全人類総ツインテール化計画
訂正
2012/07/25
なまめかし(素晴らしい)
→なまめかし(優雅だ、上品だ)
スミマセン。思い込みでした。
突然だが、ツインテールは神だと思う。
ああいう萌え絵なんてたいていツインテールの人だ。初♪ミクしかり、きゃ〇ーぱみ〇ぱ〇ゅしかり、とあるところには白#黒子しかり。
俺のクラスの柳川さんだってそうだ。残念ながら彼氏はいるそうだ。サラサラの二つに分けられた髪が歩いているときにふわんふわんと揺れるのとか、走っているときなんかはたゆんたゆんと、……まるで別のものを連想しそうな感じで跳ねるのとか、見ていて飽きない。
白いうなじがはっきりと見えてなんともエロチックだ。数本の後れ毛がさらにそれを増している。……美しい!
ま、人の彼女だからあまりにも凝視しすぎると危険だからあまり見れないけど。ツインテールがゆらゆらしているとついつい眼が移ろってしまう。彼女はかわいい……まあ結構かわいい方だけど他にもかわいい人はもっといる……うちの学校は美人が多いんだ。いや、本当に。
ショートカットとか、ロングヘアーとか、ポニーテールの人で美人でフリーな人はたくさん……たくさんってほどじゃないけどいて、すれ違うとお、べっぴんさんだ! とか思うけど、ただそれだけ。
別にうわぁ、彼女にしてぇ……! とかは思わない。
正直、どんなブスでもツインテールだったら否応なくかわいく見えると思う。
……それは言い過ぎか? いやでも、俺は平安美人がツインテールでやって来ても愛せる自信がある!
さあ、こい! ツインテール!
なんて言っても来るわけないけど。
そんだけで来ていたら、年齢=彼女いない歴じゃないっつーの。
◇◆◇◆◇◆
「さあこいツインテール、さあこいツインテール……」
毎朝の日課だ。校門をくぐってくる女の子の髪型を見ることを習慣にしていて、遅刻しかけてそれができなかったりしたときは一日中“今日だけ髪型を変えてツインテールな女の子がいたかもしれない”と思って何だか落ち着けなくなったことがある。
……ホームルームのチャイムが鳴った。ほら、もう少しでタルい授業が始まる。
「――――――――――ぃ!」
窓から悲鳴ともとれるかな切り声が聞こえた。門の方から聞こえてくる。
門をキュルキュルキュルと閉めている先生ともめていた。
「 !」
頭によく通るハスキーボイス。少し長めのショートカット。少しだけ着崩したブレザーと俺の学年カラーのネクタイ。学校指定のカバンにはディズニーのキャラクターのキーホルダー。
………………。
……灰色のスラックス。
……なーんだ、男か。
男なんかには興味がないので、先生の話に耳を傾けた。
◇◆◇◆◇◆
「ツインテール……、ツインテール……、ツインテール……」
今日も授業がやっと終わった。今は帰宅部としての活動中だ。
「ツインテール……、ツインテール……あ、いた。」
ふわふわと歩く度に揺れる二つの尻尾。
残念ながら、それはとっても低い場所ある。つまりそのツインテールをした女の子は幼女だった。
……俺はロリコンじゃないんだよな……
正直、ツインテールにしていたらどんな子でも(ロリータでも熟女でも)愛せる自信がある!
……ま、モラルは守るから手は出さないけどな。
……まったく……最近ツインテールを本当に見ない。ったく、俺の目がツインテール分不足で腐ったらどうするんだ。
とりあえず、今日のノルマは達成だ。家に帰るとするか。
ボーナスステージ“家への帰り道”ではたして何人のツインテールを見ることができるのか。
それは神のみぞ知ることだ。
◇◆◇◆◇◆
「勉強、勉強かぁ……」
唇の上でシャーペンを揺らしながら呟く。
テスト前だから勉強しなくてはならない。学生である以上、それは義務である。じゃあ、テスト前だったら勉強しなくてもいいかどうかは置いといて。
「インテグの3、1で……」
積分なんて消えれば良いと思う。ついでに微分は死ねば良いと思う。
便利だなんて言っている奴は目の前から立ち去れ。……つーことは、このワークと教科書は消えることで……
「あー、やめやめ! この思考禁止! さあ、やるぞ! 俺は微分が大好きだ! 積分を愛している! うっしゃー!」
声に出すことで自分の弱い心をコントロールする。
劇的に数学のノートに向かって行く前に、ふと思い出して上から二番目の引き出しを引く。
「ハァ、ツ、ツインテール……。……ツインテール、ツインテール、よっしゃ! 頑張ろ!」
プリントアウトした初♪ミクの画像をみたらモチベーションが上がる。
ドーパミンがばんばん出てる気がする。
「……っしゃー!」
ツインテールの部分を指でつつっとなぞってから、その紙をシワにならないように引き出しにしまい、今度こそ劇的に数学に向かった。
……あれ、そういえば……、インテグラル記号って、ツインテールに似てる……!?
