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ケモノ学園の脇役事情  作者: 黒崎 架那
Play1 fate can't escaped
3/8

02「黒猫の憂鬱」

「私は……」


まだ三つの時、俺は美月の家に引き取られた。

魔女の使い魔だとか、一族の裏切り者だとか、沢山の罵詈雑言を言われながら育ってきた俺は、言葉を知らなかった。愛情を知らなかった。

薄暗い部屋の中にいた俺を救い出してくれた恋斗さんは、俺を家族にしてくれた。

奥様の愛音さんは、俺に勉学と言葉を教えてくれた。

嬉しいって気持ちを、あの時始めて感じた。愛情を知って生きるのが楽しくなった。

そんな時、愛音さんが俺を呼び出してきた。その時出会ったのが今の主、恋音(お嬢)様だった。

まだ三つだった恋音様は、真っ白な部屋で横になっていた。

俺をみた瞬間、目を見開いて驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔になって話しかけてくれた。

彼女は俺を兄と言って慕ってくれた。時には危ないことをして心配させた。

彼女のことがいつの間にか好きになっていた。

恋斗さんのことも、愛音さんのことも好きだ。だけど俺は家族にはなれない。

猫塚の名を廃嫡された、賤しい亜人だ。

恋音様…恋音様。日が経つに連れて心惹かれた。

それと同じぐらいに、彼女の我儘が増えていった気がした。

だけど。

今日の入学式を終えたあの時、恋音様が変わった気がした。

転生も楽じゃない、とぼやいていた。

俺がそばによって話しかけると、いつもと同じように驚くけどほとんど何もいって来なかった。

彼女のその態度に驚いたけど、調子に乗ってしまった俺は持っていた彼女の写真を見せた。

本当は一枚しかないけど、初めて嘘を言った。

渋っていたけど、俺が引かないと分かったのか話してくれた。


「私は……転生者なのかもしれないの」

「かも、ですか?」

「うん。それはまた後でね。……それで、この世界は私が前世でやり込んだ乙女ゲームの世界に酷似しているの」

「……酷似、ですか。ということは、どこか違うところがあるということでしょうか?」

「翡翠はいつも私の斜め上をいくことを考えるのね。まあいいわ。今の質問は、今のところはっきり言って分からないわ。でも、NOの可能性が大ね」

「そうですか。では、乙女ゲームとはなんですか?」

「あぁ、そうね。そこも説明しないと。乙女ゲームっていうのはね、簡単に言うと主人公が見目麗しい攻略対象と疑似恋愛するゲームなの。翡翠は隠しキャラなのよ」

「……。そうですか」

「そしてさっきの質問。転生者かもっていうのは、現実逃避に近いわ」

「何に……」

「そうね。私は前世ではすごく幸せだったのよ。すごく、本当に」


あなたにそんな顔をさせたいわけじゃない……。

だけど、俺は訊いてしまう。


「どんなふうに、ですか?」


ああ、ほら。貴女はその顔をする。

そんな表情(かお)にはなって欲しくないのに。


「簡単に言うと、兄と、幼馴染と一緒にいて充実していたわ。お金のことも問題なかったし、なにより、暖かかった」


それは今のあのお二人の状態のことだろうか?

それなら、問題はないのだが。

彼女に一体何が必要なのか、分からなかった。


「……全員を攻略したわ」


少しの沈黙の後、唐突に喋り始めた彼女に思わず聞き返してしまった。


「犬も猫も兎も虎も……全員を5年かけてようやく攻略したわ。もちろん翡翠もね。そこで明かされた衝撃の事実を話す貴方の表情(スチル)は、忘れられなかったわ。

……貴方はね、翡翠」

「はい……」

「今年、猫塚雪の護衛の一人に殺される可能性があるの」


思わず、絶句した。

でも、待って欲しい。話が少し飛んでいる気がする。


「ま、待ってください!可能性って、事実を話すってどういうことですか?話がちょっと……」

「っあぁ、ごめんなさい。先走っちゃったみたいね。

えっと、このゲームは二種類あって、猫一族と犬一族で別れているの。

もしも犬一族を選択すると、物語には貴方は出ないし、そもそも生きていないわ。

猫一族では貴方を選択すると、襲われたという話を最後の方で明かすの。

でも、雪を選択した場合……」


恋音様は一気に暗い表情になり俯いてしまう。

どうしよう、とオロオロすると恋音様は弱く、微笑んでくれた。


「あの」


俺が声を掛けると、首を傾げてきた。可愛いです。


「……その、猫塚雪って、誰ですか?」

「えっ?」


恋音様は驚いた後、「この年は……まだ?」とか「じゃあ何で……」とか言っていたが、ほとんど聞こえなかった。絶対声に出してないでしょう……。

少しの間考えていたようだが、いきなり顔を上げた。


「猫塚雪は貴方の弟よ。一個下のね。教えられなかったの?」


信じられない、という顔で見てきた。

そんな顔に俺は苦笑いする他選択肢がなかった。


「……そっか。そりゃあ、ここは現実だものね。

恨んで殺されるかもしれないって、思うものね……」

「恋音様?」


なんだか、恋音様の顔が険しくなった気がした。

でも、何かを決意したように頷くと顔を上げて真っ直ぐに俺の瞳を見てきた。


「翡翠。私は絶対に貴方を死なせない。私も死なない。

だから誓いなさい。絶対に私から離れないことを」

「いきなりですね……。……誓います。

俺は恋音様から離れないですし、守り抜いてみせます」

「それでこそ、私のお兄様兼優秀な執事ね。

じゃあまずは……夜ご飯を食べに下に行きましょうか」

「はいっ!」


なんだか憂鬱な気分から一転したなぁ、と思う。

少し前まではワガママになった恋音様のことが煩わしく思えてしまっていたのに、今ではもう離したくないと思っている。

ーー恋音様が可愛いのがいけないんだ。

そう考えながら、俺は食堂に向かった。

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