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君の声が、時間を動かす  作者: 凪砂 いる


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21/22

22.その未来に、花が咲くなら

 冬がすぐそこまで来ていた。

 金木犀の香りはもう消えて、風が冷たくなった。

 それでも、私の胸の奥には、あたたかいものが残っていた。

 湊くんの記憶。時計屋の夢。

 母さんと父さんが昔話のように語っていた“輪廻の呪い”のこと。

 ――そして、その先に私が生まれた理由。

 あの日の夜、父さんと母さんは初めて、静かに語ってくれた。

「君が生まれた時、私たちは思ったんだ。『呪いの終わり』じゃなくて、『願いの果て』だったんだって」

「過去に縛られるためじゃなくて、『今』を生きてほしかった。『未来を選べる子』になってほしかったんだよ」

 私はうなずいた。

 その言葉の意味が、今ならちゃんとわかる気がした。

「だから私は、『誰かの悲しみの代わり』なんかじゃない。ここに、ちゃんと、自分としている」

 過去に囚われるのではなく、過去を越えて生きていく。

 それが、自分に託されたものなら――その道を選びたいと思った。


 その日の夕方。

 学校の帰り道。

 湊くんと並んで歩く足音が、落ち葉を踏むリズムに混じっていた。

「……オレ、夢を見なくなった」

 湊くんがふとつぶやいた。

「時計屋の夢も、彼岸花の野原も。あんなに繰り返し見てたのに、もう、出てこない」

「それはきっと……終わったんだと思う。過去の時間が」

「そう、かもな」

 彼は少し笑った。あの、どこか寂しげだった笑顔とは違う、確かな『今』の中にある顔。

「……でも、不思議だよ。夢が終わったのに、オレの中にはまだ『あの時間』がある。母さんの声も、赤い花も、侑ちゃんの姿も。ちゃんと覚えてる」

「それは……『大切な記憶』になったってことだよ」

 

 湊くんが足を止めた。振り返った顔が、夕陽に染まっている。

「侑ちゃん。オレ、きっともう一度やり直せる。過去を否定しないで、抱えたまま、それでも進める気がする」

「うん。私も、そう思うよ」

 ふたりの距離は、もう『触れるだけ』の距離にある。

 でもそれ以上に、ふたりの心は確かに、同じ未来を見ていた。


 風が吹いて、木の枝が揺れる。

 落ち葉が舞い、ふわりと一枚、私の肩に落ちた。

「ねぇ、湊くん」

 私は、そっと笑う。

「私たち、きっと、ここからが『始まり』なんだね」

「輪廻の話は、もう終わった。あとは……『今』を選ぶだけだ」

「うん。『今』を生きる。ふたりで」

 小さく手が伸びて、彼の手に重なった。

 その温もりは、確かにここにある。

『運命』に導かれたわけじゃない。『前世』の続きでもない。

 これは、今ここにいる『私たち』の、最初の一歩。

 未来は、まだ白紙だ。

 でもきっと、ふたりで描いていける。

 

 たとえば、傷を抱えたままでも。不安の中にいても。

 寄り添いながら、生きていく未来を。

 ――だから、これは『輪廻の終わり』ではなく、『希望の始まり』の物語。

 その未来に、きっとまた、花が咲く。

 赤くもなく、白くもなく。

 ふたりだけの、優しい色で――。

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