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おめめを拝借 小話の公園

今夜はおでんやで

作者: 松本遊心
掲載日:2026/03/30

—8

「おっちゃん、ちょっとええかな」

「らっしゃい」

「嫁はんから買い物いわれてんけど……」

「ほうか。偉いやないか。日ごろから母ちゃん孝行しとき」

「せやな……。ほいで、この大根欲しいねんけど」

「おう、こいつは朝採れのピチピチや。よう肥っとるやろ。わしんとこは契約農家としか取り引きしてへんさかいな。ほとんど有機野菜やで」

「いや……、立派な大根っちゅーのは俺かて見ればわかんねんけど……」

「なら、なんや?客は他におらへんけど、わしゃ今フォーチーエイトのビデオ途中で止めてんねん。ユーツーブや。つまるとこ忙しいんや」

「大根。この箱ん中、十本くらい入っとんのかいな」

「あ?……まぁ、そんなもんやろ。あー、(あん)ちゃん、料理人かいな。仕入れやな。やったら裏に……」

「いや、ちゃうちゃう!俺はふつうのリーマンや。おでんの材料買ってこい、いわれてきただけや」

「なら、なんや?量がわからんのか?相撲部屋か?アメフトか?」

「嫁はんと二人や」

「うん?あー……、あかん、半売りはしてへん」

「いや、一本でええんやけど」

「はぁ?あんた最前から何いうとんのや。やったら、はじめっから一本買わんかい。なんや、わしにこっからレジまで持ってかせて、袋に入れろいうんか」

「まぁまぁ、おっさん落ちつけや。俺がいいたいんは値段や。一本の値段を訊きたかってん」

「あほんだら!見えんのかい、これが。もっとでか書けっちゅーんかい!」

「超特価二千五百円」

「見えとるやないかい。なんやねん、おどれは。フォーチーエイトが待っとんねんぞ。はよ、買ってから()ねや」

「まさか一本、二千五百円?」

「まさかも逆さまもあるかい!出血価格や」

「え〜〜っと……、二千五百円?大根一本が?」

「なんや、文句あるんか?三丁目のスーパー行ってみぃ、二千七百円で昨日売っとったで」

「……ちょ、待てや。なんやねん、これ。よーよー見たら、きゅうり二千三百円?ト…マト三千五百円?一個?……はぁ?どないなっとんや、これ」

「今日は特売日やからな。わしかて汲々(きゅうきゅう)や」

「特売って……、通常はなんぼすんねん、大根」

「通常いうても野菜は時価やさかいな。お天道さん次第や」

「それかて、なんぼなんでも二千五百円はないやろ」

「長々とあんたなぁ、ケチっとったら出世せんで」

「いや、ケチも何も、こんなんでおでん作っとったら全部でなんぼすんねんな」

「は?おでんなんぞ、三万もありゃ釣りが来るやろがい」

「おいおい、俺は超高級おでん屋に来たんとちゃうねんど!自前で作っておでんが三万かい。わしゃ、毎月なんぼ稼げばええんや。すぐに破産するわ」

「…………」

「おっさん、なんとかいえや」

「…………や」

「あ?なんて?」

「…………てや」

「…………」

「…………きてや」

「…………ん?」

「ねぇっ!そろそろ起きてぇや」

「あ?……夢かいな」

「うたた寝いう割には、しっかり寝てたで」

「ほうか……」

「ね、駅前の八百屋さんに買い物行ってきてくれへん?うち、出汁とったりいろいろ仕込みが忙しいねん」

「わかった、ええよ。何作んのや」

「へっへー。今夜はおでんやで」

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