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とある王子の憂鬱なる日々  作者: 九透マリコ
幾重の星ノ物語
7/28

エピソード7.(彼女視点)

ありがとうございます!


 恋をするなんて、一生ないと思ってた。

 廻りがわたしに求められていたのは、天高く輝く神々からのお告げでしかないのだから。




「なっ!?い、いきなり、なにをっ」

 大胆にも程があるぞ!?と言いたいところだったが、抗議するよりも更に力強く抱き締められる。僅かな隙間から上を見上げれば、腕の怪我が痛いのか額に汗を浮かばせながらも緊張感を孕んだ婚約者殿の顔があった。

 ……こんな表情も出来るんだな、お前は。

 そんな言葉が口から出そうになって、ぐっと飲み込む。初めて出会った時から、わたしの事になど関心もなく、涼しげな表情で受け流してばかりなのに。

 なあ、どうやったらお前にそんな顔をさせられるんだ?――そう願わずにはいられない。

「……」

 こんな状況で、何を考えているんだろうな。全く、わたしは。


 でも。


 この体温をもっと感じていたいと思うし、出来るのならばもっとこの男に触れていたい。そう思うのは、やはり、わたしがこの男に惚れているからだろうか?

 好き、という概念がわたしには分からない。

 だが、傍にいたいと思えるのはこの男だけだ。

 互いの呼吸が伝わるほど近すぎて、顔が火照るのを隠したいが故に地面へと視線を落とす。それと同時にゾッとした。

「……血が」

 見た目では、そこまで傷は大きくないのに!?

 婚約者殿の衣類を濡らして尚、したたり落ちる血に愕然として顔を上げる。

「だ、大丈夫なのか?」

 こんなにも血が流れているのに、大丈夫であるはずがない。

 だが、そう問いかけるしかないわたしのその言葉に答えたのは、婚約者殿ではなくようやく姿を見せた敵だった。


「大丈夫よ。ちゃんと、位置はずらしたもの」


 その声は、一切感情が見えなかった。女の声であると気付くと同時に、二人で後ろを振り返れば、一見しただけで物騒な雰囲気の見た事もない形状の代物をこちらへと向けて近付く女がそこにいた。

「お前は!」

 思い出すまでもない。

「両替商と共にいた女だな!?」

 風に揺れる亜麻色の髪。そして、眠たそうにみえる垂れ目がちな特徴のある緑黄色の珍しい瞳。

 そう、彼女は紛れもなく両替商の仲間として行動していた人物であり、わたしにとっては両替商での一件の被害者だった。

「『奴隷』が私たちに何用ですか」

「お、おい!」

 こいつは、皮肉しか言えんのか!?また、さっきのような攻撃を受ければ今度こそ危険だろうに!

 いい加減にしろ、と言ってやろうとした矢先、視線だけを寄越して、彼女から隠すように後ろへと追いやられてしまった。

「随分と大切にしているのね?まあ、どうでもいいけど。この火器をご存知かしら?これはね、銃という名の一種の武器よ。ここからたまを放って、目標に当てる。ね、簡単だし凄いでしょう?」

「確かにそうですね。遠距離からでも確実に当てる事が出来るのならば、攻撃の幅が広がるという点で魅力的です」

 ただ単に、婚約者殿は事実に対して事実を述べただけだろうが、女は尾行していた時のように呆けてはおらず、うっすらと笑みを浮かべる。その作られた愛想が、何故か逆に恐ろしく感じてしまうのはわたしだけなんだろうか。

「貴方なら、そう言うと思った」

「私の事をご存知で?」

「ええ。私のあるじが、貴方とはとても良い関係を持てるだろうって。いずれ会いたいとおっしゃっていたわ」

 さして、楽しい会話だとはとても思えんが。むしろ、危険過ぎて不安になる。ああ、この位置から婚約者殿の表情が見えないのが何とも悔しい。

 彼女は、クスクスと楽しげに笑ってふわりと揺れる亜麻色の髪を耳へとかけた。

「いずれ、ね」

「ええ。その前に、見られたからには容赦出来ないみたいなの。だから、せいぜい殺されないよう祈ってるわ。さあ、行きましょう?」

 こんな状況で、何が楽しいのか分からん。この女にも、それなりの感情があるのだというのだけは十二分に伝わってくるのだが。でも、それを素直に喜べないのは、まさに死刑台へ向かう宣告のように聞こえた所為だろうか。




