我が艦砲
ところ変わって、ここは砲兵隊統括部。この日の議題は、
「複数空域に分散して爆撃を敢行してくる敵爆撃機に対しての、
有効な迎撃方法」であった。様々な案が検討された。
「一〇〇〇〇から一二〇〇〇メートルに砲火を集中する。」
というものや、
反対に「一〇〇〇〇メートル以下に砲火を集中する。」
というもの。
はたまた
「部隊ごとに担当高度を定め、それに則って射撃する。」
という案もあった。
その中でも一番突飛だったのは、
「大口径高角砲の一撃によって該当空域を飛行せる敵爆撃機を殲す。」
というものだった。
普通なら一笑に付されるところだか、
この意見が思わぬ展開を見せた。
この案を出したのは砲兵隊中佐、中村耕三であった。
彼は元々艦砲の設計者で
大口径砲の扱いについては一言ある。
そして彼は見たのだ。かつて彼が設計した砲が
呉の工廠に放置されている光景を。
スクラップになっていたのならまだ諦めはつく。
だが、まだ稼働する状態でそこにあるのだ。
諦めきれない。
我が子のように可愛い艦砲だ。
何とかして活躍させてやりたいと思うのは当然である。
もともと仰角には余裕のある設計だし、
水圧式の俯仰機も出力に余裕はある。
試算してみたが、
仰角七〇度くらいまでならなんとかなりそうだ。
是が非でもあの砲が轟音をあげて敵を打ち倒す、
その勇姿を見たい。
その一心で彼は熱弁を振るった。
この砲がどれだけ魅力的な存在であるかを。
「今、戦時下においては、使える物は全て使うべきです。
このままではあの砲の開発にかかった
ありとあらゆる努力が全て無駄になります。
炸薬量で言えば一五糎高角砲の一五倍程もあるのです。
その威力は推して知るべしでしょう。
新型砲弾もこの砲ならより有効に活用できます。
ネ弾使用時のその火球の直径は
実に一キロメートルにもなります。
これにより敵爆撃機に与える物理的損害はもちろん、
その搭乗員に与える精神的損害の大なる事
は明らかであります!それに・・・」
そしてこの努力は実を結んだ。
当面は各砲部隊ごとに指定高度を設定し、迎撃する。
その傍ら五〇口径五一センチ砲の
高角砲転用改造が急速に進められた。
昭和二十年三月一〇日の事である。
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