婚約破棄とか馬鹿じゃないの
ここは王都内にある12歳から15歳の子供が通う学園である。ほとんどの貴族の子はここに通い、平民でも金に余裕のある者は通っている。貴族の子は家庭教師などで入学前から授業内容のほとんどは習い終わっているが、学園を卒業したというステータスと人脈作りのために通っている。俺は今年で15歳になるのだが最近まで国際交流のため隣国の学園に留学していたのだがその国が内戦状態になったことから戻ってきた。
今日はこちらに通うための書類手続きをしに来ていたのだ。元々書類上ではこの学園の生徒となっており学園間の交換留学生として向こうに行っていたので手続きのみで今年卒業できるそうだ。
「二人きりでお話したいことがあります。少し付き合ってもらえますか?」
昼休みになり食堂で休憩していると、一人の女性から声をかけられた。金髪に蒼い瞳、背は俺の肩くらいで低く整っているが幼さの残る可愛さと美しさをあわせもつ女性だ。周りが気になるのかこちらに顔を向けず周りにばかり目を向けているがその顔には怒りに満ちている。とりあえず、言われるままに個室に移動した。
「単刀直入に言わせていただきますが、私との婚約を破棄していただけませんか?」
ドアを閉め、他の者が見られなくなるとこちらに振り返り目を合わせることなくそんなことを言い始めた。もちろん俺には身に覚えはないし、婚約者もいない。留学に行く前は何度かパーティーにも出ていたがこのくらいの年代は少し会わないだけで別人のように成長するのでわからなくなる人も多いので知り合いである可能性は捨てきれないが。
「あ~その前にあなたはどなたですか?」
「なっ!?婚約者の顔も忘れ・・・・・・・ってあなた誰ですか!?」
彼女はやっとこちらを見たかと思うと目を見開いて驚いた。よかった。やはり人違いだったようだ。
「自分はグレイリス侯爵が次男、アルフォード グロウリスです」
「えっ?ということはリカルド様の・・・・・」
「リカルドは異母兄です。なるほど、兄と間違えたのですね。ということは兄の婚約者のリアス嬢ですか?」
兄の婚約は学園入学直前に決まったもので、俺は留学の準備に忙しくて会うことはないが話だけは聞いていた。優秀なのは知っていたが見た目も良いとは知らなかった。
「あっはい。グレイハート伯爵が娘、リアス グレイハートです。リカルド様と間違えてしまい申し訳ありません」
「いいのですよ。よくあることですから」
俺には腹違いの兄がいる。リアス嬢が間違えたリカルド グロウリスだ。見た目は瓜二つとまではいかないがどちらも父親似でよく似ている。昔から遠目から見たときとかよく間違えられた。リアス嬢も話しかけられてから一度もこちらの顔をまともに見ていなかったので間違えたのだろう。
「弟がおられたなど聞いたことありませんでした。それに学園でお二人がいるのを見たことありませんし」
「それは、俺が先日まで留学していたからですよ。この学園に在籍はしているのですが国際交流という名目で留学していたのですよ」
「そうだったのですね。しかし、よく似ていらっしゃいますね。食堂の入り口で見つけたときはリカルド様にしか見えませんでした」
リアス嬢は先ほどの怒りはどこへやら、興味深そうに俺の顔を覗き込んでくる。大きく丸い瞳で覗かれるとドキドキしてしまう。こんな可愛らしい女性が婚約者とは羨ましい。
「あ~入り口から自分が座っていた場所まで少し距離がありましたからね。それで、婚約を破棄したいとはあのバカは何をしたのですか?」
「そう!そのことです!私、もう我慢できません!!リカルド様は婚約者の私がいるにも関わらず他の方に夢中なのです。この前のパーティーでも私をエスコートすることなくその方にベッタリでした。噂では装飾品などかなりの額貢いでいらっしゃるそうです」
「あのバカそんなことしているのですか?そりゃぁ破棄したくなりますね。いいですよ、父上に話しておきます」
涙目で話すのを聞き俺は盛大にため息をつき、額に手を当てた。
「あの、私から言い出したことであれなのですが、そのように簡単に言ってよいのですか?」
「いいのですよ。元々この婚約はこちらから無理を言って決まったものですし、あなたが正当な理由で嫌だといえば無しになる内容でしたから」