「なっ!?ど、どういう事だ?俺は、目撃者を捕まえろと言っただけだろうが!どうして、この方を……しかも、怪我まで!!さっきの異様な音は、まさかこの方に……っ!!」

 おお、見るからに真っ青だ。

 うむ、まあ分からなくもない。『奴隷』の女が目撃者を連れて戻ってきたと思ったら、まさか自国の王太子だったのだからな。これだけ取り乱すのも無理はないか。

 むしろ心配すべきは、それに比べて――

「……」

 わたし達が現れても何も反応一つしない取引き相手とやらの方だ。そもそも、取引き相手は『奴隷』の女を入れると二人のみ。しかも、片方は素性を隠したいのだろうが、まっさらに見える白い襤褸のような外衣を着て目深くフードを被っている。これが、よく見かける外衣だったら分からんでもないが、真っ白すぎて逆に目立っているので不可解だ。

 こいつは、目立ちたくないのか注目を浴びたいのか、どっちなんだ?

 何にせよ、体格すら分からない外衣を着込まれているから、どれだけ注意すべき人物かすら分からないのが事実だが。

 これは、実に厄介だ。

 人数が少なくとも、この外衣の者も先程と同じ火器を持っているのだとすれば、わたし達はおろか両替商の連中も全員死ぬ事になりかねないし。そうなれば、証拠すら残らず回収されておしまいだろう。

 さて、どうする?そう思って、婚約者殿を見つめれば当然のように無視される。ここは、先程と同じく黙っておけって事は分かるがな。分かっておったが、明らかにこの男はわたしに対して態度が冷たい。

「あなた、その帽子が先程から目障りだわ」

「っ!」

 婚約者殿ばかりに気を取られていたから、ボソッと小声で呟かれた後に不意を突かれて息を飲む。

 せっかく髪色を隠すためにとアメリアから貸してもらった帽子を脱がされ、冷たい風と共に夜色の髪が舞い散った。

「おっ、お前はっ!」

 あー、しまった。やはり、大男には気付かれてしまったか。

 内心でため息をはき出すが、もう時既に何とやら。仕方あるまい、ここは潔く開き直るしかないだろう。

「バレてしまっては仕方ない。お前達の悪事、しっかと目に焼き付けたぞ!」

「チッ。会長、あの女が先日の」

「何!?そうか!」

 やはり、こうなってしまったか。

 結局、こやつらの悪事はこうして成敗出来なかったから、あまり婚約者殿には知られたくなかったというのが本望。なので、こっそり視線を送れば。

 うわぁ……、あそこまで冷めた目が出来るか、普通?

 例え、これが演技だとしても相当嫌いな相手にしか向ける事など出来ないだろう。

 ……はあ。ままならんな、この距離感。

「思い出したわ。貴女、あの時の面倒事を起こしてくれた子ね」

「っく、そちらこそな」

 そもそも、誰のおかげでわたしがあんな大立ち回りをしたと思ってるんだ。ええい、腹立たしい。

 そんなちょっとした騒ぎも、婚約者殿にとっては全く意を介さない事のようで。

「ご機嫌よう、ジョアン殿。これは一体どういう事か、説明していただいても宜しいでしょうか?」

「……っ」

 わたしの事など無かったかのように、両替商へと話しかけた。

 拘束されている上に腕の傷が相当、負担になっているのだろう。白い肌に更に白みを加えて汗ばむ婚約者殿に、本当は今すぐ無理をするなと言ってやりたい。

 ――相当、傷が痛むだろうに。

 わたしは、この男に守られる事しか出来ないのか?星詠みになったのは、『誰か』を守りたいと願ったから、なのに。

「その必要はない、と言っております。取引きの続きを、と」

「し、しかしっ、殿下がいては取引きも何も」

 両替商は、婚約者殿の登場でどうやら気持ちが揺らいでいるとみえる。まだ油断は出来ないがそれはつまり、女が言った、殺されぬよう何とやらという話は白紙になったと思ってよいのか?生かす価値もないなら、『殿下』とは呼ばない気もするしな。

