知の恵みを謳う双子
うららかな日差しに草花がさわさわと風と遊ぶ。のどかな野原に悠然とたたずむ一本の大木、その木漏れ日を受けながら双子はささやく。
「ねぇ、知ってるかしら兄様」
「なんだい姉様」
「この樹の根は世界中の地を這っていて、その枝は天にまで届くそうよ」
「それは違うよ姉様、それは〈言葉の綾〉さ。でもこの樹は世界に繋がっている」
そう応えて樹を愛おしげに撫でると、また問い始める。
「知ってるかい姉様」
「なぁに兄様」
「この空を渡るのは鳥で、この地を巡るのは水なんだ」
「知ってるわ兄様。恵みを運ぶ者たちね、私たちのお友達だわ」
そう言うと彼女の手の中に小さな羽が握られていた。
「「そして僕たち(私たち)は恵みを謳う者」」
その大木は人に〈知の樹〉と言われた。耳をあてれば世界が聞こえ、樹に問えば風が教えてくれる。育てれば恵みを与えてくれる大切な樹。
しかし、その樹の声が聞こえるのはこの双子だけ。生まれながらにして、この樹の根元に捨てられ、樹に育てられた双子。二人は知の樹の声を聞き何でも知っていた。
「僕らは恵みを謳う。そして人の願いを届けるんだ姉様」
「私たちは恵みを謳い、世界に愛を与えるのよ兄様」
大樹は人々に大事に育てられてきた。願いを込めた愛を注がれ立派に育った。
そして、大樹は人々に感謝の恵みを注ぐ。双子はそのために謳うのだ。
「世界にはいろいろな物語があるのね兄様」
「あぁ、姉様。虫でも草でも鳥でも人でも、皆それぞれ人生という物語があるんだ」
「すてきね、兄様」
「そうだね、姉様」
そう言ってクスクスと笑う彼らは、一縷の風を感じた瞬間表情を失った。
世界の異変は風が二人に教えてくれる。
「東の果てで土が悲しそうね兄様」
「大変だよ姉様。天を謳って雨を降らさないと」
いともたやすく大樹の枝に上りながら二人はそう言葉を交わした。
枝の上に二人は座ると、まだ幼さの残る透き通った声で謳い始める。
すぐ風はざわめきだし、鳥たちは双子の元へ集まる。
今までに聞いたことない美しい旋律はどこか懐かしく、暖かみがあった。
彼女たちが言の葉を紡ぎ終わると鳥たちは一斉に東へ飛んでゆく。まるで彼らの意思を伝えるように。そして二人はまた木漏れ日を受けながら問答し合い、安らかな寝息を立て始める。
双子は全てを知りながら、種をまき愛を注ぎ喜びの花を咲かせる。
皆の人生を繋ぎながら。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!
実はこの四話のつながりは
四大元素の『火』『空気』『水』『土』
をそれぞれテーマにしているところです。
これを一日でどうにか書き上げた時には死ぬかと思いましたww
これからもよろしくお願いします。