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激戦! 護国兵卒懸命録  作者: 骨折ギプス
本編?開始
17/35

青木の胸中 中 下

 急いで吾郎は近くの公民館へと走った。

そこに家族が避難しているかもしれない、と思ったからである。

はたして、その予想は的中した。

両親と佳奈子の母はそこにいた。

そして佳奈子は、母の手の中に横たわっていた。

吾郎は一安心した。が、様子がおかしい。

駆け寄ってみると、その胸は溢れ出る血で真っ赤に染まっていた。

「佳奈子!大丈夫か、おい俺だ!吾郎だ、分かるか!」

その問いかけに、佳奈子は軽く頷くだけであった。

吾郎は母に詰め寄った。

「医者は、医者はどうしたんだ!」

母は静かにその首を横に振った。

つまり、そういうことである。

吾郎は苛立ち紛れに、拳を床に打ち付けた。

だが、今は佳奈子の願いを叶えるのが最優先であると考え、

一旦落ち着いた。

「佳奈子、何か食べたいものはないか。」

その問いに、佳奈子はゆっくりと口を動かし、答えた。

「何か、甘いものがいいなぁ。

 そうだ、いつも持ってきてくれるあの缶詰が、食べたい。」

「そうか、分かった。すぐ持ってきてやるからな。待ってろ。」

そう言って吾郎は基地へと駆け出した。

空襲の際に、一旦持ち帰ってしまったからである。

吾郎はその体に鞭打って、全速力で走った。

おそらく、人生の中で一番速かっただろう。

そして、公民館に帰ってきた吾郎を待ち受けていたのは、

既に息絶えた佳奈子の体だった。間に合わなかったのだ。

吾郎は、しばらく現実を受け入れられなかった。

そして何が起こったのかを理解すると、外へと駆け出した。

自分の泣き叫ぶ姿を誰にも見られたくなかったからである。

走って走って走り続けて、街の外れまで来て、

吾郎はその場に崩れ落ちた。


涙が止まらない。どれだけ泣かないように努力しても、

この悲しみの前では無駄であった。

日付が変わるまで、吾郎は泣き叫び続けた。


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どうぞよろしくお願い致します。

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