青木の胸中 下
それ以来、吾郎は魂を抜かれたようだった。
何を聞かれても上の空で、その顔には生気の欠片もなかった。
そんな吾郎が再び生き返ったのは、二月二三日のことであった。
その日、吾郎は上官に呼び出され、司令室に来ていた。
彼を待っていたのは、この基地の司令、林寛次郎大佐であった。
「よく来てくれた。まぁ、座れ。」
「了解。」
「そんなに固くなるな。全く、なんだ最近の様子は。
他の隊員達も心配しているのだぞ。」
「申し訳ございません。」
「その、なんだ、聞くところによると、お前、
先日の空襲で、想い人を亡くしたそうじゃないか。」
「はい、その通りであります。」
「お前の気持ちはよくわかる。
ワシも空襲で甥っ子を亡くしているからな。
だが、いつまでも悲しんではおれん。一番の供養は、
精一杯仕事に打ち込むことじゃ。そこで、お前に話がある。」
「はい、何でしょうか。」
「上層部で、来月重大な作戦計画を実施することが決定された。」
「重大な作戦計画、ですか?」
「米本土爆撃計画、だ。」
「ッ!米本土・・・爆撃計画。」
「そうだ、そしてこの作戦は航続距離の関係で片道特攻となる。
そして今志願者を募っているところだ。
どうだ、お前も参加してみないか。
想い人の仇を討つ良い機会かもしれん。」
脳裏に息絶た佳奈子の姿、そしてあの日の悔しさが蘇る。
「是非っ、ぜひ私にやらせてください!」
気づいたときには、吾郎は勢いよく参加を申し出ていた。
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