名付け
「私にかける第一声はそれか。随分とふざけたやつだ」
「ご、ごめんなさい」
その高圧的な態度に思わず反射的に謝る。
が、話が続かない。女の子は仁王立ちしてこちらをにらみ続けてるだけだ。
困った。聞きたいことはいっぱいあるんだけど。
「えっと君、名前はなんていうの?」
「私の名前を知らないのか?」
知らねーよ!
もしかしてこの娘、有名人だったりするのか。
「む、そういえば私の鎧がないな。確かに、あれを脱いだ姿の私を知っているものはそういないか……」
何やらぶつぶつ言っているが、ここで黙ったらまた会話が途切れてしまう。前進あるのみだ。
「あのぅ……」
「一つ聞くが、私の鎧を知らないか?」
「鎧?」
不意打ちの質問に間抜けな声でオウム返ししてしまう。
「そうだ、鎧だ」
「それだったら……」
最初着てたアレのことか。
「君が着てたもののことなら、申し訳ないけど今は海の中だ。時間がなくて重いから置いてきちゃった。すまん」
仕方なかったとはいえ、大事なものだったのなら悪いことをしたな。
頭を下げつつこっそり顔色を伺うと、予想とはちょっと違う表情を浮かべている。
驚いている…?
「お前、あれを脱がせたのか」
「あ、ああ。勝手に触ったのは申し訳ない」
「ふむ。ふむふむ。……お前、名前はなんという?」
「え、ええっと」
まるで話の流れが見えてこないぞ。
「俺は……俺はカサキジュンだ」
カサキジュン。
俺の名前だ。俺の名前のはずだ。
なのになぜ、こんなにも言い慣れないのか。それは初めて知った言葉のように口に馴染まず、ただ違和感を与えるだけだった。
「カサキジュン。……お前、転生者か?」
「転生者? なに、それ」
初めて聞く言葉だ。
「とぼけるか。もし冗談のつもりならやめておけ。私の機嫌が悪くなるぞ」
なんだその脅しは。
「冗談なんかじゃない。なんというか、今日起きたら記憶があやふやになっててね。知っている単語かもしれないけど思い出せないんだ」
「記憶があやふや? 嘘を吐いているようには見えないが……仮に転生者だとしても記憶を失っているのならば問題はない、か…………逆に…………そうだな…………」
また始まった。
にしても俺の名前にそんなに引っかかるところがあったのだろうか。そんなに珍しい名前ではないと思うんだけど。
「お前、その名前は良くないな。変えたほうがいい」
長考の結果がそれですかい。いい名前だ、ならよく聞くセリフだけど名前を否定されるとは思わなかったですよ。
「良くないって何がさ」
「私の気分が、だ。よし、いい機会だ。私がお前に新しい名前をくれてやろう」
「え?」
え?
「そうだな、サンジュカキなんてどうだ。いい名前だろう」
「ええ?」
ええ?
「私は……私の名前はヒルデだ。呼び捨てで読んでもらって構わない。サンジュ、これからよろしく頼む」
「えええ?」
えええ?
今何が起きてるんだ?
「ちょっと待って、一つ一つ整理していこうか。まずカキって名前、おかしくない? 食べられちゃうの?」
「? カキは苗字だ。名前はサンジュだぞ」
そうかー苗字だったかー。
ん、ていうことは名前-苗字の順番なのか。
いやそんなことはどうでもいい。
「本気?」
「ああ、私から名前をもらえるなどなかなかあることじゃない。ありがたく思うことだ」
この娘の中では違和感ないのか。
「こんな馬鹿らしい苗字など他にあるまい。目立ってわかりやすい」
「やっぱり君の中でも違和感あるんじゃないか!」
「君ではない。ヒルデだ。きちんと名前で呼べ」
「す、すまん、ヒルデ……いや、それよりも!」
「なんだ。名前の変更は認めんぞ。別に私の気分だけが理由で名前を変えさせたわけじゃない」
「だとしても他のもっといい苗字があるんじゃないかな、とか提案してみたり」
してみたり。
「面倒だ。いいだろうカキで。逆にどんな苗字ならお前は満足するんだ」
どんな苗字ってそりゃ……うーん……
「5,4,3……」
「サイトウ! サイトウとかどう? 普通な感じでイケてない!?」
「却下。残念だったな、カキ。時間切れだ。……お前をカキと呼ぶとこっちが恥ずかしい。私はサンジュと呼ぼう」
「おのれ…!」
なんだろう。僕はもう疲れました。
いいかな、カキで。俺、牡蠣嫌いなんだけどな。
「ようやく納得したか、騒がしいやつめ。お前と話していると日が暮れてしまう。さっさとこの場を離れて夜までに街道までたどり着くぞ」
いうだけ言ってヒルデは歩きだしてしまった。
聞きそびれたけど「これからもよろしく頼む」ってつまりは一緒に行動しろってことなのか。
「おい、何をぼけっとしてる。のんびりしていると野宿するはめになる。私としては勘弁願いたいのだが」
はいよ。
とりあえず返事を返してついていくことにした。記憶喪失の状態で一人は不安すぎる。
ヒルデが一体何者なのか、どうして俺の隣で寝ていたのか、名前を変えなければならない理由
、さっきの爆風の正体。聞きたいことは山ほどあるが、それはおいおい聞いていくとしよう……
「そういえばヒルデはいつから起きてたんだ? 俺がヒルデを助けたのを知っているあたり、結構前から……」
「そうだな。サンジュが私を抱き上げようとして四苦八苦しているころから意識はあったな」
「あの時から起きてたの!? なら自分で歩けよ!」
「失敬な。動けなかったから仕方なく下手くそなお前の抱っこに付き合ってやったんだ。動けたら自分で動いている」
「そ、そうか」
納得していいのかな。
なんとなく文章が気持ち悪いような……でもどこが悪いのか自分じゃいまいちわからない今日この頃。
ずっと推敲し続けても多分変わらないのでとりあえず完走することを念頭に置いて投稿します。
助言等あったら是非お願いします。
あとなろうって一日一投稿が普通なんですね。ペース維持できるかな……