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感情の色彩  作者: なつめ
3/3

仮面の下

キャラの見た目紹介を入れてないことに今らさながらに気づき、『誇りと温度』に少し訂正を加えました。申し訳ございません。

数週間、特に何事もなく平穏な日々は過ぎ去っていった。クラスメイト達と親交を深め、白河小咲やとも仲良くなった。修也は転入以来ずっと仮面を被って人と接していた。猫を被る程度ではない。


(俺には感情がない。人が何を望んでいるかはわかっても、理解することは出来なかった。今もそうだ。付き合う人。笑いあう人。恋愛とはどんなものだろう? 何が面白くて笑うのだろう?)


クラスを見渡しながら修也はそんな事を考えていた。頬杖をつきながら、視線をあちらこちらへと動かしていると、小咲が話しかけてきた。


「どうしたの? なにか気になることがあった?」


顔は一切動かしていないにも関わらず、修也がクラスを見回していることに気がついたらしい。なかなか細かいことに気がつくらしい。


「いやなに、みんな楽しそうだなと思ってね」

「そう? 他と学校もこんな感じだと思ってたけど、前の学校ではどんな感じだったの?」


ありもしない転入前の学校の事を聞いてくる。少し考え適当に作り出し曖昧に濁して答える。


「特に変わったとこではなかったけどね。ここよりは大人しめだったかな」

「へー、そうなんだ? まぁ、このクラスは比較的みんな仲いいと思うけどね」


そういいながら微笑みながら周りを見渡す小咲。それにつられるように修也もふたたび、だが今度は頭も動かし後ろのクラスメイトまでしっかり見る。たまに目が合うと、軽く手を振ってくる友達もいた。


「これが、学校……」

「え?」


しまった、と内心少し焦ったが小声だった為か小咲には聞こえてなかったようでホッとする。こんなに人が集まり、穏やかに生活する場を子供の頃以来修也は知らなかった。その子供の頃の記憶すら今や曖昧であるのに。


昼飯を取るために朝にコンビニで買っておいたパンを取りだし食べ始めると、圭と静琉が話しかけてきた。


「お前、いつもパンだよな。寮生活だっけ?」

「パンは食べるのも楽だからな」

「寮って、弁当作ってもらえなかった?」

「やけに金がかかるんだよ……」


 圭と静流それぞれに返事をしながら、寮の弁当の高さにうなだれる。お金持ちの人々が通うこの学園では弁当の素材が異常に高いものを使っているのだ。さすがお金持ち学園である。庶民の中ではそれなりに稼いでいる部類の修也ですら弁当に手を出すのは躊躇する。これを寮住みの生徒たちは普通に買っているのだから恐れ入る。


「弁当って一万円くらい、だったよな? それに、カードも使えたはずだろ?」

「そうね。私もそれくらいと聞いてるわ」

「安い方じゃないのか?」


 圭と静流のようなお金持ちと庶民の金銭感覚の違いがよくわかる会話内容だ。昼食だけで毎月いくら使うか分かったものではない。圭と静琉、それに小咲は昼になると家から配送されてくるのだ。使用人らしき人が席にテーブルクロスを敷き、それぞれ皿を並べていっている。


「お前ら、弁当ですらないじゃないか……」


 修也の言葉に二人して「え?」という表情をしながら見てくるため、逆に修也がおかしいと言われてるような気がしてくる。


「私は自分で作るからって言ったんだけど、親がね……」


 小咲は苦笑を浮かべながら行儀よく食べている。それぞれ昼食を食べ終えると、次の体育の授業のために更衣室へと移動を開始しようとした。


「鏡。少しいいか」


 まだ一度も話したことのないクラスメイトから声がかかり、修也は3人に先に言ってるよう声をかけた。3人を先に行かせた後、修也と声をかけてきたクラスメイトは場所を移動することにした。昼食を終えた後の中庭とは存外人のいないもので、木陰ともなれば人目にも付きにくい場所となる。修也は人当りのいい笑みを被ると、用事を問いかけた。


