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とある王子の憂鬱なる日々  作者: 九透マリコ
スターダスト・プログラマー
23/28

エピソード5

 『むかしむかし、この国にそれはとても醜い顔をしたお姫様がいました。

 お姫様は生まれながらに顔が醜く、そのことを憐れんだ王さまと王妃さまはお姫様を甘やかして育てました。

 お姫様が十五の誕生日を迎えた日のことです。

 お城にとても美しい女の旅人がやってきました。

 女は世界中を旅してきたといい、砂漠しか知らないお姫様たちの知らなかったことをたくさん話して聞かせてくれました。旅人の女の話はとても面白く、時には旅先で買った物や貰ったという変わった土産なども見せてくれました。

 そして、女自身もまた不思議な魅力を持っていて、お姫様はたちまち女が気に入りました。

 お姫様に甘い王さまと王妃さまの計らいで女がしばらく滞在していたある日の事です。

 お姫様は女の目を盗んで、とりわけ女が大事にしていた宝石を一つ盗んでしまいました。

 女は直ぐに気が付きました。

 ――お姫様、お返し下さい。

 女はお姫様に訴えます。

 ですが、お姫様はあろうことか初めからその宝石は自分のもので、女が盗んだと王さまと王妃さまに言いました。

 お姫様に甘い王さまと王妃さまはすっかりそれを信じて、女を処刑する事に決めました。

 女は無罪を主張しましたが誰も信じてくれません。

 やがて、女を処刑する日がやってきました。

 王さまと王妃さまと共にやってきたお姫様は女が大事にしていた宝石も持ってきていました。

 すると、それを見つけた女が突然、笑い出しました。

 お姫様たちは気持ちが悪くなって女が狂ったのだと思い、早く首を刎ねるよう命じました。

 ――憐れな姫よ。

 断首される寸前、お姫様だけに女の囁きが聞こえました。

 驚いたお姫様が女を見ると、何故か遠くの祭壇に自分が座っているのが見えました。

 けれど、その顔に浮かぶ表情は今のお姫様と同じではなく、憐れみと嘲りが混じった微笑みでした。

「――――っ、ヒ!」

 自分の身に一体何が起きたのか分かりません。いきなり首に鋭い痛みが走ったかと思うと、それは全身に拡がって呼吸が上手く出来なくなってしまったからです。

 お姫様はパニックになって悲鳴を漏らし、やがて泡を吹いて絶命しました。

 処刑台に転がる生首。

 その瞳は閉じる事無く、驚きに満ちていました。

 歓声が沸く広場。

『お姫様』はそれを一瞥すると、直ぐにその場から出て去っていきました。

 その手には己の大事な宝石を握って。

 そして、しばらくして『お姫様』は散歩に出ると言ったきり、二度とお城に帰ってはきませんでした。




「で、ここは王家の墓地とされていて『首なしマリー』は今も彷徨っているといわれている」

 そう言い置いて、エトワール・アルフ・ワ・ライラは腕を組みながら感慨深げに瞼を閉じた。

 途端、やけに洞窟の静けさと寒さに顔を青くした『奴隷』である女、ジェナが腕をさする。

「……っ、――っ!……ちょ、ちょっとぉ!」

「なんだ?」

 小首を傾げたさまは本気で理解していないようで、ジェナは口をぱくぱくとしながらキッと目の前の女を睨め付けた。まさか、いきなりホラー話を聞かされるとは思わなかったのだ。

「あ、あ、あなたね!いきなり語り出したと思ったら……まさか、ここって曰く付きなの!?」

 実は怖い話は苦手だとは言えず、砂の国の王女の理不尽さに憤りを感じずにはいられない。だが、先程よりも更に恐怖心を煽られた今は背後を気にせずにはいられなかった。

「クラールク王国の伝記を読んだことがないと言うから話しただけなのだが?」

「伝記と今の話に何の繋がりがあるのよ!」

 暇つぶしに、と歩きながら語られたのは伝記とはいえないゾッとする話で。伝記物なら伝説の宝や代々の国王の武勇伝だろうと思うのが普通である。

 ――それなのに、この女ときたら。

「だから、ここは大昔王家の墓だといわれていて、不思議な女の宝石を盗んだ本物のマリー王女のご遺体も眠っているんだ」

 そんな追加情報はいらない。正に、どん引きに値する。ジェナは眉根を寄せてエトワールに言い募ろうと人差し指を突き出したが、ふと疑問に思い当たった。

「そうじゃなくて!……っ!……でも、待ってよ。そのお姫様は殺される寸前で中身が入れ替わっただけなんでしょ?なのにどうしてそっちが本物のお姫様だって分かったの?」

「あの話には続きがあってな。マリー王女と入れ替わった『お姫様』は、女の遺体を王家の墓に納めるよう国王たちに指示したらしい。そして、自分こそがあの旅人だと彼らに明かした。はじめ国王たちは信じなかったが、彼女の行動や言動の全てが甘やかして育てあげた己の娘ではないと分かった。何より、不思議な事に醜かった姫の顔が日に日に見違えるほどに美しくなっていったんだそうだ」

