後悔と黒幕の登場(第十話)
謎の新型ウイルスが、世界に静かに広がり始めていた。
原因不明、治療法不明。
それでも人々は、まだ「日常」を手放していない。
中学生・玉木隼人は、
誰にも知られない形でその裏側と戦っていた。
ウイルスの正体、そして人を“変えてしまう病”の存在を。
そんな彼の前に現れたのは、転校生の少女・小瀬栞。
どこか不自然な言動、
時折見せる“何かを知っているような視線”。
感染が拡大する中、
人々を救おうとする者たちの正義は、次第に歪み始める。
「全員は救えない」
「選別は必要だ」
現実を受け入れる者と、
それでも希望を捨てない者。
選択の先で、
玉木は多くを失い、
それでも戦う理由を問い続けることになる。
やがて世界は、
人の手では止められない局面へと踏み込んでいく。
それでも――
誰かが選ばなければならなかった。
この世界を、
壊すか。
作り変えるか。
そして、
すべてが終わったあとに残るのは――
平和な日常と、
ひとりの少女の、静かな微笑み。
その日は、
驚くほど普通だった。
空は晴れていて、
風も冷たくない。
「今日さ、帰りに寄り道しない?」
浅倉ひよりは、
いつも通りの調子で言った。
「珍しいな」
玉木隼人は、少しだけ笑う。
「たまにはいいでしょ」
ひよりは、前を歩きながら振り返った。
「最近、忙しそうだったし」
「……ごめん」
「謝らないで」
ひよりは首を振る。
「隼人が何かしてるの、
なんとなく分かるから」
その言葉に、
玉木は足を止めかけた。
「全部は、
聞かない」
ひよりは、穏やかに続ける。
「でもね」
一瞬、視線が合う。
「ちゃんと生きて帰ってきてくれるなら、
それでいい」
胸が、少しだけ痛んだ。
その時。
――違和感。
空気が、
一拍遅れたような感覚。
「……ひより」
名前を呼ぶ。
彼女は、足を止めた。
「なに?」
その背後で、
影が揺れた。
覚醒病をまき散らした黒幕、アダバイス。
言葉は、なかった。
ただ、
そこに“在ってはいけないもの”がいた。
「下がれ!」
玉木が叫ぶ。
だが――
間に合わなかった。
ひよりは、
玉木の方を振り返って、
小さく笑った。
「……大丈夫」
それが、
最後の言葉だった。
次の瞬間。
世界が、
音を失った。
ひよりの身体が、
ゆっくりと崩れ落ちる。
玉木は、
受け止めることしかできなかった。
「……ひより?」
呼びかけても、
返事はない。
彼女の表情は、
驚くほど穏やかで。
まるで、
眠っているみたいだった。
「……嘘だろ」
声が、震える。
温もりは、
まだ残っている。
なのに。
どこにも、
“生きている気配”がない。
遠くで、
何かが壊れる音がした。
それが、
世界なのか、
自分なのか。
玉木には、分からなかった。
ただ――
腕の中の重さだけが、
現実だった。
「……守るって、
言ったのに」
返事は、ない。
空は、
相変わらず青かった。
それが、
何より残酷だった。
その夜。
玉木は、
誰にも連絡をしなかった。
泣かなかった。
叫ばなかった。
ただ、
失ったという事実だけが、
静かに胸に沈んでいった。
そして。
遠くで、
後藤孝太朗は
同じ空を見上げていた。
「……遅かった」
その一言が、
彼を“最後の選択”へ
向かわせることになる。
ご閲覧、ありがとうございます。
次回から、最終盤に入っていきます。
次回も呼んでくれれば、幸いです。