 ここへ連れてこられて、婚約者殿はあの椰子の木のような大男に拘束されて、わたしは引き離されてどういう訳か『奴隷』側によって拘束されてしまっている。

 不安、はあるが……ここで弱音を吐くほどヤワじゃない。

 それをどう思っているかすら全く表情からは読み取れない婚約者殿が、動けないなりに身じろぎをして両替商へと詰め寄った。

「今更、私の存在を気にしてもあなたの罪は変わりませんよ。それよりも、あの方々と何を取引きされていたのかという事を、是非、教えて頂きたいと思うのですが」

「そ、それは」

「知りたいのなら、この女を殺しなさい――と言っております。貴方がここまで堕ちてからだ、と」

 はあ?なっ、何を言って!?

 こいつらは、一体、何を考えておるのだ!?

 しかも、婚約者殿に殺すよう指示した標的は紛れもなく……この、わたし。

「……っ」

 身の内から、一瞬だけ悪寒が走る。



 この男に、殺される――?



 ……わたしが?


 この場にいる全員の眼差しを受け止めきれず、ただ縋るように婚約者殿の顔だけに視線を流す。わたしを殺しても、なに一つ得などないぞ!?

 情報と引き替えの命、なんて。

「殿下、ここは奴らの話に乗るべきです。この国にとって、彼らの保持する武器や情報は戦を有利に進める事が出来るのです。彼らは良き相手(パートナー)となりましょう。それに、あの女は先日私どもの店で喧嘩騒ぎをした卑しい者。ぜひ、殿下からも処罰を」

 おいおい、自国の太子を殺したくないのは分かるが、わたしを貶すのはまた別だろうが!

「そうですね」

 両替商に言われて、婚約者殿がようやくアマデウスの深い緑色の瞳をこちらへと向けた。むしろ、捕まってから、初めて視線が絡んだ事に驚きを隠せない。そこまで徹底して無視を決め込まれているわたしの気持ちを察して欲しい。

「……」

 ……ぐぬぬ。無言でしばらく見つめ合うが、この男の考えが全く読めん!初めて会った時から、他人に感情を見せない男だという事は分かっていたが、この生きるか死ぬかという状況下でこれはさすがにキツい。

 所詮、わたしは星しか詠めない女なのだ。それは、星詠みになった頃から自覚している。

 ゴクリと誰かが喉をならした気がした。

 コンテナに囲まれた静けさの中で、全員が婚約者殿、……いや、ヒューバート殿がどう決断するのかと見守っている。

「時間だ。言え、と言っております」

「……殿下」

 わたしのような役立たずを、この男が必要だと認識してくれているはずはない。

 ああ、そんな事はもうとっくに分かっておるのだ。


 だったら。


 ――だったら、もう答えは一つしかないではないか。

「殺せ。お前に殺されるなら本望だ。わたしは、天に昇って星になろう」

 今まで、執拗に絡んで悪かったな。星の運命(さだめ)に甘えて国の為とはいえ、少しでもお前の傍にいたかったのだ。わたしの我が儘に付き合ってくれてありがとう。

「……」

「……?どうした?」

 うん?何となくだが、今、微妙に目を見張ったような?

