接敵回避
「敵機来襲!数およそ六・七〇機!」
見張り員が叫ぶ。
「少佐、数が多すぎます。そろそろではないですか。」
小野田が吾郎に言う。
「そうだな、もう良い頃合いだろう。」
そう答え、ひと呼吸置いてから吾郎は指示を出した。
「全機、水メタノール噴射装置を起動せよ!」
その指示により、各機のエンジンから装置が起動したことを示す、
白煙が噴出した。
それと同時に爆撃隊はその速度を増していく。
高度一二〇〇〇メートルにおいて
コクピットの速度計は毎時二八〇浬、
すなわち時速五二〇キロメートル程を示していた。
「何!?一体どういうことだ!」
敵爆撃隊が急に増速し始めたのを見て、
スコット少佐は戸惑いを隠せなかった。
白煙が噴出したのを見て、幸運にも
敵機のエンジンが故障したのかと思ったが、
どうもそうではないようだ。
それが水メタノール噴射装置などという、
資源不足が生み出した苦肉の策であるという事は、
彼には勿論知る由もない。
今彼に判断できるのは、
ともすれば戦闘機が爆撃機に振り切られるかも知れない
という事だけである。
急いでエンジンを全開にしたものの、
距離はじりじりと開く一方であった。
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