第7話 無限ガチャ、現実で爆死。
「また出たよ。“運命ガチャ”系。」
神様が書類を投げてきた。
《対象:スキルガチャ能力保持者。引き放題。世界のバランス壊滅中。》
「……出た。確率の暴君だ。」
「本人曰く、“今度こそSSRを引き続ける”んだってさ。」
「人生ガチャで爆死した人間が、世界ごと回し始めたわけか。」
ミカが冷静に補足する。
「あの男、前世ではネトゲ廃人だったようです。課金額、推定二千万円以上。」
「ガチャで現実を失った男が、異世界で現実そのものを回してるのか。」
「皮肉ですね。」
「神の趣味、悪すぎだろ。」
到着した街の中心には、“巨大なガチャ塔”がそびえていた。
回転音が空気を震わせ、無数のスキルオーブが宙を舞う。
男はその頂上で笑っていた。
「引ける……! まだ引ける! この世界は俺の“引き直しガチャ”だ!!」
「うわ、声デカ……。」
塔の周りには、彼に引かれた“スキル”たちが散らばっている。
「認識阻害」「存在感を消す」「足音を消す」
類似のスキルの山は男には不要。まるで課金履歴の墓場だった。
白井は苦笑する。
「……世界が“ソシャゲの倉庫”になってるな。」
ミカが小声で言う。
「彼、自分の引いたスキルを全部保持してるんです。
なのに“無限ガチャ”が止まらない。」
「倉庫圧迫で世界がフリーズしてるってわけか。」
白井が塔の階段を上りながら声をかける。
「おい、ちょっと話そうぜ。」
「お前もスキル欲しいのか? いいぞ、引かせてやる。初回無料だ!」
「課金地獄で死んだ奴のセリフじゃねぇな。」
「俺は勝ったんだよ、現実に! こっちじゃ無限に引けるんだ!」
「そうか。で、その勝ち、楽しいか?」
「……楽しいに決まってるだろ! 俺が回せば何でも手に入る!」
「“何でも”手に入る世界って、案外“何も欲しくなくなる”んだよ。」
男が笑う。
「お前はわかってねぇ。現実の俺は、欲しいキャラ一体引くのに三十万かかったんだぞ。
今は違う。ここでは俺が“確率”だ!」
「神様も確率は操作できねぇけどな。」
「俺は神を超えた! 俺の引きにハズレは無い!」
その瞬間、白井のスキルが静かに反応した。
塔の回転音が、少しずつ鈍くなる。
男が叫ぶ。
「止まるな! まだ引けるはずだろ!」
ガチャ塔が悲鳴を上げ、オーブが弾け飛ぶ。
「確率」そのものが歪み、世界の数式が軋む。
白井がつぶやく。
「……やっぱりな。
“無限に当たる”ってことは、“外れる確率”が死んでるんだ。」
ミカの声が響く。
「白井さん! 彼の能力、統計的に破綻してます!
現実側が耐えられません!」
「知ってる。現実ってのは、“ハズレがある”から成り立つんだ。」
白井は歩み寄り、加賀谷の肩を掴む。
「なぁ。“当たり続ける”って、どんな気分だ?」
「……空っぽだよ。でも、止めたらまた怖くなる。
現実に戻ったら、“もう何も引けない”だろ……?」
「それが普通なんだよ。
当たりが来るかもって思う時間が、“生きてる”時間なんだ。」
「そんな時間俺には必要ない!」
「もう十分だろう。」
白井が指を鳴らすと現実補正が光を放つ。
ガチャ塔の回転が止まり、
最後の一個のスキルオーブが静かに転がる。
【スキル名:リセット】
男が笑った。
「……やっと、ハズレが出たか。」
塔が崩れ、空に舞うオーブが光の雨になる。
静寂。
男は瓦礫の上で座り込み、空を見上げていた。
「……現実って、渋いな。」
白井が隣に座る。
「だろ? ガチャより確率悪いけど、当たったときはマジで嬉しい。」
「“生きる”って、ハードモードだな。」
「その分、自由度は高いさ。」
ミカがそっと近づき、手を差し出す。
「あなたのスキルは回収しました。……お疲れさま。」
男は微笑む。
「なぁ、もう一回引けば俺の欲しいものが出るかな……」
「何を引きたい?》
「……“普通の人生”。」
白井は少しだけ笑って言った。
「SSRだよ、それ。」
風が吹く。
光のオーブが消え、ガチャ塔の残骸が静かに崩れる。
その音はまるで、現実が息を取り戻すようだった。
初ブックマークいただきました。ありがたや。ありがたや。