「それで、どうかした? 次体育だし、早めに済ませてくれるとうれしいのだけど」

「安心しろよ。お前の返答次第では早く済む」


 修也は次に彼の口から出てくる言葉を連想しながら、いくつもの返答を考える。が、それはそれほど悩むほどの内容ではなかった。要するに彼は気に入らないのだ。


「お前の家の事調べさせてもらった。そんな大企業でもないくせになんで白河さんと話してんだよ」

「小咲と話すのに、大企業である必要があるの?」


 そう反言する修也にさらにイラつきを覚えたようで、唾を飛ばしながら声を荒げる。


「小企業は大企業の言いなりになってりゃいいんだよッ! まして白河グループといえばだれでも知ってるような大企業だ。お前みたいなやつが話しかけれる相手じゃないんだよッ。この学園に入れてるのだって奇跡に等しい。分をわきまえて過ごせよ。これは警告だ! いいな、忘れるなよ!」


 修也が何も言わずに黙って聞いてると、言いたいことを言い終えたのか、息切れをしながら大股で立ち去って行った。修也は彼はおそらく、白河小咲という女性に対し『好意』を抱いているのだろう。深い溜息をつくと、急ぎ足で更衣室へと向かった。


「遅かったなー。何の用だったんだ?」

「いや、ちょっとした勘違いだよ」


 男子更衣室には着替え終えた圭が椅子に座って修也の事を待っていた。圭に礼を言うと、運動着に着替える。二人で更衣室から出るとちょうど隣の女子更衣室から静流と小咲が出てきたところだった。二人共実に良く運動着姿がにあっている。


 修也達が体育館に入ると、先ほど修也を呼び出した男と目が合うが、男は舌打ちして苛立ちを隠すことなく視線を逸らすと生徒達の中に混じっていった。


「なんだあれ? 変なやつだな」

「さあな。まぁ特に何でもないだろう」


 圭は気づいたようだが、後ろで二人で話していた小咲と静流は気付かなかったようで不思議そうな顔をしていたが、大したことじゃないとごまかし、伝えることはなかった。先生による集合の合図を出したとき、修也の上着の内ポケットに入れた携帯が着信を知らせた。


「圭、小咲、静流。すまない、少し用事が出来た。先生には適当に言っといてくれ」

「え? 修也くん?」

「お、おい!」

「ちょっと修也!?」


 三者三様の反応をしているが、修也は苦笑いをしながら手を体の前で合わせこっそりと体育館を抜け出した。体育館の外に出ると、人が周りにいないことを確認すると、携帯を取り出し着信履歴を開くと非通知で1件入っていた。修也は別の番号を入力すると、発信ボタンを押し、携帯を耳に当てる。


 その時の修也の顔に先ほどまでの豊かな表情は一切浮かんでいなかった。


「鏡修也。現在地、華扇学園体育館出口」

「鏡、仕事だ」

「今の任務はどうする」

「今の授業が終わるまでに片付ければ済む話だ。3分後裏門に車を回す。着替え直ぐに来るよう」

「了解した」


 淡々と必要な事だけを伝え合い、通話は終了する。携帯を再起動すると、通信履歴、着信履歴に何も残っていない事を確認して更衣室へと走った。丁度3分後、裏門に着いた黒塗りの車に乗り込み、武器の補充を行う。武器の補充と言ってもナイフを至る所に仕込むだけであったが。


「資料だ。目を通せ」


 運転手から渡された資料に何の感情もない目で一通り見ると、後部座席に放った。ここ数週間何もしていなかったから体に何の不調もないか確かめる。


「授業が終わるまで時間がない。急いでくれ」

「そちらの時間は把握している。貴様が問題なく仕事をすれば十分間に合う」


 お互いそれ以降の会話は一切なく、目的地に到着した。古い倉庫街の一角にある倉庫に2代の車が止まっているのが確認出来た。資料によれば、そこで別の街の人間が薬の売買ルートを確保しようとしているらしい。この街でも麻薬の売買は日常茶飯事のように行われているが、それは一つの大手組織が全て取り仕切っている。今回の依頼主はその組織の人間からだ。


「あの倉庫の中にいる人間を全て排除して来い。数は資料通りだ」

「ああ」


 車を降りた修也は手足をぶらつかせ、体の感覚を確かめると、倉庫に向け歩き出した。資料の内容を思い出す。売買人はハンドガンを所持。それ以外の人間はマシンガンやハンドガン、日本刀など様々である。人数は計32人。


