青木の胸中 上
今回の作戦にあたって、青木少佐は並々ならぬ思いを抱いていた。
それは、今年二月一八日の出来事に端を起している。
その日、いつになく青木は上機嫌であった。
久しぶりの休養日、
基地から数キロメートル離れた実家に帰れるからである。
と言っても青木の場合、その目的は両親というより、
むしろ従妹に会うためであった。
その従妹の父親が空襲で亡くなったため、
母と共に青木の家で一緒に暮らしているのである。
そして、何を隠そう青木は、
この年の離れた従妹を溺愛しているのである。
家にいるときは常にその周りをウロウロしていて、
やれ何か不自由はないか、欲しいものはないか、
食べたいものはないか、行きたいとこはないか、
何か手伝うことはないか、と従妹にべったりである。
周りもたしなめてはいるのだが、
いかんせん吾郎は馬耳東風である。
それにその従妹、橋本佳奈子も彼のことを憎からず思っているので、
最近は、周りもとやかく言わなくなった。
今回、吾郎は食べずにとっておいた航空糧食を
袋の中に沢山持ってきていた。
缶詰のパインアップルは佳奈子の好物であるから、
とりわけたくさん入っている。
彼は従妹の喜ぶ姿を思い浮かべながら、その頬を緩ませていた。
その時、あたりにけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
空襲警報である。
非番とはいえ、そんなものは当然関係ない。
吾郎は急いで基地へと駆けていった。
従妹に会うのは、しばらくおあずけである。
感想・評価
辛くても、それが支えになるので、
どうぞよろしくお願い致します。