兄は頭も剣の腕もイマイチで魔力はある程度あるのに扱いが雑で大雑把。次期当主は俺をと言う者が多いのだが一応あれでも正妻の子である。俺は第二夫人の子で継承権は低い。さらに、この国の貴族は自国の血を跡継ぎにという考え方があり俺の母は先日までいた隣国の伯爵の出だ。他国の血が入っているからとあからさまに何かされるということはないが他の貴族からしたらあまり面白くはないだろう。俺としても当主などめんどくさくあまりやりたくはない。こういったことがあるので悩んだ父はリアス嬢と婚約し支えてもらうことで不満を抑え込んだのだ。
リアス嬢は幼いころから親の手伝いをして神童と言われていた。そのおかげで領主経営に慣れている。魔法の扱いもうまく、いくつか画期的な魔道具の開発にもかかわっているそうだ。他の貴族からも婚約の申し込みが多くあったのだが、父がかなりの好条件を提示し頭を下げなんとか婚約をもぎ取った。
出来が悪くても自身の可愛い子、他の貴族からの目もあり何とかしてやりたいという思いが父にはあったのだろう。というか、お飾りの領主くらいしか兄には務まらない気がする。父は最後の恩情として婚約と取り付け、その内容は婚約中も結婚後もリアス嬢の好きにできる一般的にはあり得ないようなモノになっている。
「あっ、ただ一つ。婚約破棄ではなくあのバカ兄と結婚したくないとグレイハート伯爵に話してください」
「それはどちらも同じなのではないですか?」
リアス嬢は婚約内容をよく知らないのだろう、首を傾げている。俺は笑いながらリアス嬢の手を取ると手の甲に口付けをした。
「グレイハート伯爵に聞けばわかりますよ。そろそろ昼休みも終わりますので俺は行きますね」
突然の口付けに顔を赤くしているリアス嬢をそのままに俺はその場を後にした。さて、あんな可愛らしいリアス嬢を泣かせた馬鹿をどうしてくれようか。
学園から王都内にある屋敷に帰ると父のいる書斎に直行した。
「父上、アルフォードです。ただいま帰りました」
「入りなさい」
中に入ると父は椅子に座り、書類を読んで険しい顔をしている。
「学園はどうだった?在籍期間はろくにないがやっていけそうか?」
「どうでしょうね、早々に問題がありましたよ」
「やはりか、いったい何があった?」
父は読んでいた書類をチラ見するとこめかみを抑え始めた。きっとあの書類には兄の学園での行動でも書かれているのだろう。
「はい。兄の婚約者リアス嬢から婚約破棄したいといわれました」
「………あのバカ者が………それでお前はそれをどうしたのだ?」
「兄との婚約破棄は了承し、父上に話しておくと言いましたが、婚約内容をよく知らないようなので兄と結婚したくないとグレイハート伯爵に話すよう言っておき軽く俺の存在を軽くアピールしときましたよ」
「ほぉ~リアス嬢のことを気に入ったか?ではそのように伯爵に手紙を書いておこう」
父はニヤリと笑うと新しい紙を取り出して手紙を書き始めた。
リアス嬢との婚約は“次期侯爵との婚約”であり現在は一応兄となっているが次期侯爵が変われば婚約相手も変わる。もしも、リアス嬢が兄を気に入らず“結婚したくない”と言えば兄は継承権を剥奪されることになっている。その場合俺が次期侯爵となるのだが俺はそこまで馬鹿ではないのでリアス嬢との婚約がなしになってもそれほど問題はない。なので、そのまま破棄でもいいのだがそれではリアス嬢に婚約破棄という傷がついてしまうし、俺はリアス嬢が気に入ったので破棄する気はない。まぁ今の婚約内容では結婚した後俺が動きにくくなるので少し婚約内容を見直す必要があるのだが。
「リアス嬢とはこれから学園に通いながら仲を深めるとして、兄はどうしますか?何やら色々やらかしているみたいですが」
「奴のことはもう兄と呼ばなくてもよい。王都に来たついでに裏の者に調べさせたのだが奴は家の名で金を使い込んで一人の娘に貢いでいるようだ。そのようなものグロウリス家にはいらん。金は奴に払わせることにし、学園を卒業と共に籍を抜く」
今までも呆れられていたが、兄と共に没落するつもりはなく切り捨てることにしたようだ。いったいどれだけ使い込んだのやら。学園は寮生活なので屋敷に入れてもらえなくても卒業までは生きていけるだろう。それ以降は知らないがな。俺は通う期間が短いことから屋敷から通うことになっている。家業の手伝いなどのある平民など自宅通いの者を多くいるので貴族にしては異例だが問題なく認められた。
「奴が入れ込んでいる娘だが、他の者も侍らせている。しかも、よりにもよって第2王子に宰相の子息、騎士団長の子息の3人のようなのだ」
