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就職?

 爆発。

 ステータスを覗くだけのはずの魔法は、その力を空間にぶちまけていた。

 身構えるもクソもない。詠唱された瞬間の爆風に、なすすべもなくふっとばされ、壁にたたきつけられる。間髪入れずに爆音が体を潰す。

「っがあ!?」

 全身を走る激痛に意識が飛びかける。

 なんだ!? カルヤが攻撃してきたのか!?

 そうだ、まず、逃げないと。

「一体……あった!?」

「……の方向から……が!」

 爆音で吹き飛んだ聴力から、かすかに部屋の外からの声が聞こえる。急いで立たなければ。立て。立て!

 頭ではわかっていても、体がいうことを聞かない。三半規管が狂って地面がどこだかわからない。

 いや、頭だって動いていない。立て、立てと繰り返すのも、飛びそうな意識をなんとか保つために闇雲に唱えているだけだ。

 そうだ、まずは目を開けないと。自分がずっと目をつむっていることにも気づかなかった。

 目を開くと、部屋の惨状が飛び込んできた。

 衛士は一様にふっとばされ、こっちと同じく立ち上がることができずにいる。壁には大きな穴が開き、外の市街地、それに延々と続く畑も見える。

 そして部屋の真ん中では、ヒルデとカルヤが距離をとって向かい合っていた。

 双方ともに傷は見当たらない。爆心地に無傷の二人が立っているのは、とても奇妙な光景だ。

 ぽけっと見とれていると、外れかけていた扉が蹴り飛ばされた。

「カルヤ様!? これは一体…!?」

「いや、ちょっとね……」

「敵襲! 敵襲!! 増援をよこせ!!」

「って待て、焦るなって!」

 外から武装した兵士が何人も飛び込んでくる。が、部屋が小さく全員は入れない。

「目標は女一人だ! 油断はするなよ!

 カルヤ様はお下がりください!!」

 パッと三人ヒルデの周りに散開し、剣を抜き放つ。

「待て、貴様ら、主人が攻撃するなと言っているぞ」

 ヒルデの呼びかけが終わる前に、彼らは動き出した。

「っ……!」

 相当訓練を積んでいるのだろう、見事な連携で繰り出される3つの剣。息をつくまもなく四方八方から刃を降らせ、しかしぶつかり合うことなどもちろんなく、獲物を的確に追い詰めていく。

 ヒルデはすんでのところで躱していき、そして攻撃へ移った。

 右手に赤いものが見えたと思った瞬間、炎が三人を襲う。

「クソっ! こいつ、魔法使いか! 地味なジョブを…!」

 倒すまでには至らないが、動きを止めることはできた。一瞬生まれた隙に三人の包囲から抜け出す。

「傭兵の近接ジョブ至上主義は噂の通りらしいな」

 ヒルデの声には余裕が満ちていた。

 再び右手に炎が収束し始める。

「っ! 魔法防御構えー!」

「「構え!!」」

 爆炎が再び襲うが、しかし三人は無傷だった。何か魔法を使ったのだろうか。

「やはり相手は魔導媒体を持っていないぞ! 突っ込め!!」

 勢いづいた兵士が一気に距離を詰めようとする。

 ヒルデは三度、炎を収束させる。

「また同じ攻撃か! 魔法防御構え!」

「「構え!!」」

 結果はさっきと同じになるように思われた。

 爆炎を放つも兵士には通用せず、今度こそ距離を詰められる。そうなったら近接武器を持っていないヒルデは大きく不利になるはずだ。

 だが、ヒルデの手から現れたのは爆炎ではなかった。

「何っ…!?」

 火柱が立ち、その眩しさに思わず目を伏せた。

 何か熱い空気がその手のひらから吹き出し、部屋を焼く。散らばった瓦礫が暴れまわり、体を打撃する。

 後には床に倒れた三人の兵士。そしていつの間に剣を持っていたヒルデが立っていた。

「貴様ァ!!」

 殺気立った声と共に、新たな兵が部屋の外から飛び込んでくる。

「待て、そこまでだ!!!」

 剣を防いだのはカルヤだった。

「カルヤ様!? わた、私はそんなつもりでは!! も、申し訳…!」

「大丈夫だから気にすんなって。それより剣を収めろって言ってるだろ?」

 カルヤはヒルデに背を向けて武器をしまわせる。

「……私を警戒しないのか?」

「まあね。せっかくこの街に来てくれたんだ。ヒルデちゃんをここで殺してしまうよりも、仲間にしたほうが得策っしょ?」

 そしてニッコリと笑い、右手を突き出す。

「ほら、握手だ。ヒルデちゃんは今日より僕の直属の傭兵団の一員だ。よろしくね」

 ヒルデはその手を、じっと見つめ、口を開いた。

「それはとても良い話だが、一つだけ私から条件を付けたい」

「条件? まあ、言ってみなよ」

「サンジュも同時に雇ってほしい。それが叶えられないのなら私はこの傭兵団に入ることはできない」

「え?」

 思わず素っ頓狂な声で聞き返してしまった。

「……そうか。サンジュ君も一緒か。うーんそれは無理だな」

「そうか。無理か。なら私はここから立ち去るとしよう」

「いやいや、ちょっと待ってよ。そりゃないでしょう」

 俺を置いて会話が進むのを無理やり止める。

「ないでしょうっていってもなぁ。サンジュ君、弱いじゃないか。そんなんで斬り合いの場に言っても死んじゃうだけだ。それは僕にとって、そして第一に君にとっていいことじゃないと思うんだけど」

「んぐ……いや、まあそれもそうなんですけど、そっちじゃなくて。

 なんで俺と一緒じゃないとここの傭兵団に入らないんだ?」

「ああ、私の方に言ったのか。私はサンジュを鍛え、立派な戦士として戦えるようにしたい。しかし私だけここに入ってもサンジュを鍛えられないじゃないか」

 鍛えて、戦士に…?

「え、そんなの聞いてな……」

「おお、アツいねぇ! ヒルデちゃんにはすでに先客がいたか! うんうん、そういうことなら仕方ない。僕も手を引くとしよう」

 んんー? 何か違う話になっている気が。

「そうだね、そういうことなら僕直属の傭兵団じゃなくて、街にある公式の傭兵組合に参加すればいい。昔ながらの冒険者組合と同じ形式を踏襲しているところでね。収入は安定しないけど、かなり自由にやれるはずだ。おーい。何か書くものを持ってきてくれ」

 紙に何かさらさらと書き込み、封をする。

「これを持っていけば無条件で加入させてくれるはずだ」

「ああ、感謝する」

 そのまま踵を返し、部屋から出ていった。

「えっと、じゃあありがとうございました」

 まだ全身が痛むが、ヒルデについていく。

 わけが分からないが、これでひとまず職を得ることはできたということなのだろうか。

ここ一年で本当にいろんなことが起きて、明るいことも暗いこともあったけれど、いろんな人生経験を積むことが出来たな、と突然回想してみたり。

どうも、週一投稿とかいう永遠に終わらないペースのすくえまーです。

テコ入れせねば。

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