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外伝 王子の留学④

――エスト視点


アルトゥリアス達がダンジョンに入ると聞いた俺は、翌日すぐに身支度を調えて彼等の後を追った。いそいそと各種指輪や最近使っていなかった剣などを装備する俺を見てディアベルやクレアが怪訝な表情をしていたが、色々と突っ込まれる前に城を出る事に成功した。ダンジョンに入った俺はすぐにアルトゥリアスの護衛と付き添いの教官に追いつき、彼等にある提案を持ちかける。


「変装して脅かす……ですか? 勇者様が魔物の役を?」

「ええ。以前通っていた生徒達にも同じような事をやったことがありまして。まあ冒険者学校の伝統のようなものですね」

「伝統って……」


若干呆れ気味のノイジ教官。確かに伝統は言い過ぎかも知れないが、初代卒業生であるシューラーやシルバー達には仕掛けたドッキリだから全部が全部嘘とも言えない。


「危険はないんですよね?」

「もちろんです。あくまでも脅かして彼等の反応を見るだけですから。それに、多少無茶してもアルトゥリアスをある程度鍛えてくれとアルフォンソ様にも頼まれてますからね」

「陛下から? そうですか……。それなら仕方ないですね」


アルフォンソから頼まれているというのは嘘ではない。アルトゥリアスがこの学校に通い始めてしばらく経った頃、ガルシア王都から書状をもった使者が俺の領地に訪れたのだ。その内容はさっき護衛達に説明したように、アルトゥリアスを鍛えてやってくれとの事。そしてこうも付け加えられていた『アルトゥリアスが王族にふさわしくない態度を取った時は、性根を鍛え直してくれ』と。つまり俺はこのドッキリでアルトゥリアスがどう動くかを見極め、仲間と共に戦うなら合格、自分だけ逃げるようなら不合格を言い渡し、彼にだけ特別な訓練をさせるつもりでいたのだ。これはあくまでも恩義のあるアルフォンソに対する礼であって、決して自分が楽しむためだとか趣味だとか言うのが理由ではない。後で場合護衛が文句を言ってくることも考えられるが、その時は書状を見せて黙らせよう。


そんなわけで俺はその場から転移で移動し、彼等が訪れる予定の地下五階へと移動した。予定ではアルトゥリアス達がそろそろ地下五階へ到達してもおかしくない頃なので、俺は早速偽りの指輪に魔力を流して姿を変化させていく。今回はシルバー達の時と違ってミノタウロスにはならず、別の魔物の姿を選んだ。


「……これでいいかな?」


そこに姿を現したのは首のない騎士――所謂デュラハンだ。駆け出しの頃俺を瀕死まで追い詰めてくれた敵であり、最初に戦ったフロアマスターでもある強力なアンデッドだ。こんな出来たばかりのダンジョンの、しかも浅い階層に出てくる敵ではないんだが、驚かせるにはこれ以上の外見はないだろう。あまりに場違いなためにひょっとしたら見破られるかも知れないが、その時は素直に謝ろうと思う。


マップスキルを展開すると、ゆっくりではあるもののこちらに向かって近づいてくる青い光点が四つと、そこから少し離れた位置に護衛らしき反応がいくつか確認できた。そろそろだ。偽りの指輪と共に身につけているステータス妨害の指輪があるために俺のレベルや名前は見えなくなっているので、見ただけでは絶対に正体が俺だとはわからないはずだ。


「……近いんじゃないか?」

「貰った地図通りだともう目の前のはずなんだけど」

「気をつけろよ。まだ折り返しなんだ。油断するな」

「背後にも気を配らないと。ゴール直前が最も油断しやすいって座学でも言ってたしね」


小声での会話が徐々に大きくなってくる。僅かな時間とは言え各自の役割分担もしっかりされている良いパーティーだ。これは試し甲斐があるね。


「む? 止まれ! 何か居るぞ!」


先頭を歩く冒険者――確か名前はインテグラだったか――が、手に持った松明を前方、つまり俺の居る位置へと掲げてみせる。するとうっすらとした光の中から彼等が予想もしなかったような魔物の姿が浮かび上がった。


「なっ!?」

「嘘でしょ!?」

「デュラハン!」

「な、なんでこんな魔物が!?」


驚く彼等に対し、俺はすらりと剣を腰から抜いて、一歩、また一歩とゆっくり近づいていく。さて、彼等はどうするのかな?


「駄目! レベルもわからない!」

「まともにやり合おうとするな! ディーネは炎の魔法、モトラは回復魔法で牽制しろ! 俺とアルトゥリアスで時間を稼ぐ! 奴が怯んだら全力で逃げるんだ!」


リーダーを務めるインテグラの的確な指示で、混乱に陥ろうとしていたパーティー全員が正気に戻る。やるな。まだレベルは低いのにこの冷静さと状況判断力。是非ともうちに欲しい人材だ――っと、今はアルトゥリアスが優先だったな。彼は多少腰が引けているものの、前衛の勤めを果たすべくインテグラの真横で剣を構えていた。仲間を見捨てて逃げ出さないか。何度か話してわかっていた事だが、やはり彼は良い奴だな。だが覚悟して貰おう王子様。俺のドッキリはここからが本番なのだから。

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