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はじめてのよる

「やっと……着いた…………もうダメ…………死ぬ………………」

 ようやく村に着いた時には日はすでに落ちていた。

 いや、日が落ちてから歩き始めた、といったほうが正しいか。


 街道にはとうの昔にたどり着いていた。

 あまりにあっさり着いたので、村につくまで歩こうと提案したのがそもそもの誤りだったのだ。

 一つ弁解すると、かなり多くの人が歩いた形跡があったから近くに大きな街があると思ったんだ。まさかこんなに遠いとは思っていなかった。


「もしかしたら逆方向に歩いていればもっと早くに別の村につけてたかも?」

「いや、そんなことはないぞ。あの足跡は最近つけられたものだ。もともとあの場所の近くに街などない」

「え、まさかヒルデ……」

「ああ、遠いのは最初からわかっていた。足跡の新旧もわからないとは先が危ぶまれるからな。身を持って体験してもらった」

 あ、悪魔め……その場で教えてくれよ。

「これにこりたら行動の根拠とするものはより正確に観測することだ。いつか痛い目に合うぞ」

「いつかじゃなくて今、痛い目にあってるんだけどな……」

「反省しているのならどこか泊まれそうなところを探してこい。一応言っておくが、金なんか持ってないからな」

 え、俺もお金持ってないぞ……

 ヒルデはそれだけ言ってどこかにふらふらと歩いていってしまった。まあ小さい村の中だ、離れ離れになることはないだろう。

 さて、どうしたものか。金を払わずに泊めてくれる場所……

 民家におじゃまさせてもらうしかあるまい。でも急に知らない男を泊めてくれる人なんかいるだろうか。

「ヒルデが一緒にいてくれたらな。あいつ美人だしなんか泊めてくれそう……」

 いや、ないな。女の子を利用するのは我ながら情けないし、男として許されないことだ。

 よし、こうなったら手当り次第に訪ねていくしかあるまい。誠心誠意頭を下げれば一人くらいは泊めてくれる人もいるだろう……

 とりあえず一番手前の家の扉を叩いてみた。


「ですよねぇ」

 これで断られたのは五軒目だ。

 とぼとぼと門から出て、村の中心だと思われるところまでなんとなく進む。

 ベンチみたいなのってないのかな。もうダメだ。疲れすぎて足の骨がバラバラになりそう。早くどこかに横になって休みたい……休むには泊まる場所を見つけなければいけない……

「一旦休憩だ。死ぬ。これ以上立っていられない。それに何か作戦を立てないと永遠に入れないのは間違いないし……」

 適当に近くの花壇に座り、ぼんやりと村を眺める。

 人の往来はまるでない。街灯のようなものは何一つなく、周りを照らすのは屋根から顔をだしたまんまるな月の光のみだった。

「何時間歩いていたんだろう……確かに死ぬほど疲れてるけど、でも歩いた時間を考えるともっと疲れていてもおかしくないような気がするな。いや、もうこれ以上疲れられないくらい疲れたからか。とっくの昔に限界を超えて、感覚が麻痺しているんだろう……」

 ここに座ったまま寝てしまいそうだ。

 いや、もういっそこのまま寝てしまおう。まだヒルデは帰ってきていない。仮眠をとったらもう一度宿探しだ……

 5分だけ……5分だけ…………



「……なところで……」

 ……

「……い、起きろ……」

 …………

「……ません。ありが……」

 ………………



 チュンチュン

「はっ!?」

 ガバッと身を起こす。

 どのくらい寝てた!? いま何時!?

 隣の時計をってそうだ、あるわけない。俺は外で……

 あれ? ここ、どこ……?

 少なくとも花壇ではない。花壇には布団なんてないからだ。

 落ち着け、明るさ的に完全に寝てしまっていたのは確定だ。どうしようもない。冷静に状況を把握しろ。

 綺麗に整った部屋だった。二人で使おうとすればコーヒーカップしか置けないような机に、質素な椅子が2つ。

 窓辺には花瓶が置かれ、のどかな光を浴びている。

 これはつまり……ヒルデが宿をとって寝ていた俺を運んでくれたってことか。それは申し訳ないことをした。ヒルデにあとで何かお返しをしないと。

「おい、騒がしいぞ。もう少し寝かせろ。私は疲れてるんだ」

「あ、ごめん」

 もぞもぞ動いたせいで隣で寝ているヒルデを起こしてしまったようだ。

 疲れているのは俺も同じだ。うん、もう一度寝なおそう。起きたらヒルデに謝らないとな……

「ってえっ!?」

 反射的に布団から飛び退く。すごい。今の飛距離、世界記録取れるんじゃないかな。

「だからなんだ。騒がしいぞ」

「なんだじゃないでしょ!? なんで同じ布団に寝てるの!?」

「騒がしいと言っている。いい加減黙れ。お前も疲れているだろう。今のうちに寝ておかないと後で辛くなるぞ」

 ギッと睨みつけてくる。

「寝ておかないとって……」

 どこで寝ればいいんだ。

「いいから寝ろ。布団に来い(来い)

「いやそれは……ってあれ? 体が…!?」

 お、おい冗談だろ。まるで体が自分のものではないかのようにいうことを聞かない。

 いや、この瞬間、俺の体は本当に俺のものではなくなっているのだろう。勝手にゴソゴソと布団に入っていく体を見ながら、そんなことを冷静に考えてみたり。

 ヒルデはとびっきりの美人だ。思い出せない記憶の中にも、こんな綺麗な女の子はいなかったと思う。もし仮にいたとしたら、絶対に忘れないはずだ。

 そんな娘の隣で眠れる道理があるだろうか。これ反語。カンブンでやったな……それが何だったのかは覚えていないけど。

 そういえばこの部屋、雰囲気からして民家の一室を借りたってわけじゃないだろう。宿でも借りられたんだろうか。でも一体どうやって。

 徒然なるままに思考を巡らせる。眠れそうな気配はまるでなかった。

二日に一回のペース、維持できたらいいな……

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