第三話
「ねぇ~なんでこんなに戻ってくるの遅かったの?泣くよ?」
「堺澤は知らない環境に入った時ビビり過ぎやねん。」
ちょっとキレ気味の堺澤と、反応が淡白すぎる涼子のやり取りを見て、けんかに発展したりしないだろうかと胃が痛くなる俺を気にも留めずに二人は会話を続ける。
「ほんっと泣くからね⁉あ、てか勝手に部室入っちゃっていいの?」
「別にいいよ、囲碁部ゆるいから。」
そうか、俺は「堺澤が」部室にいることに驚いたけど、堺澤は一月までうちの学校の中でひときわ厳しいことで有名な吹部だったから部室に部外者がいること自体にびっくりしているのか。
「ええぇ、そんな軽いノリなのね。で、なんで私は連れてこられたのかな?」
「吹部引退して暇やからなんか部活入りたいって言ったやん?」
「言ったねえ。」
「じゃあいいやん。囲碁部入ろ。」
「マ ジ で す か」…俺と堺澤がキレイにハモった。
「ぶあっはっははあぁ」
謎の笑い声が教室の奥の方から聞こえてきて、三人が一気に振り返ると、そこにはもう一人の中三囲碁部員の諸田淳也がにやけているのか真顔なのかよくわからない顔をしてパソコンに向き合っていた。
「あ、諸田いたんや」
「どっかのアホが来る大体四十秒前くらいには来てたぞ。」
「アホとか何処にいるんですかぁ、どこどこぉ?」
リズミカルに小学生以下レベルの言い争いをしているが、別にこの二人は特別仲が悪いとかいう訳ではなくて、ただ挨拶代わりに軽口をたたいているだけである。
いきなり涼子に、堺澤にルールと最低限の生き死に教えといて、と九路盤を手渡された俺は生川がやればいいやん、と言いつつも断られるのが目に見えているので手早く碁石を用意した。
「やる気満々やな!」と、憎たらしく満面の笑みを浮かべ、わざとらしくガッツポーズをしてくる涼子ですらも可愛く思えてしまう俺はきっと重症なのだろう。
堺澤の方を向くと彼女は、「ご指導お願いします、駒田センセー」とにやけながら言ってきて、きっと涼子と諸田の馬鹿みたいなやり取りで緊張もほぐれたのだろう、人見知りされて気まずい状態だと、俺もかなり教えにくいので助かった。
その後、囲碁の基本的なことを堺澤に教えて大体今日の部活は終わったのだが、堺澤は天才的というほどではないにせよ初心者にしてはかなり飲み込みもはやく、教えていてすごく楽しかった。俺が教えている間、涼子はちょっかいをかけたり諸田と対局したりしていたみたいだ。
俺たちの学校では、中学生は最終下校が決まっているし、偶然だが四人とも帰る方向が同じだったので、わざわざ別に帰る必要もないのでその日は俺と涼子と諸田、そして堺澤の四人で帰路についた。
普段の堺澤がいない下校の時は、俺と涼子が話して駒田がちょっと後ろで聞いていてたまに涼子にツッコミを入れるといった感じなのだが、今日は堺澤がいるので堺澤と涼子と俺が主に話していて、駒田は特に会話に入るでもなく後ろを歩いていた。
どうも、百辻脩哉です!
お手洗いから母親の叫び声が聞こえてきて、何事⁉と思ってみにいったら、
何か黒い塊に一心不乱に殺虫スプレーを振りかける母の姿が…
眼鏡を外した母が埃をGの野郎と見間違えただけでした!
怖かった…(必死過ぎる母が)