これから心の中でインテグラル記号をツインテールと呼ぼう。
「……ツインテールの2、−2、3エックスの2乗プラス8エックスプラス6、のディーエックスはっと……」
◇◆◇◆◇◆
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
頭をグシャグシャと掻く。床屋に行きそびれた長めの髪がぼさぼさになるが、どーでもいい。
部屋のドアを蹴破るように開けて、
「かーさん! かーさん!」
ドダドダドダドダと階段をかけ降りた。
「階段をかけ降りるな、バカ者っ!」
かーさんがテレビを見ながら答えているのだろうけど、そんなの無視だな。
俺の方が緊迫している。
スパーンと和室の襖を開けて、テンプレな寝っ転がってせんべいをつまみながらテレビを見ている母に言う。
「インターネットを解禁してくれ!!!」
「んなもん、ダメに決まってるでしょーが!!」
「何故だ!!」
「明日からテストだからだよ、このバカ息子! そんなこと言う前にとっとと勉強しなさい!!」
「そう言われても、ツインテールの禁断症状が出てきたんだよ! ∫はおろか、Σまでドリルツインテールに見えてきて勉強にならないんだ!!!」
「……それを乗り越えての勉強よ。さ、あとちょっとなんだから頑張りなさい」
「……………………。……じゃあ、かーさん、」
「ん? 何?」
「ツインテールになってくれる?」
「だぁーっしゃい! さっさと勉強して、平均以上を取るんだよ!!!」
高校生男子として、体重や身長も結構あるはずなのに、首根っこつかまれて和室の外に出された。
Tシャツの首が伸びる……!
「あとちょっとで終わるんだから、頑張りなさい!!」
……母上から激励の叱咤を喰らい、すごすごと部屋に戻る。
「あとちょっとが、長いんだよな……」
ばりょばりょと頭を掻きながら、たんたんと階段を昇る。
ツインテールが、ツインテールが足りねぇ……
「ツインテールゥーーッ!!」
叫んだら、階段に躓いて転んだ。
「グゥ……」
すね打った、痛ぇ……
ぐぅの音も出ないことはなかったな!
明日の教科は現国と生物だ。さて、範囲の文を読もう。
“豪の反論に僕はぐぅの音も出なかった”
…………?
あれ?
調べてみよう。
《ぐぅの音も出ない――詰問されて一言も返すことばがなく、閉口することにいう(広辞苑より)》
あははっ!
誤用だったわ!
あはははは、あはははははは……
「今日気づいて、良かったー……」
やれやれと、俺は教科書に意味を書きこんだ。
◇◆◇◆◇◆
「や、やばい……み、右手が疼く……!」
厨二みたいなセリフを言ってみた。言ってみたいから、言ってみた。重要だから、二回言った。
……その事は置いといて、体がツインテールを欲している。やばい。
柳川さんはツインテールじゃなくてハーフアップになっちゃったし、テスト期間中だから帰宅部としての活動もできない。
テスト前に確保した画像はシワになり、手垢がつき、畳まれた部分から穴が開き、諸行無常・色即是空を体現したような状態に、カラーからグレースケールに、まっさらからしわくちゃのお婆さんみたいなものになってしまった。
一応引き出しの中に入ってはいるが、ツインテールと背景の境目がわからんくなっている。…………これは、ツインテールといえるのか?
否! 断じて言えぬ!
俺は!
ツインテールに!
「不足しているのだー!!」
「うるさい! 今何時だと思ってるの!! ユースケ!! あと二日で終わるんだから、さっさと寝るか、最後の追い込みしなさい!!」
「……っ……はーい……」
ばりんとせんべいを噛み砕く音が聞こえた、ような気がする。
が、
「ツインテールぅ……」
ツインテール不足がいたたまれない。
心臓がばくばくして手が震える。まばたきしてふっと焦点を合わせると、虹色の光が舞う。ふーっと意識がなくな……
ガッターン!