レオナルド ラスベール様は側室の子で継承権は低く、既に王妃の子で兄である第一王子のエリオル ラスベール様が王太子になっている。それでも王族ということで貴族内での影響力は大きい。宰相の子息はモルグ ディアルド、侯爵家の長男。騎士団長の子息ガリウス イルマは伯爵家の長男。どちらも跡取りで将来有望な2人である。3人とも婚約者はしっかりいるのだが兄……もう呼び捨てでいいか……リカルドと一緒に子爵令嬢のアルマ.ラルフローに入れ込んでいるらしい。
「アルマという娘は娼婦との子の様で母親が死んで子爵に引き取られたようだ。見た目と母親譲りの娼婦の技で誑し込んだのだろう。王たちとは私から話しておくからお前はリアス嬢を奴らから守ってやれ」
翌日、割り当てられたクラスで自己紹介するとクラスメイトから質問攻めにあった。貴族や裕福な家庭の子といえど、他国に気軽に行けるほどこの世界の文明は発達していなく、他国の話が気になるらしい。まぁ侯爵子息のご機嫌取りの意味合いも多いみたいだけど。幸い、リカルドたち問題児5人とは違うクラスに慣れたのだがリアス嬢とも違うクラスなのは残念だ。
あまり面白くもない講義を受けながら休み時間には質問に答えあれよあれよという間に放課後になっていた。放課後になるとまたクラスメイトに囲まれたが質問攻めにあうことはなかった。
「申し訳ありませんがリアスさんがあなたにお話しがあるので私たちのクラブまで来ていただけませんか?」
「いいですよ。こちらもリアス嬢と親しくしたいと思っていたので助かります」
話しかけてきたのはセリス嬢、モルグ ディアルドの婚約者だ。クラスメイトに囲まれリアス嬢に会えなかったのでこれはうれしい申してだ。
「何々?リアス嬢ってリカルド様の許嫁ですよね?例の女生徒がらみですか?」
「登校初日から問題児がらみの案件とは大変ですね」
「殿下も王族としてもっとちゃんとしてもらいたいものですわ」
「嬢の大変ですよね。婚約者があのような常識外れでは」
リカルドたちのことはクラスメイト達も知っている様で皆嫌悪感をうかがわせる表情で話し始めた。
「殿下たちのことは学園内では有名なのですね。将来私の妻となる方をあまり待たせても申し訳ないですし早速行きましょうか」
「えっ?それって・・・・」
「・・・・マジ?」
「キャー!!そういうこと?そういうことなのですね?」
やはりみんな貴族ということもあり“将来私の妻になる方”と言っただけである程度のことは察してくれたようだ。
「ふふふ。正式決まったら教えますね。さぁセリス嬢、愛しの我が姫の許に連れて行ってもらえますか?」
「「「「キャー(≧∇≦)」」」」「「「「オォ―!!!!」」」」」
よっぽど鬱憤が溜まっていたのか異様に盛り上がるクラスを背にリアス嬢の所属するクラブに向かった。
この学園ではスポーツクラブに美術クラブ、魔法研究会や戦術研究会など様々なクラブがありリアス嬢は数人の女生徒の集まる茶会クラブに所属しているらしい。小規模クラブではあるが歴史もあり有力貴族令嬢が所属していることから専用のクラブ室を持っており、クラブ室に入ると顔を赤くしたリアス嬢と嬉しそうに笑う数人の女生徒がいた。
「失礼します。その様子を見ると婚約の件はご理解いただけたようですね」
「・・・・・はい。契約書類、拝見いたしました。それで・・・あの・・・昨日のあれはそう受け取ってよいのですか?」
「ふふふ。そんな可愛らしい態度をされますと思わず連れ去ってしまいたくなってしまいますね」
リアス嬢の頬に手を添え微笑みかけると恥ずかしそうに眼をそらされてしまった。
「そんな可愛らしいなんて、私はリカルド様に愛想をつかされてしますようなダメな女ですよ」
「あんな人を見る目のないダメ男のことなんて気にすることはないです。あなたは美しく聡明でいらっしゃる。貴族からも平民からも好かれ話に効くのは尊敬に値するものばかり、肌は雪のように白く髪は絹のように美しい。何よりその強い意志を感じさせる蒼い瞳は魅了の効果でもあるかのように私を魅了してやまない。嫌なら断ってもらってもかまわない。新しい婚約者を探すのも我が一族総力を挙げお手伝いする。だがどうか卒業までの間私にチャンスをいただけないだろうか?私はあなたと共に将来を歩んでいきたい」
リアス嬢は赤い顔をさらに真っ赤にして小さくうなずくと、周りの女生徒たちは自分自身のことのように喜んでくれる。
