19.夢の奥、時を越えて
その夜、私はまた夢を見た。
静まり返った夜の中、私は、あの場所にいた。
どこか懐かしく、でも決して現実ではありえない空間。
――古びた木の床、ふわりと埃の舞う空気。
壁に並んだ、ぜんまい仕掛けの古時計たちが、静かにこちらを見下ろしている。
夢の中の『時計屋』は、相変わらず時間が止まっているようだった。
だけど、今夜は、何かが違った。
奥へと進んでいくと、ふいに――「カチ、カチ」と、かすかな音が耳に届く。
ひとつの懐中時計が、ゆっくりと動き出していた。
(……動いてる)
その時計には、どこか見覚えがあった。
そう。あれは、昔、父さんのアトリエの棚に飾られていたものに、よく似ていた。
懐中時計の蓋がひとりでに開き、中から淡い金色の光がふわりと立ち上る。
そして、その光の中から、誰かの声がした。
『時間は、記憶を繋ぐ。心と心を、つないでいく』
やさしくて、でもどこか切ない声。
その言葉が、胸の奥にすとんと落ちていった。
視界が、ふっと揺れる。
気づけば、私はまた彼岸花の花畑にいた。
赤い花が、さわさわと風に揺れている。
そして、その中央に――湊くんがいた。
今の姿のまま、静かに、遠くを見つめている。
「……湊くん」
私は歩き出す。
彼に近づこうとする。手を伸ばす。
でも――その姿は、まるで霧のように、するりと遠のいていった。
「待って……!」
足を踏み出そうとした瞬間、視界が白く染まっていく――。
目を開けると、朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
胸の奥が、妙にざわざわする。夢だったのに、夢じゃない。
時計の音も、声も、確かに聞こえた気がして。
私はベッドから起き上がって、そっと呟いた。
「――時間は、記憶を繋ぐ……」
もしかして、私たちが見ている夢は、ただの『夢』じゃないのかもしれない。父さんと母さんが昔話していた『おとぎ話』――。
それは、呪いを越えて結ばれた物語だった。
そして私は、その先に生まれた“希望”――。
その意味が、ほんの少しだけ、わかってきた気がした。
制服に袖を通して鏡を見た時、自分の目が、少しだけ強くなったように思えた。
今日は、湊くんに話そう。夢のこと。時計のこと。
そして、自分の中にある、この気持ちのことも。
ちゃんと、向き合いたい――そう思った。




