悪を成す
X000年。
突如、世界に魔王が現れた。
銃も爆弾も効かないし、原子爆弾にさえ耐えきってしまった。
魔王は人をたくさん殺した。
徹底的に殺した。
魔王が人を殺す理由は分からない。
ただ殺すだけではなく凄惨に殺す理由がわからない。
分からないまま人類はついに最後の一人となってしまった。
「ついに来やがったか、魔王」
最後の人間は苦々しげに言う。
物語ならば勇者が現れたことだろう。
しかし、これは現実だった。
故に勇者などいない。
「殺す前に教えてくれ。お前は何でこんな事をした? そもそもお前にはこんな事は出来ないはずなんだ」
最後の人間の問いを受けて魔王は答える。
「地獄に行きたかったから」
「は?」
問い返す人間を魔王はあっさりと殺した。
魔王の視界に文字が現れる。
『この星の人類の全滅を確認』
機械で出来た身体をギクシャクと動かしながら魔王は――一体のロボットは考える。
やはり、死後の世界など現実的に考えて有りはしないだろうと。
――しかし、だからこそ。
「これをする理由はある。万が一に備えてしておくに越したことはない」
万が一。
地獄があったとしたならば自分はきっと地獄へ落ちるだろう。
地獄があったなら天国もあることだろう。
そして、自分を造ってくれた最愛の科学者は必ず――天国と地獄のどちらかに居るはずだから。
「創造主」
ロボットは呟きながら自らの人工知能を破壊する。
「今、あなたに会いに行きます」
機械に感情を与えればどうなるか。
人類のいない星と墓標の如く立ち尽くす滑稽なヒトガタがその答えだろう。




