今夜はおでんやで
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「おっちゃん、ちょっとええかな」
「らっしゃい」
「嫁はんから買い物いわれてんけど……」
「ほうか。偉いやないか。日ごろから母ちゃん孝行しとき」
「せやな……。ほいで、この大根欲しいねんけど」
「おう、こいつは朝採れのピチピチや。よう肥っとるやろ。わしんとこは契約農家としか取り引きしてへんさかいな。ほとんど有機野菜やで」
「いや……、立派な大根っちゅーのは俺かて見ればわかんねんけど……」
「なら、なんや?客は他におらへんけど、わしゃ今フォーチーエイトのビデオ途中で止めてんねん。ユーツーブや。つまるとこ忙しいんや」
「大根。この箱ん中、十本くらい入っとんのかいな」
「あ?……まぁ、そんなもんやろ。あー、兄ちゃん、料理人かいな。仕入れやな。やったら裏に……」
「いや、ちゃうちゃう!俺はふつうのリーマンや。おでんの材料買ってこい、いわれてきただけや」
「なら、なんや?量がわからんのか?相撲部屋か?アメフトか?」
「嫁はんと二人や」
「うん?あー……、あかん、半売りはしてへん」
「いや、一本でええんやけど」
「はぁ?あんた最前から何いうとんのや。やったら、はじめっから一本買わんかい。なんや、わしにこっからレジまで持ってかせて、袋に入れろいうんか」
「まぁまぁ、おっさん落ちつけや。俺がいいたいんは値段や。一本の値段を訊きたかってん」
「あほんだら!見えんのかい、これが。もっとでか書けっちゅーんかい!」
「超特価二千五百円」
「見えとるやないかい。なんやねん、おどれは。フォーチーエイトが待っとんねんぞ。はよ、買ってから去ねや」
「まさか一本、二千五百円?」
「まさかも逆さまもあるかい!出血価格や」
「え〜〜っと……、二千五百円?大根一本が?」
「なんや、文句あるんか?三丁目のスーパー行ってみぃ、二千七百円で昨日売っとったで」
「……ちょ、待てや。なんやねん、これ。よーよー見たら、きゅうり二千三百円?ト…マト三千五百円?一個?……はぁ?どないなっとんや、これ」
「今日は特売日やからな。わしかて汲々や」
「特売って……、通常はなんぼすんねん、大根」
「通常いうても野菜は時価やさかいな。お天道さん次第や」
「それかて、なんぼなんでも二千五百円はないやろ」
「長々とあんたなぁ、ケチっとったら出世せんで」
「いや、ケチも何も、こんなんでおでん作っとったら全部でなんぼすんねんな」
「は?おでんなんぞ、三万もありゃ釣りが来るやろがい」
「おいおい、俺は超高級おでん屋に来たんとちゃうねんど!自前で作っておでんが三万かい。わしゃ、毎月なんぼ稼げばええんや。すぐに破産するわ」
「…………」
「おっさん、なんとかいえや」
「…………や」
「あ?なんて?」
「…………てや」
「…………」
「…………きてや」
「…………ん?」
「ねぇっ!そろそろ起きてぇや」
「あ?……夢かいな」
「うたた寝いう割には、しっかり寝てたで」
「ほうか……」
「ね、駅前の八百屋さんに買い物行ってきてくれへん?うち、出汁とったりいろいろ仕込みが忙しいねん」
「わかった、ええよ。何作んのや」
「へっへー。今夜はおでんやで」




