第3話 俺だけ無制限レベルアップ? 現実は有限だ
「ミカ、今回の対象は?」
「転生者。スキル名 超上限解放。」
「うわ、名前からして胃もたれするな。」
「自己申告によると、“経験値を得るたびにステータスが無制限に上がる”だそうです。」
「またか。神様のスキルガチャ、絶対バグってるだろ。」
ミカが淡々と報告を続ける。
「現在、レベルは推定……一万七千。」
「……世界のエンディング迎えてない?」
「周囲のモンスターはすべて絶滅しました。」
「自然破壊系チート来たな。」
白井はため息をついて腰の端末を叩いた。
「行くぞ、ミカ。現実補正発動準備だ。」
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現場は荒野だった。
地平線まで焦げた大地。山は削れ、海は干上がり、
空には“レベルアップ!”の文字が延々と浮かんでいた。
その中心で、一人の青年が立っている。
装備はすでに黄金を超えて白く光り、
周囲に誰もいないのに、彼はなお剣を振り回していた。
「はっはっはっ! 俺の力は止まらない!
敵がいなくても、経験値は得られる! 俺が世界だ!」
白井はぼそっと呟いた。
「もう病気じゃん……。」
ミカが小声で同意する。
「レベルアップの快感に依存しています。中毒症状です。」
「異世界リハビリ施設、作ったほうがいいな。」
⸻
白井は歩み寄った。
青年が気づく。
「お前は誰だ!? この世界の神か!?」
「いや、神様の清掃員だ。」
「清掃員……?」
「お前みたいなのが撒いたバグを片付ける係だよ。」
白井は指を鳴らした。
《現実補正》――発動。
ミカの声が響く。
「論理整合性検出。“無限”という単語に対する数値的矛盾。
レベル上限設定、再構築中。」
「上限値、999に再設定。」
次の瞬間、青年の剣が砕けた。
筋肉がしぼみ、光が消え、
レベル表示が一瞬で999に収束する。
青年は膝をつき、呆然とした。
「な、なんだこれは……俺の力が……!」
白井は淡々と答えた。
「お前がやってたのは“成長”じゃなくて“膨張”だ。
風船と同じだよ。膨らませすぎりゃ、いつか弾ける。」
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ミカが報告する。
「対象の精神値、安定化。依存傾向、軽減。」
白井は煙草を取り出し、火をつけた。
「なぁミカ。」
「はい。」
「人ってさ、“限界”があるから頑張れるんだよな。」
「ええ。限界があるからこそ、上を見ます。」
「……無限って、案外地獄だよな。」
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神界オフィス。
神が資料をめくりながらぼやく。
「いやぁ〜、今回の子は元ゲーマーでね。
“無限レベルアップ”が夢だったんだって。」
「その夢、叶った瞬間に地獄だな。」
「人間って、欲張りだよねぇ。」
「神様もだろ。」
「図星。」
──現実補正係、本日も限界ギリギリで勤務中。




