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君の声が、時間を動かす  作者: 凪砂 いる


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15/22

16.ここにいて、いいんだ。

 朝。文化祭当日の学校は、普段よりも活気づいていた。

 カラフルな装飾、笑い声、慌ただしく走り回るクラスメイトたち。

 お化け屋敷の準備も大詰めだった。

 

「湊くん、こっちのスピーカーのチェックお願い!」

「うん、任せて」

 

 少しずつ、湊くんの返事には迷いがなくなっていた。

 照明の位置を確認しながら、段取りを指示する姿には、かつての彼の影が薄れていくようにさえ思えた。

 私は、その姿を少し離れたところから見守っていた。

(気づけば、湊くんはもうちゃんと『ここ』にいる。……そのことが、すごく嬉しい)


 開店直後、クラスの出し物『本格お化け屋敷』には、次々とお客さんがやってきた。

 彼は暗幕の奥で、タイミングを見計らって仕掛けを作動させたり、音を鳴らしたり。

 驚かせ役としても、なかなかの腕前を発揮していた。

 

「キャーッ!」

「ひゃっ、なに今の!?」

「超リアルなんだけど!」

 

 班の子たちが彼へ笑顔を向ける。

「湊くん、今の完璧だった!」

「びっくりしすぎて泣いてる子いたよ、すごーい!」

「……ありがとう」

 湊くんが小さく、でも確かに笑った。

 その笑顔を見た瞬間、私の胸がじんわりと熱くなった。


 昼過ぎ。 私は備品の確認のために、ひとりで通路の奥へ入った。

「……ここ、大丈夫かな?」

 次の瞬間。

「うわっ……!」

 背後から不意に、音とともに何かが飛び出した。

「きゃっ……!」

 私は思わず、誰かの腕をつかんでいた。

「びっくりした?」

「……湊くん!? もう、びっくりさせないでよ!」

 彼はすまなそうに笑いながら、私の手を優しく包んだまま言った。

「ごめん。でも、侑ちゃん、めっちゃいいリアクション」

「うぅ……もう……」

 手を放そうとしたけど、そのぬくもりが、なんだか懐かしくて。 ほんの一瞬だけ、手をつないだままの時間が流れた。


(あの時、つかんだのは手だけじゃなかった気がした。……心の奥の方で、何かが動いた)


 夕方、片付けの時間。

 机や装飾を片づけながら、湊くんがふとつぶやいた。

「……なんか、楽しかったな」

「うん、すごく盛り上がったよね」

「声出しても、変じゃなかったし……ちゃんと、オレのこと、見てくれる人がいるんだなって」

 私は作業の手を止めて、彼を見た。

「湊くんの声、ちゃんと届いてたよ。皆にも……そして、私にも」

 彼は、ふっと照れたように笑った。

 その笑顔に、今まで見たことのない色が混じっていた。

 安心と、少しの自信と、そして――何かが始まりそうな予感。


 夕焼けの教室。 片付け終えた教室で、ふたり並んで窓の外を眺めていた。

「……ここにいても、いいんだって。少しだけ思えた」

 ぽつりと湊くんがつぶやいた。

 私はうなずいて、そっと答えた。

「ううん。少しだけなんかじゃなくて、ちゃんと、いていいんだよ」

 肩と肩が、触れそうで触れない距離。

 それでも、心はあたたかくつながっていた。


 その夜、私は日記帳を開いてペンをとった。


『今日、湊くんが少し笑った。 その笑顔を、もっと見たい。 その声を、もっと聞きたい。 これからも、そばにいたい――そう思った』


 静かにページを閉じ、私は窓の外の夜空を見上げた。

 星が、いつもより輝いて見えた。

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