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君の声が、時間を動かす  作者: 凪砂 いる


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22/22

エピローグ:その日々に、名前をつけるなら

 春の光が、校舎の窓をやさしく照らしていた。

 私は、教室の窓際の席で、ノートをめくっていた。

 ふと目をやると、隣の席の彼が、こっちを見ていた。

「また夢のネタ、書いてるの?」

 湊くんは、少しだけからかうように笑う。

 でもその目は、前よりもずっと柔らかくて、ちゃんと『今』を生きている光を宿していた。

「夢じゃないよ。これは、現実の続き。……私たちの、物語のこと」

「……ああ。そうだな」

 

 彼は頷いて、視線を外の校庭へ向ける。

 桜の花が風に舞っていた。もう、春だ。

 中学の文化祭のあと、いろんなことが変わった。

 夢を見なくなった代わりに、『現実』の中にあたたかい時間が増えた。

 笑い合う日が増えて。

 ぶつかることも、黙ることもあったけど、いつもどこかでつながっていた。

 湊くんは言った。

「過去があったから、今があるって、やっと思えるようになったよ」

 私はうなずいた。

「……私も。過去を抱えたままでも、未来は選べるって思えるようになった」

 夢の中で見ていた時計屋。彼岸花の咲く場所。

 時が止まったようだったあの記憶たちは、今では『ただの過去』になっていた。

 それでも、とても大切な、大切なもの。

 それを知ったうえで、私たちは『今』を選んでいる。


 放課後。昇降口までの廊下を、並んで歩く。

 手は繋がないけれど、近くにいる。その距離感が、心地よかった。

 外に出ると、少し風が吹いた。

「もうすぐ、また季節が変わるね」

 私が言うと、湊くんは小さく笑って言った。

「……でも、どの季節が来ても、オレはちゃんと『今』を生きるよ。侑ちゃんがいてくれたから、そう思えるようになった」

 私の胸が、あたたかくなる。

 

「あの日から、物語はもう『夢』じゃなくなったんだよね」

「うん、現実の続き。……ふたりで歩く、未来の話」

 そのとき、不意に彼の手がそっと、私の手に触れた。

 つないだわけじゃない。でも、それで十分だった。

 ――春の風が吹く。

 過去を包みながら、未来へと運んでいくように。


 あの日々に名前をつけるなら――それはきっと、「希望」という名前だった。

 何度転んでも、何度夢から醒めても。

 ふたりでまた歩き出せる、確かな“今”がここにある。

 だから、私たちは大丈夫。

 もう、『夢』に迷わなくていい。

 もう、『過去』に縛られなくていい。

 

 ――『今』を生きる、その手を離さないかぎり。

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