第四話 舐められた団
王城、円卓会議室。
各騎士団の団長、副団長が集まっていた。
重厚な扉が閉まる。
空気は静かだが、張り詰めている。
第三騎士団団長アルドは、椅子に深く腰掛け、足を組んでいた。
肘掛けに頬杖。
やる気はない。
その隣に、赤髪の副団長リーネが背筋を伸ばして立つ。
向かいには、第二騎士団団長バルグ。
大柄で、鎧の上からでも筋肉が分かる男だ。
その隣に副団長。
第一騎士団は団長不在、副団長のみ出席している。
議長役が口を開く。
「先日の王都南方におけるミノタウルス討伐について、第三騎士団より報告を」
アルドは動かない。
リーネが一歩前へ出る。
「南方森林地帯にて、通常種より大型・高魔力個体のミノタウルスを確認。統率された魔物群を伴っていました」
ざわめき。
「被害は?」
第二団長バルグが低く問う。
「重傷三名、軽傷七名。死者なし」
一瞬、空気が止まる。
「……死者なしだと?」
「はい」
リーネの声は揺れない。
「討伐は現地にて完了。魔核も回収済みです」
沈黙。
バルグの視線がアルドへ向く。
アルドは欠伸を噛み殺している。
「第三だけで?」
「はい」
「応援要請はなかったはずだ」
「不要と判断しました」
バルグの眉が動く。
「判断を下したのは誰だ」
リーネは一瞬だけアルドを見る。
アルドは何も言わない。
足を組んだまま。
「団長です」
静かな答え。
バルグの口元が歪む。
「昼寝している団長が、か?」
空気が冷える。
他団の何人かが視線を逸らす。
リーネの目が鋭くなる。
だがその前に、アルドがようやく口を開いた。
「何か問題あるか」
声は低い。
だが静かすぎる。
バルグが鼻を鳴らす。
「偶然だ。運が良かっただけだろう」
「そうか」
アルドは肩をすくめる。
「じゃあ次は任せる」
軽い。
だが刺さる。
バルグの目が細くなる。
「言うな。統率された魔物群だぞ。背後に何かいる可能性が高い」
「知ってる」
あっさり。
「だから潰した」
室内の空気が変わる。
第一騎士団副団長が口を開く。
「統率の痕跡は?」
リーネが答える。
「魔力の干渉跡がありました。単独変異ではありません」
ざわめきが広がる。
バルグが机を叩く。
「だからこそだ! なぜ独断で動いた!」
リーネは即座に返す。
「被害が拡大する前に動くのが騎士団の役目です」
「第二に相談するべきだった!」
「静観と仰っていたのは、どなたでしたか」
空気が凍る。
鋭い反撃。
バルグの拳が軋む。
アルドは頬杖のまま。
目だけがわずかに動く。
「……第三は命令系統を乱す」
バルグの声が低い。
「勝手に動き、勝手に成果を持ち帰る」
アルドが小さく笑う。
「文句あるなら、先に動け」
静寂。
その一言は、あまりにも単純だった。
だが否定できない。
議長が咳払いをする。
「いずれにせよ、統率型魔物の出現は重大案件です。今後は合同調査とします」
第一騎士団副団長が頷く。
「同意します」
バルグは不満を隠さない。
「第三も当然参加だ」
アルドは椅子から立ち上がる。
伸びをする。
「副団長が行く」
リーネがわずかに目を見開くが、すぐに頷く。
「承知しました」
バルグが皮肉を込める。
「団長はまた昼寝か」
アルドは振り向かない。
扉へ向かいながら言う。
「壊れたら呼べ」
そのまま退出。
室内に残された空気が重い。
リーネは深く一礼する。
「報告は以上です」
第三騎士団は退室する。
廊下。
リーネが横に並ぶ。
「……もう少し穏便にできませんか」
「してる」
即答。
「十分穏便だ」
リーネは小さくため息をつく。
だが口元はわずかに緩んでいる。
「第二は動きますね」
「ああ」
アルドは窓の外を見る。
王都の向こう、遠い森。
「面倒になる」
だが目は、笑っていない。
「来るなら来い」
圧倒的強者の余裕。
そしてその背後で、第三騎士団は静かに動き始める。
舐められた団。
だが今日、円卓の空気は変わった。
第三は、軽くない。
そして第二騎士団は――
黙っていない。




