後の祭り
国主×スサノオの短編になります。キス表現や際どい表現がありますのでご注意下さい。※閲覧後の苦情は受け付けませんのでご了承ください。
突然だが、国主が最近おかしい。
いや、奴の性格がおかしいのは今に始まったことではないが、俺が言っているのはそういうことではなく。
なんというか、…あれほど今までべったりしてきた癖に、それがパッタリ無くなったのだ。頻繁に須賀を訪ねてきていたのに、それも無くなった。不思議に思って娘のスセリに訊いてみたところ、2週間程前から食事も録に口にしなくなり、外出もしなくなったと言う。
つまるところ、俺自身全く心当たりが無いわけでもなかった。
2週間、といえば俺は国主に一度会っている。娘に渡したい物があって出雲まで来てみたら、偶然蝮に怯えて動けなくなっていた奴に出くわしたのだ。
そして助けてやって、どういう流れか俺は義理の息子である奴に告白されてしまった。
「お義父さんが好きなんですよ」と。酷く熱い口づけとセットで。
俺とて、長い時を生きてきたのだ。あんな若造の言葉の意味が理解できない程幼稚でもない。いつものような冗談ならば、ぶん殴ってやっただろう。…しかし、だ。あの時の国主の目は真剣そのものだった。それに、あの慎重な国主が神力を録に制御せずに迫ってきたということは、つまりそういうことなのだろう。
あのときは混乱していたからか、俺も国主に乱暴な口調で返してしまった。その瞬間酷く悲しげな表情になった奴を思い出して、俺は今さらながら罪悪感に苛まれている。
国主のことは色々と生け簀かないのは確かに事実。とはいえ今回のことを考えると、やはり俺が原因としか考えられない。
「(……世話のかかる野郎だな、全く)」
心中で舌打ちをし、俺は適当に着物を羽織って玄関に向かう。台所からクシナダがぱたぱたと走ってきて、「どこいくのー?」と訊いてきたので、散歩だよ。と笑って短く答えた。
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そんなこんなで出雲大社まで来た俺である。
出迎えてくれたスセリに国主の場所を訊くと、自室にいると教えてくれた。
健気に旦那を心配するスセリを「大丈夫だ」と励まし、俺は国主の部屋へと向かった。
なんでも2週間前から誰も部屋に立ち入らせて貰えないのだという。
国主の部屋の前まで辿り着くと、閉まっている障子の表面に青白く光るもの(例えるならば細かい刺繍のようなもの)がびっしり張り巡らされていた。これは俗に言う結界と呼ばれるものだ。…自宅なのにこんな強い結界を貼るということは、余程外部を拒絶してると見える。
国主のような格の高い神の結界は強い。故に一般の神であれば触れればまず腕が吹っ飛ぶか焼け焦げるだろう。しかしながら、俺は三貴子の一柱。奴の力がどれ程強かろうが、せいぜい喰らっても静電気レベルのダメージですむ。
俺は両手でがしりと障子を掴むと、思い切り開いてやった。
スパン!!と障子のいい音が廊下に響き渡る。…ちょっぴり俺は自画自賛してしまった。
「!お…お義父、さん」
本だらけの、やたらとこじんまりした自室の真ん中で本を読んでたらしい国主は、ぎょっとした表情で此方を見た。
こんなに焦った顔の奴は、もしかしたら初めて見たかもしれない。
「よう、国主」
「……何か、ご用でしょうか」
「別に。…てめーがまた逢いましょ〜なんて言いやがるから来てやっただけだが?」
「…!」
声真似を交えて言ってやると、国主が目を丸くした。そんなに覚えてたのが意外だったのか。
俺はとりあえず障子を静かに閉めると、国主の目の前にどかりと胡座をかいた。
「……」
しかし、いつもならがっついてくる筈の国主はだんまりして目を伏せたまま此方を見ようとしない。
それが妙にいらいらして、俺は両手でむんずと国主の顔を掴むと無理矢理上げさせた。
「おいこら、せっかく来てやったのに目を逸らすたぁどういうことだ」
「……」
「おい国主っ!」
あぁ、やばい。
また怒鳴っちまった。
少し気まずくなって、謝罪を述べようと思ったのも束の間。
「………すみません、でした」
「…は?」
やっと国主が口から発した言葉は弱々しく、俺は目をぱちくりさせた。
やんわりと俺の手を退けた国主は、少しだけ微笑んでみせた。
「……私は、……貴方を目の前にすると、どうしていいのか分からなくなるんです……。
貴方に近付きたくて、触れたくて……大好きなのに壊したくなる位に胸がざわついて…。
お義父さんに触れれば触れるほど、埋まらない隙間が、広がっていくんです…」
焦点の合わない瞳で、うわごとのようにぽつりぽつりと呟く国主。
2週間前のへらへらした姿が嘘の如く、まるで魂の無い脱け殻のようになった奴がそこにいた。
「…国主、」
「…私は、身勝手です…。己が欲求を満たしたいがために…お義父さんにすがって……。最低だ」
はらはらと国主の瞳から綺麗な雫が落ちて、畳に染みを作っていく。
それを見て、俺はなんとなしに事を理解した。
こいつはやはり、衝動的に俺に迫ったんだろう。しかし、その後に自己嫌悪に苛まれて閉じ籠った…と。大体こんなとこだろうか。
今まで何人の女を泣かせてきたのだろうこの色男は、自分が傷付くことには酷く臆病らしい。
「………馬鹿じゃねぇのか。お前」
そんな色男に、俺はキツくこう突きつける。
そして。
奴の後頭部を鷲掴んで、噛みつくように口づけてやった。
「!!」
それは、勿論触れるだけだったが、奴を正気に戻すには十分すぎるものだった。
光を失っていた目に明るさが戻ってくる。
「……やっと目ぇ覚めたか?クソガキ」
「お…と、さ……」
「謝んなら最初っからあんなことすんじゃねーよ。身勝手だ?最低だァ?
