表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/16

第7話 無限ガチャ、現実で爆死。


 「また出たよ。“運命ガチャ”系。」

 神様が書類を投げてきた。

 《対象:スキルガチャ能力保持者。引き放題。世界のバランス壊滅中。》


 「……出た。確率の暴君だ。」

 「本人曰く、“今度こそSSRを引き続ける”んだってさ。」

 「人生ガチャで爆死した人間が、世界ごと回し始めたわけか。」


 ミカが冷静に補足する。

 「あの男、前世ではネトゲ廃人だったようです。課金額、推定二千万円以上。」

 「ガチャで現実を失った男が、異世界で現実そのものを回してるのか。」

 「皮肉ですね。」

 「神の趣味、悪すぎだろ。」


 到着した街の中心には、“巨大なガチャ塔”がそびえていた。

 回転音が空気を震わせ、無数のスキルオーブが宙を舞う。

 男はその頂上で笑っていた。

 「引ける……! まだ引ける! この世界は俺の“引き直しガチャ”だ!!」

 「うわ、声デカ……。」


 塔の周りには、彼に引かれた“スキル”たちが散らばっている。

 「認識阻害」「存在感を消す」「足音を消す」

 類似のスキルの山は男には不要。まるで課金履歴の墓場だった。


 白井は苦笑する。

 「……世界が“ソシャゲの倉庫”になってるな。」

 ミカが小声で言う。

 「彼、自分の引いたスキルを全部保持してるんです。

 なのに“無限ガチャ”が止まらない。」

 「倉庫圧迫で世界がフリーズしてるってわけか。」



 白井が塔の階段を上りながら声をかける。

 「おい、ちょっと話そうぜ。」

 「お前もスキル欲しいのか? いいぞ、引かせてやる。初回無料だ!」

 「課金地獄で死んだ奴のセリフじゃねぇな。」

 「俺は勝ったんだよ、現実に! こっちじゃ無限に引けるんだ!」

 「そうか。で、その勝ち、楽しいか?」

 「……楽しいに決まってるだろ! 俺が回せば何でも手に入る!」

 「“何でも”手に入る世界って、案外“何も欲しくなくなる”んだよ。」


 男が笑う。

 「お前はわかってねぇ。現実の俺は、欲しいキャラ一体引くのに三十万かかったんだぞ。

  今は違う。ここでは俺が“確率”だ!」

 「神様も確率は操作できねぇけどな。」

 「俺は神を超えた! 俺の引きにハズレは無い!」


 その瞬間、白井のスキルが静かに反応した。

 塔の回転音が、少しずつ鈍くなる。


 男が叫ぶ。

 「止まるな! まだ引けるはずだろ!」

 ガチャ塔が悲鳴を上げ、オーブが弾け飛ぶ。

 「確率」そのものが歪み、世界の数式が軋む。


 白井がつぶやく。

 「……やっぱりな。

  “無限に当たる”ってことは、“外れる確率”が死んでるんだ。」


 ミカの声が響く。

 「白井さん! 彼の能力、統計的に破綻してます!

  現実側が耐えられません!」

 「知ってる。現実ってのは、“ハズレがある”から成り立つんだ。」


 白井は歩み寄り、加賀谷の肩を掴む。

 「なぁ。“当たり続ける”って、どんな気分だ?」

 「……空っぽだよ。でも、止めたらまた怖くなる。

  現実に戻ったら、“もう何も引けない”だろ……?」

 「それが普通なんだよ。

  当たりが来るかもって思う時間が、“生きてる”時間なんだ。」

 「そんな時間俺には必要ない!」

 「もう十分だろう。」

 白井が指を鳴らすと現実補正リアリティチェックが光を放つ。

 ガチャ塔の回転が止まり、

 最後の一個のスキルオーブが静かに転がる。


 【スキル名:リセット】


 男が笑った。

 「……やっと、ハズレが出たか。」


 塔が崩れ、空に舞うオーブが光の雨になる。


 静寂。

 男は瓦礫の上で座り込み、空を見上げていた。

 「……現実って、渋いな。」

 白井が隣に座る。

 「だろ? ガチャより確率悪いけど、当たったときはマジで嬉しい。」

 「“生きる”って、ハードモードだな。」

 「その分、自由度は高いさ。」


 ミカがそっと近づき、手を差し出す。

 「あなたのスキルは回収しました。……お疲れさま。」

 男は微笑む。

 「なぁ、もう一回引けば俺の欲しいものが出るかな……」

 「何を引きたい?》

 「……“普通の人生”。」

 白井は少しだけ笑って言った。

 「SSRだよ、それ。」


 風が吹く。

 光のオーブが消え、ガチャ塔の残骸が静かに崩れる。

 その音はまるで、現実が息を取り戻すようだった。

初ブックマークいただきました。ありがたや。ありがたや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