小野田の胸中 上
そして今に至る。
青木が今回の作戦に並々ならぬ思いを抱いている理由、
それはこの作戦が、想い人、
佳奈子の仇討ちを兼ねているからであった。
必ずお前の仇を討つ、
その思いが吾郎の中で激しく燃え上がっていた。
吾郎少佐が搭乗している隊長機の操縦士は、
彼が一番信頼を置いている部下、
空襲の際、真っ先に駆け付けた小野田幹介少尉である。
彼もこの作戦には特別な想いを抱いている。
それはあの空襲の日、
迎撃のため仲間達が次々と離陸している時であった。
小野田の愛機のエンジンが、突如黒煙を吹き出した。
急いで整備員たちが駆け寄り修理を施したが、
結局間に合わなかった。
原因はオイルパイプのパッキンの不具合だった。
これは当時の日本の資源事情の影響によるもので、
整備員達の怠慢ではない。
それが分かっているだけに、小野田は何も言えなかった。
それだけならまだ良かった。
小野田には、尊敬する青木少佐の他に、唯一無二の親友、
神谷英司少尉がいた。
お互いに腹を割って話しあえる、まさに心の友であった。
出撃できなかった小野田は、せめて神谷の無事を祈り、
その帰りを待っていた。
だが、次々と着陸する友軍機の中に、どんなに目を凝らしても
神谷の乗機は無かった。
その後も二時間、三時間と小野田は待ち続けた。
しかし、いくら待っても神谷が帰還することはなかった。
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