栞の違和感(第四話)
<これまでのあらすじ>
普通の中学生・玉木隼人は、ある日「あなたは運命に逆らえる?」と問いかける謎の少女から、不思議なカードを渡される。
街に現れた正体不明の怪物に襲われた隼人は、カードの力によってドラゴンを召喚し、命を救われる。
やがて彼は知ることになる。
世界はあと三年で滅びること。
人を怪物へと変える謎のウイルス〈覚醒病〉、それを巡って暗躍する極秘防衛機関〈Cicada〉、そして人類を救うために進められる〈プロジェクト・ビリオン〉の存在を。
転校生として現れた少女・小瀬栞は、かつて隼人にカードを渡した存在と瓜二つだった。
さらに、親友・後藤孝太朗もまた、この計画に深く関わっていく――。
選ばれたカード、操られる運命、そして避けられない滅びの未来。
少年は世界を救う存在となるのか、それとも――。
これは、運命に抗う少年たちの近未来SF×異能バトルストーリー。
(昼休み・校舎裏)
昼休みの校舎裏は、人が少なくて静かだった。
コンクリートの壁に寄りかかりながら、浅倉ひよりは紙パックのジュースを振る。
「ねえ栞、もう学校慣れた?」
「……うん。たぶん」
小瀬栞は、少し考えてから答えた。
“慣れた”という言葉が、どこか曖昧に響く。
「“たぶん”ってなにそれ」
ひよりは笑って、栞の顔を覗き込む。
「でもさ、栞って落ち着いてるよね。
最初から、ここにいたみたい」
「そう、かな」
栞はそう言いながら、視線を逸らした。
ここにいた気がする。
――そんな感覚が、一瞬だけ胸をよぎる。
もちろん、理由はない。
「玉木と後藤とも、もう話した?」
その名前に、栞の指がわずかに止まる。
「……話した、と思う」
「思う?」
「うん。普通に」
普通。
本当に普通だったはずだ。
なのに、
玉木隼人の名前を聞くと、
胸の奥が少しだけ、きゅっとする。
「玉木さー」
ひよりは空を見上げる。
「放っとけないタイプだよね。
自分で抱え込むっていうか」
「……そう、なの?」
「うん。
だから私、ああいう人、嫌いじゃない」
ひよりは、屈託なく笑った。
その笑顔を見て、
栞はなぜか、目を逸らしたくなった。
「ひよりは……」
言いかけて、言葉を探す。
「怖くないの?」
「なにが?」
「……色々」
ひよりは一瞬きょとんとして、
それから肩をすくめた。
「そりゃ怖いよ。
でもさ」
ジュースを一口飲んで、続ける。
「怖いからって、
何もしないのは嫌じゃん」
その言葉に、
栞の胸が、少しだけざわついた。
――知っている。
そんな気が、してしまった。
「栞?」
「……ううん。なんでもない」
栞は小さく首を振る。
本当に、なんでもない。
理由も、意味もない。
ただ。
「ひよりは……」
栞は、ひよりを見つめる。
「……強いね」
「え?」
ひよりは一瞬驚いて、
すぐに笑った。
「なにそれ。急に」
「ごめん」
「いいけどさ」
ひよりは栞の肩を軽く叩く。
「栞もさ、
もっと適当でいいんだよ」
「適当?」
「そ。
深く考えすぎ」
その言葉を聞いて、
栞は小さく笑った。
――そうかもしれない。
まだ、何も知らないのだから。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
ひよりは手を振って、校舎の方へ走っていく。
その背中を見送りながら、
栞は胸に手を当てた。
理由の分からない不安。
理由の分からない大切さ。
それが、
今はただの“気のせい”であってほしいと、
心から思った
四章 終




