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君の声が、時間を動かす  作者: 凪砂 いる


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19/22

20.今の彼を、見ていたい。

 放課後、教室には夕陽が差し込んでいた。

 カーテンが揺れて、机の上に影を落とす。

 掃除当番を終えて戻ってきた私は、なんとなく席に座ったまま、ぼんやり窓の外を眺めていた。

 

「……侑ちゃん」

 声に振り返ると、湊くんが教室の入り口に立っていた。

「……あ、湊くん。どうしたの?」

「いや、なんとなく。……帰る前に、ちょっとだけ顔が見たくなった」

 不意の言葉に、胸の奥がきゅっとなる。

 

 湊くんは照れたように視線を逸らして、窓際の席に腰を下ろした。

「今日……また、夢を見たんだ」

 その声に、私は息を呑んだ。

「……時計屋の夢、でしょ?」

「――うん。懐中時計が動いていて、どこかで聞いたような声がした。『時間が記憶を繋ぐ』……そんな言葉だった」

 私は、胸がじんとするのを感じながらうなずいた。

「私も、見た。……たぶん、同じ夢」

 

 沈黙が落ちる。

 でも、それは重苦しいものじゃなくて、言葉にならない何かを共有しているような、不思議な静けさだった。

「ねぇ、湊くん……」

 私はそっと、声をかけた。

「うん?」

「……『おとぎ話』って、信じる?」

 湊くんは、少しだけ驚いた顔をして、それから静かに目を伏せた。

「昔は、信じたかった。でも、大人たちに『現実を見ろ』って言われて……いつの間にか、自分でも忘れてたかも」

「でもさ、もし本当に、あの夢の中の世界が、過去の誰かの記憶だったとしたら……。私たちは、何かを繋ごうとしてるのかもしれないよ」

 湊くんの横顔が、夕陽に照らされて柔らかく滲んだ。

「……そうかもな」

 彼はふっと笑った。その笑顔は、どこか寂しげで、でも、あたたかかった。

 

「侑ちゃんさ……オレに『いていいよ』って言ってくれたよな」

 私は、ゆっくりうなずく。

「今もそう思ってる。湊くんは、ここにいていい」

 その言葉に、湊くんがこちらをまっすぐ見つめた。

 視線が交差して、心が少しだけ、深く震える。

「……オレ、侑ちゃんに会えてよかった。ほんとに」

 それだけで、胸がいっぱいになる。

 彼の声が、まるで時計の針みたいに、心の中の何かを動かしていく。


 夕暮れの廊下を、二人で並んで歩く。誰もいない、静かな学校。

 ただ、窓から差し込む光と、二人の足音だけが響いていた。

 私は、そっと手を伸ばしたくなった。

 でも――まだ、その一歩が、少しだけ怖くて。

 でも、それでも。

 確かに心は、彼の方へゆっくり、でも確かに、歩み寄っていた。


 夢が、過去が、私たちを繋げる。

 けれど、私は“今”の彼をちゃんと見ていたい。

 そして、できるなら――。

 これから先の時間も、一緒に歩いていきたい。

 そんな願いが、静かに胸の中に灯っていた。

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