青木の胸中 中 上
基地に到着するやいなや、部下の小野田幹介少尉が駆けて来た。
「少佐ァ!敵は犬吠崎方面より侵入した模様であります!」
「犬吠崎ィ?いつもは相模湾からじゃないか。今回はどうしたんだ!」
「相模湾方面の対空砲火を避け、欺瞞航路を取ったようですッ!」
「クソッ、とにかく迎撃急げ、急ぐんだ!」
「稼働機は既に全機出動しております。」
「対空指揮所に行く!走れ!」
「了解であります!」
何たることだ、まさか裏を突かれるとは思っていなかった。
忸怩たる思いがこみ上げる。
だが、今更そんなことを思ってもどうしようもない。
今はただ、味方の奮戦を願うだけであった。
およそ二時間後、大体の状況が明らかになってきた。
第七飛行隊・敵爆撃機九機撃墜、味方機の損害二〇。
第二二高角砲連隊・撃墜数は未詳・一〇機は確実。
砲台2基損傷。
そして、吾郎に最も衝撃を与えたのが次の情報であった。
「向島方面大火災発生・延焼中。」
吾郎は戦慄した。向島には実家があるからである。
報告が終わるとともに、吾郎は駆け出した。
家族の無事は、天に祈る他なかった。
そして、息を切らしながら実家のある場所へとたどり着いた。
その刹那、五郎は愕然とした。
本来家があるべきその場所は、瓦礫の山と化していた。
家族の姿は、無い。
感想・評価
辛くても、それが支えになるので、
どうぞよろしくお願い致します。