椅子ごと後ろに倒れて、頭を打った。
「こらー! 床が痛むでしょうが!!」
「痛つつ……ごめーん……」
痛む頭を押さえつつ、母に謝った。その声は一階まで届いていたらしく、ごめんで済むなら警察は要らないんだよ! と呟かれていた。
……いつつつつ……たんこぶできちゃったぜ……あ、勉強しなきゃ……
いつつつつつつつつツインテール♪ あ、そーれいつつつつつつつつツインテール♪ 著作権は死後50年まで♪
「ツインテールが、大好きなんだよなぁ……」
情報の教科書を眺めながら頭を抱える。
「長いやつも、ちんまいやつも好きなんだけどなぁ……」
くしゃりと頭の毛を掴む。
……それはさながらツインテールのように絞り出されていた。
……………!
「こ・れ・だ!」
ダダダダダと階段をかけ降りて(もちろんかーさんに怒られた)輪ゴムを二本収穫して洗面所へ行く。自分の部屋の鏡は小さすぎて見えないのだ。
かーさんの櫛を勝手に使い、髪を纏めていく。男子にしては長い髪も、女子にとっては短い。だから半分ぐらいまでしか纏められなかった。
輪ゴムを何回か巻きつけて固定する。初めてやるものだが、なかなかにうまくできた。イメージトレーニングが功をそうしたのか。
片方も縛って、ツインテールが完成した。左右の高さも揃えた。
ポーズを決めて、鏡を見てみる。
「ほぅ……ほぉ……ふおおぉぉぉ……!」
なかなか似合っていた。いや、かなり。
いつもとは別人なぐらい似合っていた。
「ふぉぉぉぉぉ……!」
パコンッ! 頭に軽い衝撃が走る。
「あんたはもう、いっつもうるさいんだから……! 早く寝なさい」
新聞の丸めたやつでひっぱたかれたようだ。
かーさんはあくびを一つかましてから、そのまま階段へ向かっていった。
「……似合う!」
いや、マジ似合う! リアルに似合う!! やっべぇー!!!
「……ふふふふふ、ふふふふふふふ、ふはははははははは……!」
笑いが止まらねぇ……!
とりあえず、ツインテールのまま勉強しようか。
ちなみに、輪ゴムだったので、取るのに物凄く痛かった。
ああ、髪の毛が輪ゴムに絡まってものっそい痛かったんだ。
◇◆◇◆◇◆
「いらっしゃいあせー……」
やる気のなさそうなバイトがレジを務める百円ショップ。なるべく俺は何の気も無さそうに入った。
挙動不審にはなっていないに違いない、絶対そうだ。
まずは文房具売り場に行ってカモフラージュだ。ちょっとぼろぼろになって換えたいと思っていたから、クリアファイルを手に取った。十枚入り、百円。安いな。
それから勘の導くままにファンシーなシール売り場。小学生の低学年の女の子が対象のシール売り場に高校生、まして男がいて良いわけがない。
だがしかし。
「ツインテール……!」
着せ替えタイプのシールがあった。これは買いだ、な。
面白そうな匂いに誘われて、シール売り場から離れた。
たどり着いたのはかばん売り場。百円ショップとは名ばかりで百円以上のものがほとんどだ。
他に特に買うものはないので、本命のあれを買いにいこうと思う。
レジの近くのアクセサリー売り場。きらびやかにラメだとかスパンコールだとかが光りすぎていて目に優しくない。
その一角、シュシュやクリップやピアスの並ぶなか、地味な黒いものが固まったところへ足を向ける。
……ああ、ドキドキする。変人扱いされないか心配だ。まあ、従兄弟に頼まれましたとでも言えば大丈夫だろうけど。
色々陳列されているなかの一つ、からまないヘアゴムを買ってみよう。輪ゴムみたいだけど、からまないと謳っているからにはからまないに違いない!
「……っしゃいやせー」
嬉々としてレジに向かうと、気だるそうな男が出迎えてくれた。ただし、心底面倒そうに。
「………………」
無言でレジ台の前に三つのものを置く。
男はぎょっとしていたが、そこは大人の心でスルーの方針です。
「百円の商品が一点、二点、三てーん、合計で三百十五円となりますー」
用意してあった金をトレーの中に入れる。レシートを渡さない素振りをしていたが、おこづかい帳をつけるために必要なのでもらった。
ふっ、大成功。
自動ドアをくぐってむわっとした外に出た。
ヘアゴム(ツインテール女子のシール)があれば怖いものなしだ。男子でもツインテールが似合うことがわかっている。
これから学校とかで友人とか友人とか友人とかをツインテール化させていこう。そしてゆくゆくは……
「ここに、全人類総ツインテール化計画を遂行することを宣言する!!」
まだセミは鳴いていない蒸し暑いテスト終了日、俺に返ってきたのは近所の人の冷たい視線だけだった。
◇◆◇◆◇◆
夏だ!
