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冬が好きなスズメさん

作者: トニー

 「ことしの冬は長いわね」


 焚き火を囲んで、誰かの奥さんが口火を切ります。


 「そうよね、長いわよね」


 応じるのは、これまた誰かの奥方です。


 「女王様が、塔から降りてこないって、王様いってたよ」


 誰かの子供がそう言います。


 「かいけつしたら、ごほうびだって、いってたよ」


 続くのは、これまた誰かのご子息です。


 「解決かいけつ、と言われてもなあ」


 誰かが困ったように、悩みます。


 「誰か理由を知ってるかい?」


 周りを見渡すどなたかに、応える誰かはいませんでした。


 みんなみんな、困っています。

 冬が長いのは困ります。

 食べられるものが減ってゆきます。

 薪にするので木々も減ってゆきます。

 まいにち雪かきと雪下ろしがたいへんです。

 寒くてリュウマチだって痛みます。


 「ようし、ここは俺がひとつ、女王様に理由を聞きに行ってこよう!」


 筋骨たくましい大工の男が、そういいます。


 「こらこらタゴさん、あんたがいなくなったら、誰がうちの屋根の雪下ろしをやってくれるんだい」


 とあるご老人が、文句をいいます。ご老人は腰を痛めています。

 でも降りやまない大雪は、ご老人の家の屋根に積もっていきます。

 ほうっておいたら、いつか家がつぶれてしまいますが、ご老人に雪かきは重労働です。

 だから隣近所のタゴさんが、いつも代わりにそれをやってあげていたのです。


 「そうだよ、タゴさん。あんたに居なくなられちゃ、うちも困るよ」


 タゴさんは体力があって、そしていい人です。

 隣近所のさらに向こう隣の家の雪下ろしも請負っていました。


 女王様のいる塔は、国のまんなかにある、高い山のその上です。

 交代しない理由を女王様に聞くために、そこまで行こうとすれば、数日間は帰ってこれません。

 だから彼がそんな何日もかかるような旅に出ることには、みんなが反対しました。

 タゴさんは、頼まれたり縋られたりすると断れないいい人だったので、諦めました。


 「よし、じゃあここは一丁、あたしが一肌脱ごうかね!」


 気立てのいい居酒屋のお姉さんが、そういいます。


 「いやいや待っておくれよランちゃん。あんたに居なくなられちゃ売り上げが激減げきげんだよ。うちの看板娘なんだから」

 「そうだよランちゃん。あんたがそんな旅に出たら、誰があたしのご飯をつくってくれるのさ。やめておくれよ」


 気立てのいいお姉さんの名前はランちゃんです。

 ランちゃんは居酒屋の看板娘で、そのうえ脚のわるい義母の世話をまいにちしてあげていました。

 縁のある二人からたしなめられて、ランちゃんも諦めざるを得ませんでした。


 「おう、じゃあ俺ならヒマだぜ。おまえらの代わりに行ってきてやろうじゃねえか! それで? 旅費とその間の食費は、誰が払ってくれるんだい? なあにこの一大事だ、手間賃は5割引にサービスするぜ!」


 なんでも屋のあんちゃんが、声を上げます。

 誰もが顔を見合わせて、固まります。


 おい誰か払ってやれよ。

 なんでこっち見るんだよ。

 だってあいつ大飯ぐらいのバリンじゃねえか、やつのメシ代なんか持ったら破産しちまう。

 嫌よ、なんであたしがそんなこと。


 ざわざわするばかりです。

 話は全く先には進みません。


 「そもそもなんで儂等わしらがそんなことをしなくちゃならん。そんなことは国の仕事だろう? 成功報酬せいこうほうしゅう褒美ほうびをエサにして、儂等わしら市民しみんから労働力ろうどうりょく搾取さくしゅしようとしているのじゃあないか?!」