 何に驚いたのかまでは分からないが。

「分かりましたので、拘束を解いていただいても宜しいでしょうか?」

「わ、分かりました!おい、殿下を放せ!」

「はい!」

 何なんだ、一体。今度は、少し呆れた顔をしてないか?って、あれ?わたし、いつの間にかあいつの表情が読めてる?いやいや、気のせいだろう。

 それに、こんな……最期になってから分かっても。

「ひと思いに死ぬ方が楽ですので、どなたか武具を」

「ど、どうぞ!」

 そう言って、両替商の部下に差し出されたのは一本の太刀だった。あれが、わたしの肉と魂を切り離す道具(もの)

「ありがとうございます」

 あの青白い刃の部分に、こちらは背筋が凍るほどゾクリとしているのに、反するヒューバート殿はとても晴れやかな笑みを湛える。わたしが一目惚れしただけある整った顔は、何とも華やかでかっこいい。

 ああ、いかんいかん。わたしは、もうすぐ星となる身。

 こいつへの恋心など、もう――

 勿体ぶるようにゆっくりと歩を進め、ヒューバート殿が傍へと近付く。わたしを拘束している『奴隷』が後ろで笑っているような気がした。

「……覚悟はいいですか?」

 こういうのを、何というんだったかな。

「終演、という訳か」

 最期の何とやら、か。いや、そもそもトリエンジェは『(そら)』が全てで宗教たるものなどないのだが。

「一つだけ言っておきます。都合良く利き腕を撃たれているので、手元が狂ったら申し訳ありません」

「はぁ?」

 こいつは、何を言って?と一度ギュッと閉じた目を思わず開いて顔を上げれば、ヒューバート殿は太刀を振り上げながらも、何故か口元に先程とは違う笑みを携えて。


「……っ!!」







 ――正直、何が起きたのか分からなかった。



 ヒューバート殿が振り下ろした刃は、わたしではなく傍にいた『奴隷』へとズレていて。その直後に、先程彼の腕に傷を負わしたあの火器の不快な音が耳へと伝う。

 あっ、と思った時には倒れるように引っ張られて、わたしは再び男の胸へと飛び込んでいた。

 それら全てが、息をするよりも早く見えて呆然としてしまう。

 だが、時はぼんやりとする事を許してはくれぬようで、近くから刃がぶつかる鈍い音で我に返った。

「なっ、どういう事だ!?」

「こういう事ですが?」

「そっ、そうじゃなくて!」

 今は、そういう屁理屈などいらんというのに!

 先程まで、絶体絶命だった男の表情とは思えないほど飄々とした態度を取られてムッとする。

「はははっ!お姫さん、申し訳ないっスけど、うちの殿下はこんなヒトなんですよ」

 そこへ、わたし達を庇いつつ『奴隷』と戦いながらもへらりと笑ったのは、ヒューバート殿の従者トーマス・ロプンス殿だった。

「だから、どうして」

「どうして、私達がここにいるのか、という事ですか?」

「シルヴィオ」

 絶句に近い形で呟けば、少し遠い場所で、両替商の部下二人を簡単に倒したシルヴィオが言葉を続ける。平素時だったら、情けない顔でわたしの後ろばかりをついてくる癖に、今だけは本物の騎士のようでかっこいい。くそ、シルヴィオのくせに。

「それは、うちの殿下の悪巧みが、わーおぅ!このお姉ちゃん、結構しぶといので集中しまーす!」

「ダシに使われた気分だわ、っと」

 『奴隷』はそう言いながらも騎士の剣を短剣でいなして、距離を取る。そうだ、もう一人危険人物がいるはずだ、と辺りを見回したが見つからない。

「おい、あの外衣のやつは?」

「ふふっ。どうやら、無事にここから離れられたようね」

「さすが『奴隷』という事ですか。己を捨て駒扱いされているというのに、あなたは何も感じていないようですね?」

 闘いに巻き込まれないように、二人から距離を取りながらもしっかりと毒舌を吐く辺り、ヒューバート殿はまだ痛みには耐えられそうだ。


「な、な、ななななにが一体、どうなってんだっ!?」


 そこに、大きな声を張り上げたのは、ようやく正気を取り戻した様子の両替商だった。

「ジョアン殿とは、これからも末永くお付き合い出来ると思っていたのですが、非常に残念です」

 その割には、何だかすごく楽しそうだぞ。

「でっ、殿下!こ、これには、色々と事情がございまして!」

「言い訳は結構。事情は、後ほど伺います」

「……っ、くそっ!」

 ばっさりとヒューバート殿に話を切られて、両替商が舌打ちをする。ようやく終焉が近付いたのかとホッと胸をなで下ろした――瞬間、両替商は持っていた鞄から『奴隷』と同じ形の火器を取り出すのが見えた。