海だ!
宿題だ……。
「補習だぁー!!」
急に頭に衝撃が走る。詳しく言うと“ぁ”のあたり。
「うるさい、佐藤。静かにしろ。選択したお前が悪い」
「わりぃ、わりぃ……」
「集中しろよ」
「へいへい……」
補習だ。特にやることもない。
「……ヒマだ……」
その呟きはエアコンの音に紛れて消えてしまったらしく、誰からも返事はなかった。
「積分がわかんねーよぉ……ツインテールに見えるしよぉ……」
この補習は柳川さんが受けると聞いて受けてみたのだが、今はもう彼女はツインテールではない。なんと悲しいことではあるまいか!
「早く休み時間にならないかなぁ……」
校外にツインテールを探しに行くことも、校内でツインテールを作ることもできるのに……。
「……たりぃ……けど、宿題だしな……」
わからないものもわからないなりに解いて提出しよう。
学校で友達に手当たり次第にツインテールを作ったら、避けられるようになった。あれ、何で俺を避けるの。みんな俺と同じようにとっても似合っていたのに。ああ、きっと照れているんだね。大丈夫、タツヤにとても似合ってるよって言ったら、そういう意味じゃねぇんだよコノヤローって言われたヨ。やっぱりタツヤはツンデレだね、ツンデレ。隣のクラスの幼馴染みもしてあげたら、ユースケ僕はいいよ……と言われた。あれ。おかしいな。嫌われてる。ツインテールは男も女も関係なくかわいいと思うのだが。お、そうか。ツインテールは女のものと認識されているのか。じゃあ、その幻想をぶち壊す。ツインテールが女のものだなんて断じて言わせない。革命家も最初は忌み嫌われる。人々は変化を嫌うんだ。だったら、俺は嫌われ役になって人類にツインテールを広めようではないか! わっはっは……
「我は天下取りの武将なり!」
「静かにしろ、佐藤!」
先生に怒られただけだった。
フッ、革命家なるものいかなる試練も受けてみせるぜ!!
◇◆◇◆◇◆
「たーだいまっと……」
外はあっつい。体が溶けるぐらい暑い。ただし、風が吹くと涼しいが、最近吹くのは熱風ばかりだ。
「あ、お兄ちゃん、帰ってるよー!」
ソプラノボイスが返ってきた。あれ、帰って来てたのか。もう、夏休みだもんな。帰ってくるに決まってるよな。
「おー、勉強は頑張ってるかー?」
とたとたと身軽に駆けてくるヤツに向かって声をかける。
「もっちろん! 学年一位だもんね! 奨学金も貰ってるから頑張らないといけないからね!」
薄い胸をドンと叩く。
「今日の昼ごはんは何だ?」
「てきとーに食えだってさ。かーさんは働きにいってるよー。それより、お兄ちゃんはどう?」
「……ああ、ぼちぼちだな」
お前と比べるな。つーか、聞くな。
「……ぼちぼち……まあ、ぼちぼちだね! オール三のなりそこねだしね!」
球技をして健康的にこんがり焼けた顔。
「……それは言うなし!」
「ははは! だよねー。チャーハンだけどご飯作ったから、食べるー?」
立ち上がるが、すらりとした足がなんともなまめかし。
「ああ、食う。お前の料理は天才級だもんな」
「ちょっ、褒めすぎだよ……」
「なーに、ホントのことさ。勉強もできるし、運動もできるし、料理もできるし、かっこいいし、本当にお前は自慢の弟だよ。」
ああ、弟だ。妹ではない。妹の“お兄ちゃーん”なラブコメイベントなんて存在しない。
変声期はまだな(ボーイ)ソプラノ。中学に上がったというのに未だに伸びる気配のない身長、故に身軽な身体のこなし。九州の某有名男子私立中学校に首席合格したというすごい頭。(筋肉もあまりついていないので)薄い胸。野球をして健康的にこんがり焼けている。すらりとしたすね毛のない足がなんともなまめかし(←現代語訳すると、優雅だ、上品だ)。
騙されてくれただろうか。
「はい、皿に盛っといたよ!」
「お、ありがとな。いただきまーす、と」
「いただきまーす!」
「……っふぉ、ふめぇー!」
「お兄ちゃん、食べながら喋っちゃいけないよ」
「ん、わかった」
艶々と光るご飯、ふわふわと雲のような卵、以下略!
