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7/12

ヒルデの秘密

 翌朝。空は日がもうじきに上がることを告げているけど、しかしまだあたりは真っ暗だ。

「じゃあね、ネイアちゃん」

 昨日1日ですっかり仲良しになった女将さんの子に手を降って、荷馬車に乗り込む。荷物は1つもなく、身軽なもんだ。

「世話になった。もう一泊どころか2つも部屋を借りてしまって……本当に申し訳ない。この恩はいつか必ず」

「だからいいんですって。それに謝るのはこっちの方ですよ。昨日はごめんなさいね。てっきり、その、お二人様はご夫婦様かと……」

「夫婦!?」

「まさか、私たちは旅の連れだ。まあ、そんなことはどうでもいい。本当に世話になった」

「いつかまた会おうね…!」

 ネイアちゃんは元気そうな声色を上げているが、その顔からは寂しそうな雰囲気を抜けきれていなかった。

「大丈夫さ。またすぐに、女将さんに恩返しをしに来る。そのときにまた遊ぼう」

 よしよしと頭を撫でるヒルデ。その顔に浮かべる笑みはとても暖かで、なんだか見ているこっちまで嬉しい気持ちにさせてくれる。

「お二人さん、そろそろ出ますよー」

「はい、待たせてしまってすいません」

 荷馬車はゆっくりと動き出し、村を抜けていく。

「じゃあね〜!」

 大きく手を降ってお見送りしてくれるネイアちゃんの影も暗闇ですぐに見えなくなっていった。


「たったの二日間だったけど、とても温かいところだったね」

「ああ、そうだな。生活が安定して余裕が出てきたらまた来よう」

 生活が安定したら、か。素性もわからない記憶喪失の人間を雇ってくれるところなんてあるんだろうか。わりとお先真っ暗な気がするんだけど。

 そういえば、ちょうどヒルデと二人で話せるんだ、今の内に聞きたいことを聞いてしまおう。

「その、さ。わりと聞きにくいことだと思うんだけど」

「なんだ? 本当に馬鹿な質問じゃなければ怒らないであげよう」

「……率直に聞くと、ネイアちゃんに聞かせていた冒険譚って、本当なの?」

「なぜ、そう思う?」

「いやさ、ヒルデって今、一文なしじゃん? でもヒルデの話を聞いていると、それだけすごいことをいっぱいやったんなら謝礼金みたいなのをいっぱいもらって、大金持ちになってるんじゃないかな、と思って」

「なるほど、確かにその通りだな。だが私は嘘をついていない」

 ならなんで一文なしなんだ…?

 ヒルデを疑いたいわけじゃない。だけどヒルデに疑念を抱いたままこれからも一緒に行動していくとしたら、それはもっと嫌だ。膿は最初に吐き出してしまったほうがいい。

 こちらの視線を感じてくれたのだろう、ヒルデは1つため息を吐いて答えてくれた。

「サンジュの言いたいことはわかる。私もサンジュの立場だったら同じ疑念を抱いただろう。

 ……これはあまり明かすつもりは無かったのだがな。お前の勇気に免じて、教えてやろう。

 率直に言うとだな。私は記憶が飛んでいる」

「記憶が飛んでいる…?」

「サンジュのように、記憶を失った、というわけではない。

 ただ何というか……眠りに就いて、起きたらいつの間に長い年月が過ぎていたようなんだ。

 自分が何かをしていたけど記憶がすっぽり抜け落ちているのか、それともずっと眠っていたのか。分からないけどな」

「へぇ……どうして時間が経っているって気づいたの?」

「女将さんと話していたら眠りに就いた時点の最新の情報が随分と昔のことになっていてな」

 ああ、魔王とやらが倒されてから5年経っていた話か。

「じゃあ一文なしなのは」

「起きたら全く知らない土地で、持ち物をすべて失った状態でお前に担がれていたというわけだ。確かに私が眠る前はなかなかの大金を持っていたが、今じゃすっからかんだ」

 なるほど。いや、全然なるほどじゃないけど、今はこれで納得しよう。嘘を吐いているようには見えないし。

「互いに理解し合えたところで、改めてよろしく頼もう、サンジュ」

 ヒルデが右手を差し出してくる。

 けど握手の前に、もう一つ聞かないといけないことがある。

「うん、よろしくしてくれるんならすごく嬉しい。嬉しいけど……2つめの質問。どうして俺と一緒に行動しようとする? ヒルデはすごく強いんだろうし、俺は記憶喪失のお荷物でしか無い。ヒルデが俺を助けてくれる理由なんて無いように思えるんだけど」

「そうだな、それもいい質問だ。だがそれに関しては私の中でもまだ方針が定まってなくてな」

「つまりやっぱりお荷物として置いていく可能性もあるってこと?」

「まあ、可能性はあるが、私も鬼ではない。ある日突然置いて行ったりはしないさ。

 そんな不安な顔をするな。アンナの街に着いたら私の方針は固まるだろう。十中八九、行動をともにする方にな」

 方針って……いったいヒルデの中で何が思考されているんだ。結局理由は全く話してくれてないし。

 でもどうやらそれ以上話してくれるつもりは無いようだ。ヒルデはそれっきり黙ってしまった。

 置いてかれたら俺、一体全体どうやって生きていけばいいんだ……

 どうしようもなく不安を抱えながら、アンナの街へ向かった。

次でようやく物語の中心になる街に到着です。


五日間くらい更新空く……かもしれないです。ごめんなさい

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