↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/54

ギフテッド一寸法師の部外者、あるいは漫画家

 子供の頃から漫画家になりたかった。いや、本音では何者かになりたかっただけなのかもしれない。


「うーん、全然バズらないな……」


 わたしは自分のSNSを見ながら、苦い溜め息をつく。先日、SNSに自作をアップしたが。いいねがポツポツとついているだけ。PVも伸び悩む。アップしてから数日、ついにPVゼロになってしまった。


 内容はラブコメ。地味で冴えない女子高生がクラスで一番のイケメンと付き合う王道もの。おかしいなぁ。わたしが子供の頃に読んだ漫画、こういうラブコメばっかりだったのに。


 一方、バズっている漫画を見てみる。サレ妻が夫を殺害したり、会社員が整形依存の部下に復讐したり、キャバ嬢が過去にいじめた男に貢がせる話など、パッと目を引くテーマが多い。正直、わたしはラブコメが好きなので好みじゃないが、バズっている漫画は人を惹きつける何かがある。


「私にはそれが無いもんなぁ。いつまでも漫画家目指すなって意味なんかな……」


 他人の作品を見て落ち込む。やっぱりわたし、何者にもなれなかった。こんな人生で本当にいいのか。好きなこととかやりたいことで自己実現しなくていいのか。誰かに責められているような気がした時だ。


 同じ漫画家志望の友達から連絡がきた。友達は実家が太くていつまでも漫画家志望みたいなことをしていても許される立場で、さほど親しくもないのだが、知り合いの編集者を紹介してくれるという。


「え、本当?」


 こんなチャンス、滅多にない。わたしはよく考えずに食いつき、編集者と会うことになった。


 作品を見せ、編集者に感想を待つ。相手は無言だ。チェーン店の賑やかなカフェにいるのに、この妙な間に緊張。


「うん、なるほどね」


 編集者は丁寧に読んでくれた。絵はそこそこ上手いし、キャラの描きわけも丁寧で才能があると言ってくれた。


「本当ですか? ありがとうございます!」


 嬉しい。才能があるなんて。今は自信もなかったし、報われた気分。


「でも、こういう平成ラブコメって今の流行りじゃないんだよなぁ」

「えっ?」

「確かに才能はある。うん、漫画としてまとまってもいるが、なんか惜しい。簡単に言えば令和風にしたら絶対バズるよ」

「令和風って?」

「まあ、一番手堅いのはなろう系のコミカライズかな。コミカライズは漫画家が足りないぐらいでさ」


 なろう系というと西洋風世界のファンタジーだが、どちらかといえば作画がシンプルな私は、現実世界のが描きたかった。


「それは厳しいよ。西洋風のファンタジー描ければ需要あるんだけどなぁ」

「そうですか……」

「現代ものだったら、今は露悪系がトレンド。そっち系を描いてみたら?」

「露悪系?」

「たとえサレ妻が夫を復讐するとか、スカッと系とかさ。整形依存女子が堕落していくとか」


 そういうのはSNSでバズっているから人気なのは知っている。でもそれを書ける才能、あるだろうか。


「大丈夫。俺が色々テーマのコツとか教えてあげるから。ま、試しにやってみなよ」

「そ、そうですか……」


 あまり気乗りないものの、こんなチャンスはないだろう。私は断れず、編集者が言われるままにストーリーを作り、SNSに投稿した。


 夜職の若い女性の物語だった。キャバクラでもミスが多く、何かハンデがありそうなヒロインがホストにハマり、破滅していく過程の物語。途中、ヒロインはハンデを自覚し、福祉に頼ろうとはしたが、作業所の単純作業や低い賃金に耐えきれず、結局、ホストへの依存を強めてしまう。この過程、SNSで賛否両論が巻き起こり、あっという間にバズってしまった。


「な、なにこの数字……」


 SNSには誹謗中傷も届いたが、それ以上にPVやいいねの数に目眩がしそう。ネットでバズったというお墨付きがつき、例の編集者を通して大手出版社と契約し、本も出ることになった。


 その後も編集者の指導の元、どんどんヒロインが堕ちていく様子を描き、本は売れに売れた。ネットの賛否両論も止めらず、炎上も止まらない。福祉を舐めているとか、差別を助長するとか、社会問題をエンタメにするなとか散々な言われよう。主人公の「ミナちゃん」の名前もミーム化し、チー牛や弱者男性のようにネット上の蔑称にまで発展してしまった。


「担当さん、どうしよう。もうなんか炎上が止まらないみたいです。福祉団体から意見書も出されているなんて……」


 電話で編集者に相談しても、ろくに聞いてくれない。とりあえず売れたからいいじゃないっていうノリ。バズったらそれで成功で。


「本当はこんな注目されるような器じゃないです。平成風のダサいラブコメばっかり描いているような漫画家なのに……」


 同業の友達にも嫉妬され、ついに友達もゼロになってしまった。


 そんな時だった。SNSに福祉関係者から「うちのB型作業所に取材しに来ない?」という誘いが届く。私の作品のツッコミどころも書いてあったが、悪意はなさそう。障害者が農作業と菓子作りをやっている福祉施設らしいが、作品にいい影響があるかもしれない。行ってみることにした。


 主に精神障害者が利用している福祉施設らしい。意外といってはなんだが、おとなしそうな人が多い。他害自害の可能性がある人は病院にいるという。


 農作業や菓子作りも本格的だ。プロも指導者にいるらしく、楽しそうに働いている利用者もいる。一方で単純作業でも辛そうな顔の利用者もいた。障害といっても人それぞれ。利用者にあった支援を福祉士たちが提案する形が多いのだという。


「障害者といっても全員が全員、農作業やお菓子作りが合ってるわけでもクリエイターが向いているわけでも無いですからね」

「へぇ」


 だったらなぜこの施設では農作業やお菓子作り、障害者アートの展示をしているのか。疑問だったが、それは聞いちゃいけないかもしれない。


「あれ、あの一番小柄な子は?」

「あぁ、あの子は一寸法師くんって呼ばれてるの。一寸法師くーん、挨拶して」


 福祉士に呼ばれた一寸法師くんは、なぜか自己紹介をすると、円周率を何桁も披露。一寸法師くんは数学の才能があるらしい。


「すごいね、一寸法師くん!」


 福祉士はパチパチと手を叩き褒めているのに、一寸法師くんは不満そうだった。チッと舌打ちし「幼稚園児みたいな褒め方すんな」と言う。小さな声。福祉士の耳には届かなかった。わたしの耳だけに届いたようで、一寸法師くん、バツが悪そう。


「福祉なんて結局、一番低い人にレベルを合わせるからね。毎日、やりがい無くてクソつまらん」


 開き直った一寸法師くん、私に悪い面を躊躇なく見せてきた。やりがいかぁ。やりがい搾取されるクリエイターのがいいってことなんだろうか。


「しかも子供の小遣いレベルの工賃だ。そんな福祉を喜んで道化に徹するのが、福祉士たちに好都合なんだろうよ」

「ちょ、一寸法師くん! なんてこと言うの!」


 福祉士は怒るというより戸惑っていた。


「福祉は魔法でも打ち出の小槌でもない。何者にもなれなかったら、どこ行っても同じなんだよ」


 最後に一寸法師くん、私への捨て台詞も忘れていなかった。


「でも自称一寸法師とか面白いな。ネタにしようかな。そうか、あの子をモデルになろうで小説でも書いていいか。漫画のPNだと色々問題あるし」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。