とにかくうめぇ! 表現のしようがねぇ!
「マジうめぇよぉ……お前、天才だな……!」
「そ、そんなことないよ……、お兄ちゃんもこのくらいできるでしょ?」
「いや、お前の方ができるからな!」
我が弟が誉められて照れている。
……言うぞ、言うぞ……!
「……? お兄ちゃんどうしたの?」
「お前をツ、ツインテールにさせて、くれ!」
頭を下げると口の中の米粒が数粒重力に引かれて落ちていく。
「え……あ、い、いいけど……僕、髪の毛ないよ?」
「ほえ?」
我が完璧な弟は野球部故、丸刈り頭だった。
「ほら、結べるだけ髪はないよ?」
弟は髪の毛を指先で摘まんでみるが、確かに一センチもなく、結ぶのはどうやっても無理そうだ。
ということは、だ。禿げた人なんかや、坊主頭の人はツインテールなんか無理な訳だ。…………!!
「…………―――――――――!!!」
「!? どうしたの、お兄ちゃん?」
「我が覇道、ここに尽きたり!!」
「大丈夫ー? お兄ちゃーん?」
「ん、ああ。大丈夫だとも。さあ、お前のおいしいご飯を食べよう」
「あ、……うん……」
『全人類総ツインテール化計画』は頓挫した!
ユースケに壱万のダメージ!
パッシブスキル“根性”発動! HPが壱残った!
ユニークスキル“虚栄心”発動! 弱った姿を見せない! (※一人になると気絶します)
「あ、お兄ちゃん! 僕、食べ終わったし、ちょっとトイレ行ってくるね!」
「あ、う、やめろぉー……」
ユースケは気絶した! (※意識が戻るまで残り二時間三十八分です)
「え、あ、お兄ちゃん? お兄ちゃん!? ど、ど、ど、どうしたの? ね、ねぇ! えーと、ど、どどどどうしよう……」
◇◆◇◆◇◆
カッコッカッコッカッコッ――――
先の尖った靴が木の床を蹴る音が聞こえる。ここはステージの上、ずれていることに気づいたネクタイを直す。
前方には白地に赤の国旗が飾ってあり、なんとも誇らしげだ。私もそれに負けないように胸をはる。
カッコッカッコッコツ――――
丁度ステージの真ん中、演説台の前で止まって皆の方を向く。
前に見えスーツ姿の人々は皆、上の方で二つに髪を束ねてある。腰までありそうな者もいれば、耳の高さもないぐらいの者もいる。
――ツインテール。
第百二十三代の総理大臣となった私は『全国民総ツインテール化計画』を発案した。賛否両論あったが、世論をちょこちょこっと弄って可決させた。
特に強制力もない法ができたが、大抵の国民は従ってくれた。ありがたいことだ。
今、私の目の前に、昔想像していた出来事が――!
一礼する。そして一呼吸して、
「――――――リリリ――…………」
――ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!
「んぅー……」
チンッ!
「んうっ、くあーあぁぁ……」
バフッ もふっ
「うぁー……」
ゴロゴロゴロ ドテシャ!
「……うあっ!」
「いてててて……あれ、さっきのは…………夢か。なんだぁ……」
みんながツインテールになってくれたのかなと、思ったのに。
まあ、いいや。俺がそれを達成すればいいのだから。
今日見た夢はきっと正夢。ぜぇーったい、正夢。正夢に違いない!!
「うをっしゃーーー!!! 俺は、やるぜー!!!」
「ん、ぅー、うるさいよ、ユースケ……」
俺の部屋に居候しているヨースケがうるさそうに言ったが、もう遅かったらしくむくりと起きた。
「あ、ごめん、ヨースケ。……あ、そうだ。……ものは相談なんだけど……、勉強、教えてくれないかな?」
全人類総ツインテール化をするためには、東大に軽々合格できるような学力がないといけない気がする。
「んー、数1までしかおしえれないよ?」
「お願いします、先生様!」
すぐさま土下座をして教えを乞う。中一に教えを乞う高二って……!
「……しょうがないなぁ、僕がここにいる間だけだよー? 何でそもそも勉強する気になったの?」
「それはな……」
一拍置いて、
「俺の夢を叶えるためだ!!」
それは夏のちょうど半ば、あるよく晴れた日の朝のことだった。
カーテンの隙間から朝日がこぼれる中、ジーワジーワとセミが鳴いていた。