んなの今さらなんだよ。
てめーの身勝手に俺が今までどれっっだけ振り回されたと思ってやがる。
言っとくが、俺は自分の行動にくよくよメソメソしてるような奴は大嫌いなんだよ。
だったら、俺にどんだけ迷惑かけようがうざがられようがへらへらしてた前のてめーのがまだマシだ。
本気で俺が好きで、欲しくて堪らねーんならよ、……もっと図々しい位俺を引っ掻きまわして、俺がもう参ったって言う位求めてみやがれ。そうしたら…。
…――てめーのこと、少しは考えてやる」
一気に捲し立てた俺に、国主は暫しぽかんとしていたが。
そこから更に暫くすると、「…わかりました、」と小さく呟いた。
そこには、先程までの国主は無く。力強い、生気に満ちた、国津神のボスが居た。
何はともあれ、気を持ち直してくれたようである。俺は内心安堵のため息をついて胸を撫で下ろした。
「…よし、だったらさっさと外に出「お義父さん」
しかしながら次の刹那、紡ぎかけた言葉は遮られて。
少し油断していた俺は、肩を掴み体重を乗せてきた国主にバランスを崩し、畳へと背中から倒れてしまう。
「っ、」
鈍い痛みが背中に走る。
次いで、畳のひんやりした冷たさが肌を伝う。上体を起こそうとした俺だったが、肩口に手が伸びてきて、逃げ口を見失った。
見上げれば、欲に瞳をぎらつかせた国主と目が合って。
「……国主、?」
「……わかりました。ですから、お義父さんも自分のお言葉には責任を持って下さいね」
「…な、おい、っ…!?ん゛、っ、」
顔が近付いてきたと思えば、唇を乱暴に奪われる。口を抉じ開けられて、国主はまるで捕食を行う肉食獣のように激しく俺の口内を貪った。
息継ぎの隙さえ与えないそれに、脳内がぐずぐずに溶けていくような錯覚さえ覚える。
飲み下せずに口の端から唾液が溢れるが、気にする余裕もなく。言葉を発しようにもままならず、口を開けば吐息と媚声となって唇から溢れるのみで。酸欠と快楽による涙で滲む視界だけを見つめたまま、黙って享受するしか術は無かった。
「っ、ぁ…ふぅ…っ…!んん!」
ちゅくちゅくと舌を吸われ、身体が勝手に反応してしまう。
国主が空いている方の手で、俺の着物の中をまさぐり始める。とは言え俺は着物を着ているよりかは羽織っているだけ、に近い。はっきり言えば上半身は裸なのである。
まさかそれが仇になるとは夢にも思わなかった。
胸の突起をこねくり回され、微弱の力で引っ掛かれ、逃げ場の無い快楽にどうしたらよいか分からなくなる。
「ぁ…っ、ふ、ぁ…んー…っ!」
いまいち力の入らない手で、国主の髪をくしゃりと引っ張る。
それに気付いたのか、国主はようやく俺を解放してくれた。酸欠でぐったりした俺は息を吸い込むのが精一杯で、逃げる等という余裕はもう無くなっていた。
霞む視界に次に映ったのは、獰猛な光を灯した雄の目で。
艶やかに微笑む国主を見て、ああ…喰われるな。と頭の隅でどこか他人事のように思う。
白檀の香りが降ってきた頃には、俺は数分前の自分の言葉を後悔し始めていた。
国主×スサノオで続編でした。とりあえず続く…かもしれない!です!!国主さんは明るく見えて闇が深い情緒不安定タイプだろーなぁと思います。