 カツン、と倉庫の入口から響いてきた音に倉庫の中に居た32人の全ての人間が武器を構え瞬時に発泡する。彼らに躊躇はなく、敵じゃないと言っても、知らない者を見かけたらすぐさま殺すだろう。銃声が止むと先ほど音を鳴らした石を蹴り、倉庫の中に駆け込む影が一つ。


 またすぐに発砲音が響き渡り、銃による火花が倉庫の中に輝く。闇の中は銃声と絶命の悲鳴、怒号により凄惨な様子を表していた。時々火花に照らされ修也の姿がうつる。返り血を全身に浴びながらも無表情に無感情に淡々と確実に排除していく。首と胴が切り離される者。胴が引き裂かれ臓物がえぐり出されながらもまだ意識のある者。手足を切り落とされ涙と血で顔を濡らす者。様々だが、皆共通するのはここで死ぬということである。


「ひぃッ―ーなん、なんだッ! なんなんだよおおおお!!」

「う、うわあぁああぁああああァア」


 数分後、完全に銃声は収まっていた。倉庫から出てきた修也は重い扉をなんとか閉めるが、地面から流れ出る血をせき止めるには至らなかった。流れ出てきた血を一瞥すると、車に戻っていった。


「遅い。もっと早く片付けろ」


 車に乗り込んだ時にかけられた言葉は労いでもなんでもなかった。修也は返事することなく車に積んであった水を大量に取り出して、一度車から降りると、血で染まった服を脱ぎ捨て肌に着いた血を洗い流すと、再び車に乗り学園へと向かった。


「急げ。遅刻でもすれば怪しまれる」


 運転手はそう一言残すと車を走らせ去っていった。修也は日常の仮面をかぶり直し、教室へと急いだ。教室に着くと、まだクラスメイトは体育の授業のようで帰ってきていなかった。修也は自分の体に鼻を寄せ、血の匂いがしないか、スンスンと嗅ぐ。僅かに血の匂いが残っていたが、うっすらとだった為か大丈夫だと安易に判断した。


「あれ? 修也、早速サボりか?」

「そんなんじゃないよ。俺も今戻ってきたばかりなんだ」


 一番に戻ってきた圭よると、激しい腹痛に襲われたから大事を取って帰った、ということにしたらしい。教師もそれで納得したらしく、深く追求することもなかったようだ。そんな理由で納得したのは、おそらくお金持ちの生徒に何かあったときに責任を問われたら困るからだろう。ちなみに小咲と静流はまだ着替え中だが、もうすぐ戻ってくるらしい。


「はー、疲れた。あ、修也ー。急にどうしたの?」

「少し家の方がゴタゴタしてたみたいでね。父に呼ばれたんだ」

「ふーん? そっか。大変だねえ」


 静流は手で顔を仰ぎながら上気した頬を冷ましている。暑さの為か、頬は朱に染まり、色気を醸し出していた。修也が授業を抜けた理由を特に深く聞くことは無かった。こんな事がよくあるのだろう。次に入ってきた小咲が、教室の入口で鼻をスンスンと鳴らしている。この時、ようやく修也はしまった、と少し後悔した。


「ん、この匂い……?」

「小咲、どうかしたか?」


 修也が笑みを浮かべながら、話しかける。小咲は若干の血の匂いに気づいたのだ。父親の死を数ヶ月前に体験したからか、死に関連するものに無意識的に敏感になっているのだろう。


「なんか、いつもと違う匂いが?」

「もしかしてこの匂いか?」


 そう言いつつ、咄嗟に後ろ手で手首を切り、制服のズボンで強引に血を拭った箇所を見せる。


「あ、この匂いだ! って修也くん怪我してるじゃない!」

「このくらい大したことないよ。放っておけば治るから」


 小咲はそれでは納得しなかったのか、カバンから消毒液と絆創膏を取り出すと、傷の手当てを始めた。血の匂いはごまかせたようだが、イラつきを隠さない視線を感じまた少し面倒な事が起こりそうだ、とため息をつくのだった。

投稿に3日もかかってしまいました。少しずつ考えながら書いているのでおかしなところがあるかもしれません。本当に申し訳ないです。

では、最後に今回も読んでくれた方々、ありがとうございます。今後もよければお付き合いくださいませ。

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