22.その未来に、花が咲くなら
冬がすぐそこまで来ていた。
金木犀の香りはもう消えて、風が冷たくなった。
それでも、私の胸の奥には、あたたかいものが残っていた。
湊くんの記憶。時計屋の夢。
母さんと父さんが昔話のように語っていた“輪廻の呪い”のこと。
――そして、その先に私が生まれた理由。
あの日の夜、父さんと母さんは初めて、静かに語ってくれた。
「君が生まれた時、私たちは思ったんだ。『呪いの終わり』じゃなくて、『願いの果て』だったんだって」
「過去に縛られるためじゃなくて、『今』を生きてほしかった。『未来を選べる子』になってほしかったんだよ」
私はうなずいた。
その言葉の意味が、今ならちゃんとわかる気がした。
「だから私は、『誰かの悲しみの代わり』なんかじゃない。ここに、ちゃんと、自分としている」
過去に囚われるのではなく、過去を越えて生きていく。
それが、自分に託されたものなら――その道を選びたいと思った。
その日の夕方。
学校の帰り道。
湊くんと並んで歩く足音が、落ち葉を踏むリズムに混じっていた。
「……オレ、夢を見なくなった」
湊くんがふとつぶやいた。
「時計屋の夢も、彼岸花の野原も。あんなに繰り返し見てたのに、もう、出てこない」
「それはきっと……終わったんだと思う。過去の時間が」
「そう、かもな」
彼は少し笑った。あの、どこか寂しげだった笑顔とは違う、確かな『今』の中にある顔。
「……でも、不思議だよ。夢が終わったのに、オレの中にはまだ『あの時間』がある。母さんの声も、赤い花も、侑ちゃんの姿も。ちゃんと覚えてる」
「それは……『大切な記憶』になったってことだよ」
湊くんが足を止めた。振り返った顔が、夕陽に染まっている。
「侑ちゃん。オレ、きっともう一度やり直せる。過去を否定しないで、抱えたまま、それでも進める気がする」
「うん。私も、そう思うよ」
ふたりの距離は、もう『触れるだけ』の距離にある。
でもそれ以上に、ふたりの心は確かに、同じ未来を見ていた。
風が吹いて、木の枝が揺れる。
落ち葉が舞い、ふわりと一枚、私の肩に落ちた。
「ねぇ、湊くん」
私は、そっと笑う。
「私たち、きっと、ここからが『始まり』なんだね」
「輪廻の話は、もう終わった。あとは……『今』を選ぶだけだ」
「うん。『今』を生きる。ふたりで」
小さく手が伸びて、彼の手に重なった。
その温もりは、確かにここにある。
『運命』に導かれたわけじゃない。『前世』の続きでもない。
これは、今ここにいる『私たち』の、最初の一歩。
未来は、まだ白紙だ。
でもきっと、ふたりで描いていける。
たとえば、傷を抱えたままでも。不安の中にいても。
寄り添いながら、生きていく未来を。
――だから、これは『輪廻の終わり』ではなく、『希望の始まり』の物語。
その未来に、きっとまた、花が咲く。
赤くもなく、白くもなく。
ふたりだけの、優しい色で――。




