真実を打ち明ける時(第七話)
謎の新型ウイルスが、世界に静かに広がり始めていた。
原因不明、治療法不明。
それでも人々は、まだ「日常」を手放していない。
中学生・玉木隼人は、
誰にも知られない形でその裏側と戦っていた。
ウイルスの正体、そして人を“変えてしまう病”の存在を。
そんな彼の前に現れたのは、転校生の少女・小瀬栞。
どこか不自然な言動、
時折見せる“何かを知っているような視線”。
感染が拡大する中、
人々を救おうとする者たちの正義は、次第に歪み始める。
「全員は救えない」
「選別は必要だ」
現実を受け入れる者と、
それでも希望を捨てない者。
選択の先で、
玉木は多くを失い、
それでも戦う理由を問い続けることになる。
やがて世界は、
人の手では止められない局面へと踏み込んでいく。
それでも――
誰かが選ばなければならなかった。
この世界を、
壊すか。
作り変えるか。
そして、
すべてが終わったあとに残るのは――
平和な日常と、
ひとりの少女の、静かな微笑み。
夕方の保健室は、やけに静かだった。
カーテン越しの光が、白い床に長く伸びている。
消毒液の匂いが、少しだけ鼻についた。
「……玉木?」
ドアの前で、浅倉ひよりは足を止めた。
中から、声が聞こえた気がした。
聞き間違いかもしれない。
でも――嫌な予感が、胸を掴んで離さなかった。
そっと、扉を開ける。
「……っ」
言葉が、喉で止まった。
ベッドに座る玉木隼人の腕には、
包帯が巻かれていた。
制服の袖は、血で暗く染まっている。
「……なに、これ」
玉木が振り返る。
「あ……ひより」
驚いたように目を見開いて、
それから、困ったように笑った。
「ちょっと転んだだけ――」
「嘘」
ひよりの声は、震えていなかった。
その分、はっきりしていた。
「転んだ人の怪我じゃない」
玉木は、何も言えなかった。
ひよりは一歩ずつ近づき、
包帯に触れそうになって、途中で手を止める。
「……いつから?」
「……」
「いつから、こんなことしてたの」
沈黙。
それが、答えだった。
「覚醒病……なんでしょ」
ひよりの声が、少しだけ低くなる。
「最近、街で起きてること。
急に増えた怪我人。
……全部、関係あるんでしょ」
玉木は、目を伏せた。
「言えなかった」
「言わなかった、でしょ」
ひよりは、唇を噛む。
「私さ……」
一度、息を吸う。
「玉木が危ないことしてるって、
なんとなく分かってた」
玉木が顔を上げる。
「でも、信じないことにしてた。
だって――」
声が、少しだけ震えた。
「信じたら、
止めなきゃいけなくなるから」
保健室の時計が、静かに音を立てる。
「ねえ」
ひよりは、玉木をまっすぐ見た。
「どうして、言ってくれなかったの」
玉木は、少し考えてから答えた。
「……怖かった」
「なにが?」
「ひよりが、
俺を見る目、変わるのが」
ひよりは、一瞬だけ目を見開き、
それから――笑った。
でも、その笑顔は、泣きそうだった。
「バカ」
そう言って、
ぎゅっと拳を握る。
「変わるわけないでしょ」
声が、強くなる。
「怖いよ。
心配だよ。
……でもさ」
一歩、前に出る。
「一人で背負うのは、違う」
玉木は、言葉を失った。
「戦ってきたんでしょ」
「……うん」
「傷ついたんでしょ」
「……うん」
ひよりは、深く息を吸う。
「じゃあ」
一拍。
「せめて、
知ってる人間くらい、そばに置きなよ」
その言葉に、
玉木の胸が、強く鳴った。
「……ごめん」
「謝らなくていい」
ひよりは、少しだけ笑う。
「生きて帰ってきたんだから」
夕日が、二人を包む。
その光が、
なぜかやけに、優しかった。




