少年、生を知る
その日は父の葬式だった。
いくらかの遺品が詰められた黒塗りの棺とともに炉の中で灰となって消えた。
1957年、享年48歳。
死因は慢性心不全だ。
厳しいときもあったが、誇り高い父だった。
父は大東亜戦争で戦った兵士だったと聞いている。
今頃、そこでの友人と盃でも交わしているのだろうか。
靖国に行けば会えるだろうか。
葬式後の家では祖父母や母が忙しなさそうにしているが、私は縁側でただ、ぼおうっと青空を眺めながら想う。
真夏の日差しが力強く降り注ぎ、風鈴の音がひと時の安息を与えてくれる、そんな日だった。
「富本は〜〜〜ん!富本は〜〜ん!」
大声を上げて我が家の扉を叩く声が響く。
何事だろう、こんな日に。
そう思って、私は縁側から見える富士の山を後にする。
玄関では祖父がそれに対応していた。
「富本はん。えらいことになっただわ。」
顔だけをそっと覗かせると、隣の矢部おじさんであった。
矢部おじさんは普段、隣の焼きそば店を経営している気さくなおじちゃんだ。
だが、今はそんな様子ではなく、ひどく深刻そうな表情で息を切らしながら、語っている。
「そんなに息切らして、なんかあっただら?」
その様子は祖父から見ても異常だったのか、祖父は怪訝そうに質問する。
「たった今、わしも増田さんとこから聞いたんだけど、名古屋の山口自警団が名古屋工廠を制圧したらしいんだわ。」
「ほんとだら?!」
「あの工廠と言えば、サンパチとか作っとったとこだら?」
「んだ。いよいよって感じだら。」
「んだんだ。ほだけんど、うちは息子があれだし、孫も小せえからのお。」
かくいう私達の地域も自警団がいる。
その山口自警団ほど大きくはないが、地域の治安維持においては十分である。
戦後、戦勝した枢軸国は緩やかな共同体を維持しつつも、それぞれの国でそれぞれの内面的脅威にさらされている。
日本では財閥によって腐敗した国内経済や政界、搾取し続けられるだけの大東亜共栄圏各国。
もはや、首の皮一枚すらつながっているか怪しいだろう。
それが、今年に入ってから完全に崩壊した。
軍によって、軍事政権が打倒され、経済や内政情勢は完全に瓦解。
早期に桑港へ本社を移転し、世界進出を始めていた三井財閥以外の財閥は地に落ちた。
警察や軍、自治体、政府は完全に形骸化しており、実質的にこのような自警団らが地方で台頭しているのが現状だ。
だが、この頃の私、富本斎は国民学校(と言っても公営のものではなく、個人が子供のために開いていた塾みたいなものだが)の3年生になったばかりの若造であったので、そこまで深く知らなかった。
だから私は矢部おじさんと祖父の話に飽きて、もとの縁側に戻った。
もし続きが気になるとか、この作品面白いとか思っていただければ★やブックマークをお願いします。




