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炎のつぎはぎ人形

 君たちは知っているかい?篝火(カガリビ)というものを…


 まぁ、難しく考えないでほしい、一言で言ってしまえば人が生活のために使う火のことさ。ある古都のイケメン様はこれを使って幻想的に女に魅せて落としたなんて逸話(いつわ)もあるけど…蛇足さ、気にしないでくれ。今はまだ明るい、つまり暇だからね。(カガリビト)の仕事は夜に始まる。

 人の文明の始まりは火だと言う人もいるみたいだね、僕もその意見には賛成だ。人は闇を恐れ、力を求めた。それが火だと思うんだよ、そうして生み出されたのが〈篝火〉さ、そこまではよかった。……なにがいけなかったんだろうねぇ、僕にはわからないや。

 『さぁ、もうすぐ夜がやってくるよ』



 遙か昔から存在した〈カガリビト〉は人と共に生きてきた。彼らは火を操ることに長けていた。人が操りきれないものを正確に制御出来る彼らは恐れられ、敬われていた。

 だが、そのうち人は彼らを制御しようと目論んだ。

 『これは君たちの手に余る』

 カガリビトたちはそう言った。だが、その忠告は欲深い人の耳には入らなかった。

 「「「傲慢(ごうまん)なる人形に裁きを!!」」」

 人の手で僕たちを裁こうなど、お門違いにもほどがある。そうカガリビトたちは悲しい顔をしながら思った。

 僕たち(カガリビト)君たち(ニンゲン)とは全く異なる存在なのに…。

 結局カガリビトは抵抗などせず。おとなしくとらえられ、その大半が焼き殺されてしまった。最期の言葉を残して……。


 『君たちの好きなようにすれば良い。ただ、覚えていてほしい。僕たちは征することができても、火を制することはできない』


 そうして人は進化を重ね、火から熱を見いだし、熱から雷を生み出した。

 闇を恐れ、火を畏れていた人類は〈光〉を手に入れたのだ。

 しかし、そのせいで人は皆忘れてしまった……。


 『闇の怖さを』『炎の恐ろしさを』『〈カガリビト〉の存在を』


 やぁ、覚えているかい?僕だよ?正確には生き残った15人の〈カガリビト〉のうちの15番目さ。え?言ってなかった?……僕たちが滅んだのに、なぜ僕がいるかって?

 アハハッ、滅んだ?違うよ、さっきのお話では“大半が”って言ってたろ?

 そう僕たちは生きていた。正確にはまだ炎を信仰する人々がいてね、そこで大切に保護されていたんだ。いやぁ、ほんと、十人十色とは良く言ったものだね。いろんな人がいる。

 人類はその人たちに感謝すべきだよ、だって今こうして生きていられるのは僕たちと彼らのおかげだからね。


 さっきのお話に少し付け足しても良いかな?

 〝あの日〟からまぬがれたカガリビトは14人いた。そう、そこには僕はいないんだ。その14人のカガリビトたちは決して無傷とは言えなかった。皆どこかしらの部位(パーツ)が欠けていたんだ。不完全な彼らは人の手に余った火が生まれるとき、果たして自分たちに制御出来るのか不安に思えた。だから僕が生まれたんだ。


 『僕たちの手で完全なカガリビトを造ろう』

 そういって彼らは自らのパーツを差し出して僕を造った。例えば、一番目は右目を、二番目は左腕を……といった風にね、でもさすがに14のパーツでは足りず、今の僕の約1割くらいは機械で出来ている。僕たちを保護してくれた人たちが自らを破壊し僕を造る姿を見かねて、人の技術を用いたんだ。

 自分たちを陥れた彼らの文明を取り入れるなんて駄目だ、そんなプライドじみた拒絶はなかった。僕たちは目的のためだったら何でもする。


 『火を制御出来るのは、僕たちだけだから』


 そうしてカガリビトたちは、その体を機械に変えてまで生き延びたんだ。

 僕という“完全に最も近いカガリビト”を造って。



 それからしばらくして、火は人の手に負えない存在になった。

 そのとき7人のカガリビトの力を用いて何とか僕たちの手中に収めることに成功した。

 7人のカガリビトは力を使い果たし、僕に最期の力を少しずつ残して散っていった。

 “そして世界は闇を再び思い出した”

 人の生み出した光は電気を糧に、そして電気は火を糧にしていたんだ。

 根源が人の手を離れた今、夜は深くなってしまった。

 残った7人は旅をしながら篝火を少しずつ、人々に分け与え、果てまで歩き続けながらじわじわと壊れていった。人々は彼らの言いつけを守り、おびえながら暮らした。

 もう、その7人のカガリビトたちも限界に近い。

 彼らの一部を持つ僕は遠くにいてもわかっていた。

 僕は言いつけを守らなかった人から火を取り上げる役目なんだけど、そろそろ分け与える役目も負わなきゃいけないのかな。


 「ねぇ、こんな暗いところで何してるの?」

 小さな少女が森の奥から出てきて話しかける、僕が座る崖の下には今、違反をしたばかりに転げ落ちた焼死体が残っている。僕は彼女に笑顔で話しかけた。

 『君こそ、こんな暗いところでどうしたんだい?』

 「なんだか、こっちに暖かい光がある気がしたの。でもお兄ちゃんしかいなかった」

 『そうだね、でも案外、間違いじゃあないと思うよ』

 僕は煌々(こうこう)と輝く星と月を眺めながらそう言った。


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