「それとセリス嬢たちも父上たちが何とかしてくれるはずです。父上は陛下とも交流が深く、国内で良い方がいなければ母上の祖国にも伝手があります。さすがに殿下と同等の地位の方をっというのはさすがに無理ですがね」
「では、誰も不幸になる方はいないのですね?」
「ええ、そうなるのはあの問題児5人だけで充分です」
「あの方たちは自業自得ですわ。こちらの憂いもなくなったことですしもっと楽しいお話をいたしましょう?私、留学先のお話が聞いてみたいわ」
俺たちのことを見守っていた女生徒の1人がそう言うとクラスと同様の質問攻めが始まった。だが、ついでにリアス嬢の趣味なども聞けてそれなりに楽しめた。
次の日には、クラスメイトが嬉々として広めたようで学園中その話でもちきりだった。ただし、問題児たちには意図的に聞かれないようにせれていたようで、こちらへの接触はなくむしろ偶然遭遇して嫌な思いをしないように学園中でそれとなく気を使ってもらえたおかげで昼食や放課後など俺はリアス嬢との楽しい時間を満喫できた。
休日にはリアス嬢の両親とも話し合いの場が設けられ結婚後の権限も半々で持つことで丸く収まることができた。また、双方の領地間での協力や取引などの交渉にもこぎつけた。セリス嬢たちの婚約破棄と新しい婚約相手については国王陛下が全面的に協力してくださりそれぞれ良い縁談を結べた。
そしてやってきました、卒業の日。午前中に式典はつつがなく終わり、今は貴族の卒業生のみで行われるパーティーの最中だ。俺は相思相愛になったリアス嬢と共にパーティーを楽しんでいると、馬鹿どもがやらかし始めた。
「私は真実の愛を見つけた。よってお前との婚約は破棄させてもらう‼」
レオナルド様が言うのを皮切りにモグル、ガリウスと続く。リカルドも続きたいようだがリアス嬢を見つけられず探している。やっとこちらを見つけると走ってきてリアス嬢の腕をつかもうとするので逆にその手をつかみひねってやった。
「アル、何をする!!この手を離せ‼俺はリアスに話があるのだ!!」
「黙れこの屑が!!お前こそ何故ここにいる。ここはお前がいていい場所じゃない!!」
「兄に対してなんて口の利き方だ‼俺がどこにいようとお前にとやかく言われる筋合いはない!!」
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、まさか勘当されたこと知らないのが?リカルドは顔を真っ赤にして腕を振り払おうともがいている。もう触っているのも嫌なので手を離し蹴り倒してやった。
リカルドが騒いだうえに盛大に倒れたことで周りは王子たちではなくこちらに注目していた。あまりのことにギャーギャー騒ぐもの、唖然としているもの様々だが、半分以上はリカルドをあざ笑っている者たちだ。王子たちも婚約者たちとの話もせずこちらを見ている。
「くそ!!こんなことしていいと思っているのか⁉父上に報告して罰してもらうからな!!」
「やっぱりわかってないんだな。お前、卒業式が終わった時点で勘当され平民になったんだがな」
「そんなはずあるか!?俺は次期侯爵のはずだ!!」
「父上からの手紙見てないのか?どうせ内容を軽んじて読まずにいたんだろ。お前が家の金を使い込んだことで父上が決めたことだ。ああ、リアス嬢のことは気にしなくても大丈夫だ。すでに俺との婚姻も整って、式を挙げる準備も進んでいる」
手紙については心当たりがあるのだろう。顔がだんだん青くなっていっている。
「どういうことだ⁉リアスは俺の婚約者だったはずだ」
「リアス嬢との婚約は次期侯爵との婚約であってお前との婚約ではない。お前が何も問題を起こさず後継者のままならお前の婚約者だったのだが今は俺の婚約者だ」
リアス嬢はリカルドから身を隠すように俺の背にしがみついてきたのでリカルドに見せつけるように抱きしめキスをした。周りの野次馬はキャーキャーと黄色い声を上げたが構うことはない。リアス嬢はそれが恥ずかしかったようで顔を赤くして俺の胸に顔を隠すようにして抱き着いた。
「わかったか?ここは貴族のみのパーティー、お前がいて良いとこではない。………誰かこの無礼者をつまみ出せ!!」
俺の声を聴いた2人の給仕がリカルドの両脇を固め連れて行った。もっと抵抗するかと思ったが、意外とすんなり連れていかれる姿に俺はとどめを刺すことにした。
「それとお前が使い込んだ金はグロウリス家では払わないから自分で何とかしろよ」
