第1話 チート成敗のはじまり
※この作品は1話完結形式です。
現実補正を使ってチート転生者を“現実に戻す”男の話です。
軽めの導入回です。肩の力を抜いてどうぞ。
俺の名前は白井小太郎。
肩書きは「現実補正係(リアリティチェック担当)」――つまり、神様の下請けだ。
この世界、チート転生者が増えすぎた。
死んだ拍子に神様から“おまけスキル”を貰って、
無双して、国を作って、ハーレムを築いて、最後は「俺TUEEEE!」。
……そんなテンプレを繰り返した結果、
世界の物理法則が、もはや物理してない。
神様? あいつは放棄したよ。
「いや〜、管理が多くてねぇ」とか言いながら、
いまも雲の上でポテチ食って昼寝してる。
だから代わりに俺が派遣された。
仕事は簡単。
チートを現実に戻すこと。
夢を見すぎた奴らを、現実に引きずり戻す。
要は“異世界のバグ取り”だ。
人呼んで《現実補正》。
◇ ◇ ◇
今回の現場は、王国の中央広場。
ミカ――腰につけたAI端末――が報告する。
「対象:転生者。スキル名 無限魅了。」
「出たよ、“全員俺のことが好きになる”系。」
「現地呼称、“ハーレム王”。」
「うわ、字面だけで胸焼けするな。」
広場の中央には、金髪の青年が立っていた。
周囲には、姫・騎士・メイド・商人……老若男女が集まり、
全員が彼を見てうっとりしている。
青年は両手を広げて叫んだ。
「愛こそ正義だ! この国は愛で満ちている!」
白井はため息をついた。
「おいミカ。これ、宗教か恋愛バグかどっち?」
「両方です。」
「ですよねー。」
◇ ◇ ◇
白井はポケットから煙草を取り出し、火をつけた。
「よし、いつも通りいくか。」
指を鳴らす。
《現実補正》――発動。
ミカの声が響く。
「論理整合性、検出中……矛盾発見。
“全員が同時に最上級の愛情を抱く”状態、現実的に継続不能。」
「演算結果:愛、過飽和。」
次の瞬間、広場が静まり返った。
人々が我に返るように顔を見合わせる。
「……あれ、私なんでこの人に土下座してたんだ?」
「俺、昨日まで恋人いた気がする……。」
「おい誰だこのタキシード男!」
青年が絶叫する。
「な、何をした!!」
白井は淡々と答えた。
「現実を、戻しただけだ。」
◇ ◇ ◇
青年が崩れ落ち、震える声で言った。
「……俺は、誰かに愛されたかっただけなんだ……。」
白井は少しだけ目を細めた。
「その気持ちは分かる。
でもな、“愛されるだけ”の人生なんて、現実には存在しねぇよ。」
青年の瞳が揺れた。
ミカが小さく報告する。
「チート効果、完全消失。
感情値、正常範囲に復帰。」
白井は煙を吐き出す。
「よし。現実、少し冷め気味で安定だな。」
◇ ◇ ◇
神界オフィス。
神がコーヒーをすすりながら笑った。
「いやぁ、白井くん、今日も良い仕事してるねぇ。」
「できれば残業代ほしいっす。」
「神界、そういう制度ないんだよねぇ。」
「ブラックすぎるだろ。」
「仕様です。」
──現実補正係、本日も通常稼働中。
初投稿作品です。
温かい目で見守ってください。
次回――「時間を止めるチート」vs「止まらない現実」。