「……そんなことってあるの?」

 もはや、旅人の女はただの人間ではないと言っているようなものだ。だが、この世界にそんな不可思議な人間はいないはずだ。

 己の主――ロセでさえ、そんな真似事は出来ない。

「旅人の女は不思議な力を持っていたんだろうな。恐ろしくなった国王たちは、そうして最後は自分たちが可愛がっていた姫を殺める事になった。この話は教訓としてこの国で語り継がれているという」


 “不思議な力”


 あっさりそう言ってくれるが、ジュナには到底受け入れられない。――否、今までなら受け入れられなかっただろう。

 何故ならば、この洞窟で既に不思議な事に遭遇しているのだから。

「じゃあ、居なくなったって言うのは」

「それは建前だ。その方が、神秘性があるからな。本当は殺して、旅人の女の亡骸同様、ここへ埋葬されていると聞いた」

 人智を越えた力には到底誰にも抗えない。

 だから、当時の王たちは入れ替わった二人の遺体を丁重に埋葬する事を選んだ。

 エトワールとの会話を進めながら、ジュナはぼんやりと考えていた。


 己の主が急に海を渡った理由。

そして、日数を重ねて回りくどい手順を踏んでまでこの洞窟に足を踏み入れた目的を――――


「じゃあ、ここには二人ともいるわけ?」

「そうなるな」

 この世界にはいまだ不思議な場所が存在している。

 クラールク王国の古代遺跡は最も有名だが、聖ヴィルフ国には女神に纏わる遺跡が多く存在しているし、他にも人間の力では成し得ないと言われている深い湖に眠る城や断崖に建てられた城が何処かの国に存在しているらしい。それに、そこには存在しないはずの不思議な動物たちがこの世の何処かにいるという。その話はまだ両親が二人とも健在していた頃の、幸せに満ちた生活を送っていたジュナが父からよく眠り唄として聞かされていたものだった。

 ――お父さんは一時期滞在していた吟遊詩人に教えてもらったって言ってた。

 それは今もジュナの中で思い出という形で残されている。

 ――そういえば、ロセ様に買われたのはお父さんの唄を謳っていた時だっけ。

「わたしはクラールク王国の姫君とよく夜会で会うから、暇つぶしのネタで色んな話を聞かせてもらっているんだ」

「高貴な人間の暇の潰し方ってどうかしているわ。そういうものばっかりなの?」

 商店を営んでいた両親を火事で失い、そこから女神に見離されたかのような転落人生を歩んできたジュナがロセに買われたのはちょうど一年前のこと。ロセの部下たちは個性が強い者たちばかりで慣れるのに苦労したが、誰一人ジュナを『奴隷』扱いしてこなかった。まるで、昔から共に居たかのように。

 ロセの傍はとても居心地が良い。

 ジュナにとってそれは一番の幸せだった。

「ああ、わたしもトリエンジェの神話や伝説を話したぞ。興味があるなら聞かせるが?」

「いらないわよ!じゃなくて!どうして、こんな時にそんな話をするのかって言いたいの!べ、別に怖くないけど、この先いつ仲間に会えるか分からないでしょう!?」

 だからこそ、早くロセたちと合流したい。

 恐ろしく美しいロセの顔を見て、早く安心したかった。

「仲間より先に墓場を見つけたりしてな」

 なのに、トリエンジェの皇女に水を差されて一瞬、絶句してしまう。

「なに上手いこと言ったみたいな顔しないでよ!ああ、もう……ほんっと最悪。どうして、よりにもよってあなたなの」

 エトワールと初めて会った時から思っていた事がある。


 ――この女とは気が合わないわ。


 それは今も毎秒同じ思いだ。いつだって、エトワールはジュナの感情を掻き乱してくるのだ。自分とは真逆の人生を歩んできた幸せなお姫様。先程の話ではないが、人生をほぼ奴隷として生きてきたジュナの思い描く『お姫様』とはエトワールのような者をいう。

 何の不自由なく衣服を選べて、苦労なく美味しい食事にありつける。雨が降れば誰かが傘を差してくれて、雷が轟けば安全な城に戻れば良い。

 エトワールは自分とは真逆の人間だ。


 だから、一生わかり合えるはずはない。


 ――それはあの王子様も。

「うん?何か問題でもあるのか?」

「別に。こっちの話よ」

 このまま会話を続けるのは不毛だと悟り、ジュナは今は土埃にまみれた自慢の亜麻色の髪を手で流して息をついた。

「ふむ、そうか。それより、ど、ジェナ」

「何なの?」

 奴隷と言いかけたエトワールを睨み付けたジェナに、エトワールが徐に人差し指を天井へと向ける。

「あそこに階段があるのが分かるか?」

「あそこって……嘘でしょう!?」

 その指が指し示す場所へと目で追いかけたジェナが見上げた先には暗闇の中、土塊が空を隠すように覆っていたが人一人が入れる狭い階段が確かにあった。


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