それを聞いたリカルドは歩く気力も無くし崩れ落ちたが、給仕に支えられ抱えられるように会場を後にした。
「ここまで愚かだったとは、あの時アルフォード様にお話しして良かったです」
「俺のことはアルと呼んでと言っただろ。聞き分けのない口は塞いでしまうぞ」
俺はリアス嬢の口を塞ぐ為にもう一度キスをした。
「・・・・・・もう。皆さんが見ていますよ///」
「いいじゃないか、俺たちの愛を見せつけてやろう。それより、呼んでくれないのかい?」
「………アル様……////」
「リア、愛しているよ」
「私もです。アル様」
俺たちがイチャイチャとピンク色の雰囲気を出しているとレオナルド様達がこちらにやってきた。
「・・・・・・今の話は本当なのか?リカルドはこれまで俺によく尽くしてくれていたのだが・・・・・」
「本当のことですよ。そんなことよりご自身のことを心配した方がいいのではないですか?皆さんにもそれぞれ手紙が来ているはずですよ」
俺の言葉に3人とも明らかに動揺している。リカルドの仲間というだけあり皆読んでないようだ。俺は近くにいた給仕に3人の執事を読んでもらうことにした。俺はリカルドのことしか知らないが執事なら知っているだろう。
「それと3人とも婚約破棄を話していたようですが、そんなもの当の昔に破棄されていますよ。既に令嬢たちは別の婚約者がおりますので今更気にする必要もなく真実の愛とやらを貫いてください」
いつの間にか彼らの元婚約者達は新しい婚約者を伴い俺の後ろに立っていた。それも態々彼らに見せつけるように必要以上に抱き着き、蔑んだよう目で見つめている。というか誰も彼もアルマ嬢なんかより美人なのに何故あんな娼婦もどきを選ぶのだろう。
「レオナルド様、よかったではないですか。これで誰にも気兼ねなく一緒にいられます」
「そうだな、皆俺たちのことを祝福してくれるだろう」
「そうですよ。レオナルド様は王となり、私は王妃、モルグ様とガリウス様に支えてもらって良い国を作っていきましょう」
何やらアルマ嬢は妄言を吐き始めた。あんなこと言ってどうなるかわかっているのだろうか?もう王太子であるエリオル様がいるというのに王となるとかクーデターでもする気なのか?野次馬も皆侮蔑の目で見つめている。つうか俺の皮肉はスルーですか?あっ馬鹿だから理解できてないんですね。
「あんたら、そんなこと考えているのか?捕まりたいのですか?」
「ふん。兄上より俺が王になった方がいいに決まっているだろう。父上も今にそのことに気づき俺を王太子にするはずだ」
あ~マジで馬鹿だ。もう罰は避けられないだろう。思わず「あんたら」とか言っちゃったがこいつらに敬語なんて使わなくてもいいかな。額に手を置き、首を振っていると彼らの執事らしき者が来てそれぞれ手紙を渡した。なぜかアルマ嬢にもあるようだ。それを読むとレオナルド様は怒り手紙を破り捨て、モルグとガリウスは真っ青な顔で倒れこんだ。アルマ嬢は髪を掻きむしり「・・・そんなはずない・・・私は王妃になるの・・・・」とぶつぶつ言っている。
後で分かったことなのだが、モルグは継承権を剥奪、魔力を封印されて魔法使いとしての未来絶たれたらしい。もちろん父親のように宰相になるために王宮文官になることもできない。ガリウスも継承権を剥奪された。利き腕をつぶされ騎士になることもできなくなった。レオナルドは王族から籍を抹消され平民まで地位を落とされはしなかったが男爵の地位を与えられると辺境の砦にお飾りに指揮官として連れていかれた。アルマはレオナルドを唆しクーデターを企てたとして一族全員処刑された。
平民となったリカルドはろくな職につけず使い込んだ金を返すため男色家に体を売っていると風のうわさで聞いた。俺と似た顔で男に抱かれているとか鳥肌が立つ。出ていく前に顔を焼いておけばよかっただろうか。
そして俺なのだが卒業後3カ月後にリアと式を挙げ、領地で色ボケ夫婦と言われながら幸せに暮らしている。たまに他国の血が混じっていると蔑むことを言われることもあったが、言い返したところで意味はなし実害はないので無視している。
数年後には子も生まれ、男2女1の子ができた。子供たちはとても可愛くリアと同じくらい愛している。ただ問題は娘がエリオル様の子と同じ年に生まれたため婚約の話が来ている。勿論喜ばしい話なのだが父親としては面白くない。リアに話したら笑われてしまったが可愛い娘を手放したくはない。