05「自分が死んだ理由」
「はぁ……」
家庭科は先生のおかげで何とか作りきることができた。
デコレーションは得意だという水城さんにお願いした。
私は生地を半分にして生クリームを塗ったぐらいだ。
最初は大変だったけどあとは順調に進んだ。
じゃあどうしてため息をついているのか。それは……ーー。
自分が何故ここにいるのか考えていたからだ。
思い出そうとすると頭が痛くなる。
自分がどういう人間で、どんな生き方をしたのか。
モヤがかかって一部しか思い出せない。
本当は転生の話も嘘だったんじゃないかって思いそうになる。
でも、そうなれないのには理由があった。
この理由がなければ、私は転生のことを自分でも信じようとは思わなかっただろう。
ある意味ありがたかった。勿論理由はゲームの話じゃない。
たった一人の男の子との記憶だった。
これがある限り、私は転生者だと思っていられる。
(お兄ちゃん……)
私には、たった一人の兄がいた。
***
『ねえ、おにいちゃん!まってよー!』
『早くおいで!』
いつも私はお兄ちゃんの後ろついて行った。
お兄ちゃんは私を嫌がらずいつも一緒にいてくれた。
『まっ……わぁっ!…いたぁい……』
『!大丈夫!?』
前世ではドジだった私の手を取ってくれていた。
ずっと、一緒にいてくれた。だから、私は笑顔でいられたようなきがする。
両親がいなくても、それでいじめられても。
ずっと、お兄ちゃんがいたから。
「ハル兄……」
出来ることなら、もう一度でいい。お兄ちゃんに……ーー。
「会いたいよ……」
そう言って、私は握り拳を作る。
会えることは叶わないと分かっている。
でも、お兄ちゃんに教えてもらった色んなことがこの胸の中にあるかぎり、私は転生したんだってことが分かる。
この世界のゲームだって、お兄ちゃんと攻略した。
絶対に一人にしないって、言った。
だから絶対に……。
「また、会えるよね……」
「……誰に会うんだー?」
「きゃぁ!?なな、なに!?敵襲!?」
「ぶっ!……っははは!!なに、敵襲って…面白すぎるでしょ!」
お腹が痛いと笑いながら言っている彼は知っていた。
「……あなたは」
「ぷぷ……っん?俺と知り合いー?」
「……いえ。知り合いではありません。ですが、有名な方なので……」
「へぇ……結構俺も有名なんだネー!」
「……?」
(……あれ。この人こんな性格だったっけ?)
子虎 葵。彼は大阪出身だ。
ゲームでは高校生で編入してくる極道の息子のハズだ。
だから、小学生のうちにここにいるなんて本来はあり得ない。
「どうしたの?」
「あ、いえ……」
話し方もおかしい。彼は大阪出身なだけあって、大阪弁だ。
それなのに、今は標準語。何処かで何かが変わったのだろうか。
それにしても……。
「あ……その。違和感がありますね」
「……なんのこと?」
「えっ……えっと。す、すみませんなんでもないです」
訝しげな顔でこちらを伺ってくる小虎。
なんとなく、値踏みされている気分であまりいい気持ちとは言えなかった。
言ってたら変態の部類に入ってしまうんじゃないだろうか……。
(いやいや……そんなこと考えちゃダメ……!)
そう心の中で呟いて、小虎から去ろうと「それでは。私は……」と言った瞬間。
私は最悪な場面に出くわしてしまうことになった。