おはよう
目が覚めた。
寝起きの悪い俺としては信じられないほど気分がいい。いつもなら自然と目が覚めた時には寝すぎて頭が痛くなっている。もしくはやかましい目覚ましに無理やり起こされるか。
こんなに気分がいいんだから起きなきゃもったいない。
「っよし! 起きよう!」
小さく伸びをして身を起こすと……
目の前には、海が広がっていた。
太陽は空高く上り、鳥達が陽気に飛んでいる。
手に絡む砂は星屑のように輝いて、さらさらとすべり落ちる感触がとても心地いい。
まるで絵に描いたような、完璧な景色だ。
「っていや、景色を楽しんでる場合じゃないだろう。なんでこんなところで眠っているんだ……」
一番の疑問を声に出し頭を整理する。はじめに砂をサラサラ触って遊び出しているあたり、俺の脳みそはパニクっているみたいだ。
まずは状況確認だ。周りを見回すと見事に海に囲まれている。俺は海にちょっとだけ頭を出した砂地に寝っ転がっていた。
まさか行き場なし? 起きたら死亡確定してた?
恐る恐る後ろを振り返ると、細い砂の通路が少し離れた陸までつながっている。
どうやら死なずにすんだようだ……
「安全は確保できたようだし」
さっきから気になっていた、隣に転がっているソレ。やたらトゲトゲしたナニカを調べてみるか。
「これは……鎧兜?」
群青よりも深い色をしたそれは、人の形をしている。
でも兜というには妙な構造だな……"遊び"の空間がない。これじゃ動くことはできないだろう。
中身は入っているのか。一切隙間がないせいでそれすらもわからない。
「おーい……入ってますかー?」
なんだその声掛けは。間抜けすぎるだろう。
だけど反応はない。聞こえてないのかな?
尖ったところに触って手を切らないように、揺すってみるか。
「おーいっておもっ!」
鎧は予想以上の重さで、適当に押しただけじゃビクともしない。
頭を使え、俺。中身を確認したいなら、この兜を脱がせばいいのでは?
「うーんそう簡単には脱げないか……そもそもこんなに重い鎧を着て戦うなんてできんのか?」
ぶつくさ言いながら押したり引いたりしていると、それは突然パコッと取れた。
「うおっなんだ、意外と簡単……に……」
それは……星が地に降りてきたかのような。
兜の下からこぼれた金の髪はまるでこの世のものとは思えないほど美しく、気高かった。
いつの間に上がってきていた海水にたゆらう金糸に目を奪われる。
さっきから感動してば…………いつの間に上がってきていた海水?
ほう。満潮とな。
後ろを振り返る。
陸地まで続く白の道が明らかに狭くなっている。
「ま、まずい……」
感動してる場合じゃねぇ! 早くこの場から逃げないと! でもこの娘をおいて行くわけには……
鎧ごと持ち上げられるだけの筋肉は残念ながら有していない。まずはこの鎧をなんとかして剥がさなければならない。
「どうやれば脱がせられるんだ……」
当たり前だけど鎧を脱がせたことなんてなかった。
こうして悩んでいる間にも海面は上がっている。
考えている場合じゃない。まずは手を動かせ。
急げ!!
「っはぁ!」
教訓。お姫様抱っこは心が疲れる。途中から意識してる余裕なんかなかったが。
真っ白な砂浜にお姫様を降ろし、背を向けて座る。鎧を脱いだ姫さまは俺にはシゲキテキ過ぎたからだ。
「お、重かった……腰までびちゃびちゃだ」
着替えたいけど替えの服なんて持ってない。てか今更気づいたけどこの服はなんだ。綿の感触とは程遠いガサガサした感触。おかしいな、昨晩は普通に……
普通に? 普通に何を着て寝たんだ?
記憶が、ない。
自分の名前は思い出せる。年は16か17か……覚えてないのは元からか。
好きな食べ物はなんだっけ。何かドロドロした感触だったのは漠然と思い出せるんだけど。
まるで昨日までの記憶が扉で閉ざされているみたいだ。隙間から漏れた記憶を思い出そうとすると、霞をつかむように逃げていってしまう。
「ふむ。私を救ったことは褒めよう。だが重いだと? この私に向かってよくそんな言葉を吐けたな。死ね!」
背後から凄まじい殺気を感じ、思わず右に飛び退る。
爆風。砂が舞い散り、視界を奪われる。
「なっ何事っ!?」
「避けたか。まあ恩人であることには違いない。小癪だが、今回は見逃してやる」
煙の中から女性としてはやや低めの、落ち着いた声が聞こえてくる。
「え、えっと……その、おはよう…?」
ダメだ。この脳ミソ、パニクって使い物にならなくなってる。
徐々に砂が落ち着き、彼女の姿が見えてくる。
そこには美しい金髪と対象的な漆黒の目と、その高貴な雰囲気に合わない粗末な服をまとった少女が立っていた。
初投稿です。
感想や指摘をくださったら嬉しいです(語彙が間違ってたり、もっと良い言い回しがあったり……)。