 ことし定年退職をむかえたばかりの、まだまだ元気なおじいさんがそう訴えます。

 そうだそうだと、今度はたくさんの人が一斉いっせい賛同さんどうしました。


 「よし! 王様に文句を言いに行こう! 他人(ひと)任せにせず、自分でなんとかするべきなんだ!」

 「そうだそうだ!!」


 市民たちはプラカードを掲げて、みんなで王城にデモに向かいました。

 あらら、困った人たちです。


 そんなありさまを見て、ほんとうにエサがなくなる前に、やっぱり別の国に渡るべきかとボクは悩みます。

 ボクの仲間は、みんな自分が好きな『春』や『夏』や『秋』の女王様を追いかけて移動していきます。

 特に、『秋』の女王様が一番人気だと思います。


 だから『冬』の女王様に付いていくボクは、誰もいないエサ場を独占できます。

 ひろーいエサ場に、ボク一人です。これはこれで、素敵です。


 4つの国があって、4本の塔があります。

 4人の季節の女王様は、くるくるくるくる、その塔を移動します。

 そうして、春夏秋冬の季節が廻ります。


 これまではそうでした。

 でもいまは、もうとっくに次の国へと順繰じゅんぐりになっていいはずなのに、この女王様の廻り(くるくる)が止まっています。


 なんででしょう? ボクもすこし、興味はあります。

 エサ場を独占できるのは嬉しいです。でも冬には新しく作られるエサがやっぱり少ないです。

 だから冬が長いと、いつかはなくなってしまうのではと、不安になります。


 幸いボクには翼があります。ぴゅー、と飛べます。

 だから好きな季節を追って移動するのも、女王様の元にも行くのも、人間たちよりはお手軽です。

 ちょっと食い溜めをして、『冬』の女王様のいる塔にお邪魔してみましょう。


 もっとも、ボクが真相を突き止めたとしても、人間たちに教えることはできませんけどね。

 チュンチュンとしか、ボクは喋れませんので。


 「あらスズメさん、こんな高い塔の頂上にまで、ようこそいらっしゃいました」


 あっというまに、『冬』の女王様のいる塔に到着です。

 さすがはボク、思い立ったが吉日です。


 チュン、チュン。


 話し掛けてみます。

 こんにちは。女王様におかれましては、本日もご機嫌きげんうるわしゅう。

 はじめてお会いした『冬』の女王様は、豪奢ごうしゃな青いドレスを着た美人さんでした。


 「あらあら、おなかが空いているのね。この果物を上げましょう」


 うん! やっぱり通じませんね!

 ありがとうございます、ごちそうさまです!

 イチゴの実をもらいました。『冬』の女王様は美人でやさしくてとてもいい人です。


 ……いや! いけないいけない。

 ものをもらったからってコロリと行くほど、ボクはお安くないですよ!


 「スズメさんも、どうして季節が変わらないのかを知りたいの?」


 塔の窓際で首を傾げたりしていたら、女王様が察してくれました。

 さすがだと思います。イチゴの実も、もう一つほしいです。


 「『秋』がね、迎えにこないのよ」


 『冬』の女王様は、そんなことをいいます。迎えに来るってなんでしょう。

 やっぱり首を傾げていると、女王様が解説してくれました。


 「4本の塔は、それぞれ転移魔法陣てんいまほうじんというものでつながっていて、瞬間移動テレポートができるのだけれど、行く先に誰かがいる塔には移動できないの。だからこれまでは、『秋』が私のいる塔にまで歩いてやってきて、それで次が空いたよって、教えに来てくれていたのね」


 チュンチュン。『秋』の女王様、大変です。


 「『秋』が迎えに来てくれないと、うごけないのよね。お外、寒いじゃない?」


 そうですね。でも『冬』の女王様でも、やっぱり冬は寒いんですね。

 ボクは大丈夫ですよ。ちゃんと冬仕様の羽毛になっていますから。

 これはあったかいのです。


 「スズメさん、もしよかったら、『秋』の様子を見に行ってくれないかしら」


 あら、お仕事を頼まれてしまいました。

 チュンチュン。報酬を要求します。もっとイチゴをくださいな。


 こんどは『秋』の女王様の元へと向かいます。

 乗り掛かった舟といいますものね。


 「あらスズメさん、こんな高い塔の頂上にまで、ようこそいらっしゃいました」


 『秋』の女王様のいる塔に到着です。

 さすがはボク、仕事がはやいです。


 『秋』の女王様は、黄色い可憐かれんなドレスの、可愛かわいらしい女の子でした。

 柿と、そして林檎までくれましたので、ボクはとっても幸せです。


 やっぱり『冬』の女王様にではなく、『秋』の女王様に付き随って国々をまわったほうが、いろんな果物にたくさんありつけて良い感じでしょうか?

 でも秋は、ライバルも多いのですよね。


 「だって『夏』の方がどいてくださらないのですもの。移動できないわ」


 ボクのなんで? アピールに対する『秋』の女王様の回答です。

 あれあれ? です。


 「スズメさん、もしよかったら、『夏』の様子を見に行ってくれないかしら」


 また、お仕事を頼まれてしまいました。

 チュンチュン。報酬を要求します。こんどは栗もくださいな。


 「あらスズメさん、こんな高い塔の頂上にまで、ようこそいらっしゃいました」


 『夏』の女王様のいる塔に到着です。

 女王様の第一声がみんなおんなじですね。さては手抜き(コピペ)ですね。

 『夏』の女王様は、赤いドレスの勝気なお嬢様でした。


 「だって『春』が移動したって連絡が、来ないのだもの。そうよね、おかしいわよね。どうしたのかしら。スズメさん、もしよかったら、『春』の様子を見に行ってくれないかしら」


 『夏』の女王様は、挨拶ついででは果物をくれませんでした。

 それはまあ、仕方ありません。

 でも仕事の依頼には報酬は要求しますよ。チュンチュン、チュンチュン。

 ブドウをゲットしました。やりました。


 「あらスズメさん、こんな高い塔の頂上にまで、ようこそいらっしゃいました」


 そして『春』の女王様のいる塔に到着です。

 もうこれはあれですね、様式美ようしきびというものだと思うことにします。

 これはきっとそういうルールなんです。


 「おなかが空いているの? サクランボをどうぞ」


 わーい、と貰います。

 『春』の女王様は、白いドレスを着た少し年配のご婦人でした。

 これで、催促しないと果物をくれなかったのは、『夏』の女王様だけということになります。

 きっとあの女王様になにか原因があって、今回の問題が発生したに違いありません。


 「『冬』が移動したよって、いつもなら『秋』が教えにきてくれたの。でも今年はいつまで経っても来てくれないから、ここから動けないのね」


 おやおや? なんだか話がおかしいですね。

 また『秋』の女王様の名前が出てきました。

 どうなっているのでしょう。


 「去年、最年長だった『秋』が代替わりしたのよ。でもこれまでの『秋』やってくれていたことを、新しい『秋』がしてくれないから、いつもより時間が少しかかっているのかなって、思うの。ちゃんと引き継いでくれないと、困るわよね」


