだった。この辺りに生存者がいるのかもしれない」

  新枝は稲垣に同意して言った。ただ、その生存者達は間違いなく流浪者(エグザイル)だろうと思った。

「わかった。なら一層警戒して進むぞ」

  炭田はそう言った。やはり彼も同じ考えのようだった。

  小休止を終えて再び走り出す。自分の担当である右側を警戒しながらエグザイルのことを考えるていた。感染者とはこれまでに何度か戦ったことがあったが人間と戦ったことは無かった。訓練では人間を相手にすることを想定したスパーリングをしているが訓練と実戦は違う。本気の殺意を持って襲ってくる人間がどれほど恐ろしいのか、安全が確保されているスパーリングですら恐怖を感じる新枝にとって想像したくもないことだった。

  また、自分が人間を躊躇なく頃せるのかも自信が持てなかった。感染者は理性の無い化け物だと割り切ることができるが流浪者(エグザイル)はいくら凶悪な連中とはいえ正真正銘の人間だ。

  正直なところ新枝は心から流浪者に対して敵愾心や怒りを覚えることができなかった。確かに彼らは村を襲い仲間を殺したり食料を奪ったりしたが彼らだってすき好んで人を殺した訳ではないだろう。

  飢え死にすることと殺人者になることを天秤にかければ殺人者になることを選択するのも無理は無いことだ。自分だって運良くコミュニティに所属できただけで一歩間違っていれば同じようになっていたかもしれない。

  だが、この世界ではそんな甘い考えでは生きていけないのだ。人権や人道といった思想はもはや旧時代の異物だ。危険な存在は有無を言わず排除する。それがこの世界で生き残るための鉄則だ。そう自分に言い聞かせる。

  しばらく走ると小さな村に差し掛かった。人の気配はなく家々は窓が割れたり戸が壊れて腐っていたりしており、庭は荒れ放題だった。田んぼには本来この時期には実をつけた稲が生え揃っているが、今は雑草しか生えていない。

  この村には偵察隊と回収隊が何度か来ており、使えそうな物資はほぼ回収し尽くされている。

  回収隊とはその名の通り村の外から必要な物資を回収する役割を持った集団で数少ない外に出る役割の1つだ。偵察隊が物資を発見しそれを回収隊が取りに行くというのがこの2つの隊の関係だ。

  回収隊は偵察隊と異なり軽トラックを使う事が認められている。大きくて重い物資を運ぶ必要があるからだ。

  村を通っていると前方に何かが転がっているのが見えた。よく見るとそれはヒトだった。

「前方でヒトが倒れてる」

  セナが報告する。

  倒れているからと言って死んでいるとは限らないし横を通り過ぎている時には遅いかかられる可能性も十分にある。

  全員が自転車を止める。

  炭田が指示をだす。

「俺と新枝で確認する。新枝、ついて来い」

「はい」

  そう応えて自転車を降り、炭田の後に続く。炭田は小銃を構えて駆け足で横たわっている者に近づくと3メートル程手前で立ち止まった。

  そこから銃口を向けながらゆっくりとすり足で近づき重厚で軽く小突いた。

  反応はない。死体のようだ。よく見るとその身体には血が流れており頭部に大きな凹みがあった。鈍器で殴り殺されたのだろうか。

「こいつが殺されたのはつい最近だ」

  確かに、血の色からして死後あまり時間が経って居ないことは明らかだった。となれば問題は誰が殺したのかだった。

流浪者(エグザイル)の連中ですかね?」

  新枝は炭田に聞いた。

「ああ、恐らくそうだろうな」

  その後隊に戻り全員に告げた。

「あの死体は流浪者(エグザイル)に殺されたものだ。さっきの感染者も恐らくやつらだった者だ。この辺りに連中が潜んでいる可能性が高い。十分に警戒しろ」

  炭田の言葉を聞いて全員の顔に緊張が走った。

  その後村を抜けて再び山の中を走る。心なしか少し先程までよりもスピードが上がっているような気がした。やはり皆さっきのことで恐怖を感じているのだろうか。

  すると前方の道に障害物が現れた。丸太どうしを結んで作られた柵が並べられバリケードになり道を塞いでいる。

  全員にが立ち止まる。これは罠だ。そう思った瞬間炭田が指示をだす。

「全員戦闘態勢をとれ」

  自転車から降り各自武器を取り出して構える。

  新枝は刃を付けたフォールディングスコップを、炭田は89式自動小銃を、稲垣はナタを、セナはバールを構える。

  全員で背中合わせに立ち全方向を警戒する。フォーメーションBだ。

  すると山の中から音がし、四方に男が現れた。完全に囲まれてしまった。人数を数えると5人で全員が武装している。

  1人はフルフェイスのヘルメットにオノ、1人はガスマスクに野球用バット、さっきの死体はこいつが殺ったのだろう。1人はゴーグルにチェーンソー、1人は目出し帽に鎌、最後の1人はジェットヘルメットに鎖を持っている。こいつらが流浪者(エグザイル)か。

  フルフェイスヘルメットの男が言った。

「持っているものを全て渡せ。そうすれば殺さない」

  嘘だ。こいつらは身ぐるみを剥いだ後に殺す。そして人肉を喰うのだ。

「こっちには銃がある。不利なのはお前達だ。さっさと消えないと撃ち殺すぞ!」

  炭田が逆に脅す。確かに銃は大きなアドバンテージだ。しかしこの状況ではかなりの接近を許してしまっている上にこちらの方が人数が1人少ない。一斉に襲いかかられれば不利なのはこちらだ。

  少しの間睨み合っていたが、フルフェイスの男が右手を素早く上げた。それを合図に5人が一斉に襲いかかる。


 

 

 



 


 

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