「も、元はと言えば、おま、お前がっ!!」

 あまりの取り乱しように驚くが、それよりも筒の先が、まず間違いなくわたしへと向けられている事に息を飲む。

「っ!!」

 そこからは、まるで動きの遅い活劇を見ているような気分だった。

わたしを守ろうとヒューバート殿が相手に背中を向けて抱き締めて。ロプンス殿が、切っ先一つで交戦していた『奴隷』から距離を取って、牽制しながらもこちらへと走り寄る。

 そして、両替商の後ろの方で大男と小競り合いをしていたシルヴィオと目が合って。



「私の妹に手を出すなぁぁあああああああっっっ!!!!」



 蒼い双眸を光らせて、大男にヴェールを奪われながらもその胴に剣を打ち込み、両替商の背中へと跳び蹴りをした。


 ああ、全くもう。


 そんな一連の出来事に、よくやったとは言えない辺りが実にシルヴィオらしい。だからこそ、置いてきぼりにしてきたというのに。分かってない、分かってないな!あいつは全く。

 シーンと静けさが戻ったコンテナばかりの袋小路で、傍に来たロプンス殿が呟いた。

「……すげぇ、シルヴィオ三段階活用じゃん」

 プッと笑ってしまったのは、致し方ない。さっそくヒューバート殿に小突かれてはいるが、絶妙すぎて笑えてしまった。普段は間抜け面を晒す頼りない男、なのに大事な時では凜としてかっこいい。それが、たかが外れるとただの兄馬鹿になってしまうのだからなぁ。

 それを三段階という言葉で表してしまう辺り、ロプンス殿はさすがヒューバート殿の従者である。

 急いでわたしの元へと駆け込んでくるシルヴィオと入れ違いに、ヒューバート殿が歩き回りながら辺りを見回す。

「どうやら、全員気絶しているだけのようですね」

 その声には、怪我がなくて良かったともとれるが、はっきり言ってこの男にとってはどちらでも関係はなさそうだ。

「申し訳ないけど、私は元気よ」

 その声に、ドキリとしたのはわたしだけではないようで。

「殿下!」

 コンテナの陰から現れたのは、あの『奴隷』の女だった。ロプンス殿が、直ぐにヒューバート殿の元へと駆け寄って彼女との間に立つ。

 そういえば、確かにあの時、ロプンス殿は己の主を守る為にこの女を退けただけで、倒してはいなかったか。

「大丈夫です、トーマス。その剣を下ろしなさい。あなたは元々、ここへ残るつもりだったのでしょう?」

「あら?気が付いていたのね?」

「否が応でも。さしずめ、あなたの役割は私とあなたの主人との繋ぎですか」

 シルヴィオの背中から見える『奴隷』の女は、まるでそれが名誉だとばかりに、その身を貶められても鮮やかな口元を綻ばせた。

「それもあるわ。そして、もう一つは……これ。貴方にうちのこの商品を宣伝するよう言われているの」

 それは、あまりにも愉しそうで。太陽の光に反射して黒光りする火器にぷっくりとした唇を寄せてキスをする。それは、まるで歌劇に出てくる色街の女みたいに見せつけるかのように。

「随分、私を買って下さっているようですね」

「ふふっ。ご主人様は、何でも存じ上げていらっしゃるわ」

 あまり物事を深く考えない方のわたしとしては、これほど物騒な会話はない。

「……はあ」

 何にせよ、今日のこの一日はまるで一千年もの月日を過ごしたような気分だった。


今日で終わると思ってたら、後一話残ってました……

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