 はい、原因が判明しました。

 そうですかー、女王様にも代替わりってあるんですね。


 「まあ、私はいいんだけどね。私がちょっと長居していても、誰も困らないのだし」


 『春』の女王様だと、そうかもしれないですね。

 『春』の女王様は、行く先々でちやほやされますものね。

 『冬』の女王様がいる国は大雪だし、『夏』の女王様がいる国は水不足だしで、大変そうでしたけど。

 『春』の女王様がそういう光景を見ることって、そういえばないですものね。


 「そうはいってもお仕事だから、時間がきたら次に廻るべきではあるのだけれど。でも私もいい歳だしね、自力で塔を降りるなんてことは、もうできないのよ。体力がなくなっちゃってね。だからやっぱり、先に『冬』には移動してもらって、それで塔が空いたよって、教えてもらえないと」


 そうですか。

 つまり例年だと、まず時期になったら『秋』の女王様が、自分の足で塔から降りてたんですね。

 それで『冬』の女王様のところにおもむいて、自分がいた塔に転移させていたんでしょう。

 さらに『秋』の女王様はその足で、次に『春』の女王様のところに訪れて、やっぱり次へと移らせます。

 そして『夏』の女王様にも同じことをして、最後に自分がその空いた塔に入っていた、ということですか。


 いやいや、『秋』の女王様、たいへんすぎますね。

 で、それを善意なのか、義務感なのかでやってくれていた『秋』の女王様が代替わりしたんですね。

 そういう調整役というか、連絡役みたいな役回りは、そもそも本来の女王様の仕事でもないから、新しい『秋』の女王様には引き継がれなかった、ってところでしょうか。

 先代はともかくとして、あの黄色いドレスを着ていた小さな女王様にできることとも思えませんし。

 うん、原因がわかって、ボクはひとまず満足です。


 「やっぱりこのままじゃ、よくないわよね。どうしましょう」


 チュン。さあ? わかりません。

 好きにしてくれていいんじゃないでしょうか。


 「ねえ、スズメさん、わるいのだけれど」


 『春』の女王様が、ボクになにか頼みごとをしたいようです。

 でも、ボクとしては当初の目的を達成しました。別にお願いを聞く理由がありません。

 お暇を告げて、退散させていただきましょう。

 自分たちの問題は、自分たちで解決するべきものだと思いますよ。

 変に安請け合いをして、先代の『秋』の女王様のように便利に使われてはかないません。

 まず自分たちが動いてこそ、他のみんなも手伝ってくれるものです。


 ボクは塔の窓辺を飛び立ちます。チュンチュン。

 やはり『秋』の女王様のいる場所に移住することにしようかと思います。

 もしその後、その国に『冬』の女王様がいらっしゃるのであれば、そのまま渡りはせずに居座って、これまで通りの生活に戻ればいいのですものね。




 それから、だいぶ時間がながれて。

 ようやくまた、季節が廻り始めました。


 でも、今度は秋という季節がなくなってしまいました。

 いえ、違いますね、『秋』の女王様はちゃんといます。

 だから秋も、ないわけではないのです。


 なんと、『秋』の女王様と、『冬』の女王様が、同じ塔で同居を始めてしまったのです。

 ふたり同時に乗れば、転移魔法陣でふたり一緒に次の塔へと転移できることに気がついたそうです。

 4つの塔に、3組の女王様たち、になりました。

 そうですね、これならいつでもどこかが空いているので、4竦みにはならないですからね。


 でも『秋』の女王様と『冬』の女王様だと、『冬』の女王様の影響の方が強いようです。

 このおふたりが一緒に、『夏』の女王様が居なくなった後の塔に入ると、いちおう紅葉になったり、ススキが綿を被ったりはするのですが、あっという間に気温が下がって、すぐに冬になってしまいます。


 秋が一番、エサも多くていい季節だったのにな、と仲間たちが愚痴ぐちっています。

 秋冬の国で過ごす仲間たちが増えたので、ボクもエサ場の独占ができなくなってしまいました。

 ちょっとだけ、失敗したかもな、と思います。


 まあでもその程度、大したことじゃあないですけどね。ボクにとっては。

 誰かが心を入れ替えて何とかすれば、いまからでも元通りにすることだって、できるでしょう。

 ボクはあえて苦労を買ってまで、そうする必要性は感じませんが。


 あ、あの子かわいいな。チュンチュン。

 独り占めも気楽でいいですが、仲間と一緒というのも悪くはないですね。


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