アタリー
「えっ?」
予想外の提案に素っ頓狂な声が出た。
「私の家は一人で住むには広すぎます。家事も分担できますし、これは私にとっても得な話です。遠慮することはありませんよ」
どこか熱心に、空恐ろしいことを言う。女の子一人で住んでいる家? そこにお泊り? いいね!
「いやいや、遠慮することしかないでしょ」
「いえいえ、遠慮しないでください。私も下心があってお願いしているのです」
下から覗き込むようにして見つめてくる。こいつ、自分の魅力の使い方を知ってるな……!
「下心?」
正直すぐに首を縦に振って離れたかったが、しかしそれはプライドが許さない。ここはとりあえず質問を返して抵抗の意思を見せ、そう簡単には落ちないぞアピール。
「はい。というのもですね、その……私はいろいろと事情がありまして、パーティのメンバーがいないんです。それでお二方には家を提供する代わりに一緒に行動していただきたいといいますか……」
それは恥ずかしいことなのか、尻すぼみになりながら言う。俺としてはうつむいてくれたおかげで視線から解放されて一安心だ。
すっと一歩引いてうなずく。
「なるほど。それは仕方ないな。了解した!」
「おい、サンジュ。喜ぶのはいいがもう少しつつしめ。見苦しいぞ」
「難しい注文だな。俺はこんなかわいい女の子に迫られたことがないんだ」
ヒルデの白い目は無視。
「そういえば、自己紹介がまだだね。俺はサンジュ。で彼女はヒルデ。君は?」
「あ、私のことは……えっとアタリーと呼んでください」
「じゃあよろしく、アタリー」
名前を告げるまでの微妙な間が気になるけれど、まあ質問するのも野暮だろう。
「へえ、ついにあのアタリーがパーティを組む時が来たか。めでたいねぇ。確かに、これだけ田舎っぽい人なら問題はないだろうね」
田舎っぽい人ってなんだよ。と口を開くよりも、少女――アタリーが振り向く方が早かった。
「……そうですね」
ドスの聞いた声と、刺すような視線。それはこちらに向けられたものではなかったが、しかし場を凍りつかせるには十分な迫力をもっていた。
「あーすまない。俺が悪かったよ」
男は両手を上げて、非を認める。
「……はあ。それじゃあそろそろ行きましょうか」
「あ、ああ」
男の発言が何かまずかったのだろうか。わからないけれど、この少女も何か隠し事があるらしい。
「なあ、アタリーのこと、信じて大丈夫なのかな?」
隠し事のあるらしい女一号・ヒルデに話を振ってみる。
「さあな。もし襲い掛かってこられたらその時はその時だ。まあ、そんなことは起きないだろうが」
「……」
まあ、確かにヒルデは強い。アタリーがどのくらい強いのかは知らないけれど、でもヒルデが遅れをとることはないだろう。
なんとなく安心しきれないまま、オーセグの店を出てアタリーの家へと向かった。
今回ちょっと短いんですけど話の切れめ的に。