悪魔との契約
「失礼しました」
職員室と廊下の寒暖差で体が急激に熱くなる。教師からの面倒くさいお願いを馬鹿真面目に聞いてしまう自分を呪ってしまう。
「あれレオじゃん。なんか職員室に用事でもあったの?」
「パシリだよ。テストの答案用紙を一緒に運んでくれって頼まれたんだ」
「ほんと優しいよね、流石はみんなのヒーロー『天城レオ』」
誉め言葉か皮肉か定かではない。そこそこ親しい仲のため別になんとも思わないが。
「で、なんでミナはここにいるんだ?」
「私はこの後、部活があるから鍵取りに来たの」
野崎ミナ、小さい頃からの親友であるとともにクラスメイト。高校生になってからは話す頻度は減っているが会えばこのように気楽にできる。
「キャー!!」
黄色い声援が響く体育館で行われるバスケ。遊びではあるがそれなりの熱量に満たされている。
「またスリーポイントか、バスケ部に入ってほしいぐらいだな」
「そりゃどうも。でも練習に参加できるほど時間がないからな、ごめん」
息抜きのスポーツは素晴らしい。普段の生活によって溜まった汚れが落とされる気分になる。
「すんごい汗だ」
数時間による遊戯が終わって疲労感が一気に襲い掛かってくる。プレー中には一切感じなかった多汗を体中に感じる。
「天城くんお疲れ様。はい水」
「ありがとう佐川。別に良いのに、、、」
「いいのいいの、男の子はちゃんと水分摂らないとね」
生徒会長の佐川キョーコに渡された水を濁流のように飲む。不足したミネラルが脳みそまで届く。
「おいおい佐川。俺たちの分はないんかよ?」
「あるに決まってるじゃない、はいっ」
なんでかはわからないが、周辺の男子たちは少し不機嫌そうに水を貰う。
「ねぇ天城くんは暇な日とかある?」
「今週の土曜なら開いてるけど」
「じゃあ私と一緒に映画見に行かない?ちょっと気になってるのがあって」
「ん~わかった、いいよ」
嬉しそうに彼女は笑う。まさか学校中で人気の会長にデートのお誘いを受けるとは。俺はなんとも言えない気持ちの状態で体育館を後にした。
「いや~面白かったねこの映画」
週末の映画館はたくさんの人が集まっており賑やかだった。観たのはいま一番話題になっている恋愛映画だった。
「そういえば、なんで俺のこと誘ってくれたの?」
「天城くんはこの前のテストで1位だったでしょ?それでどんな人なのか詳しく知りたくなったって感じ?」
分かるような分からないような、、、、
「気になることがあったんだけど、いつも一緒にいる女の子とはどういう関係なの?」
急に展開された質問に思考が停止してしまう。
「え、えーと。昔からの付き合いっていうか幼馴染かな」
「へぇ~」
この何気ない会話から違和感を感じ取れというのは当時の俺には無理な話だったろう。まさかあんなことになるなんて思ってもいなかった。
事件というのは突然起きる。早朝、教室に付いた時既に事は起きていた。あまりに衝撃的な光景だったのか鮮明に記憶に残り続けている。
「な、なんだこれ?」
真っ赤に染まった机。血のような色のした絵具をそのままぶちまけたのは容易に想像できる。しかし何故このようなことをしたのか理解ができない。それに一番の問題は、、、
「なんでミナの机が?」
「ひでぇ、掃除するだけでも何時間もかかるレベルだな」
かけられた絵具は上の部分だけではなく中にまで浸食している。綺麗に清掃するより捨てたほうが手っ取り早い。
「大丈夫なのかミナ」
「わ、私は大丈夫。でももう机使えないね」
何が起きているのか理解ができない。イジメだとしてもそんな前兆はなかった。
それからというものミナに対する地味な嫌がらせが続いた。最初の攻撃こそ派手だったものの最近は他の生徒には気づきようのないものばかりである。俺はミナに頼み込んでなにかあったら報告するようにしてもらった。
「明らかに複数人だ。怪しい奴をマークしてもイジメは止まらない、なにがどうなってんだよ…」
1週間が経過した現在、ミナからの報告もなくなった。周りからは止まって良かったと噂されているがそんなわけない。ミナは明らかに俺のことを避けだした。あんな優しい性格をしているあいつが考えることはただ一つ俺を遠ざけて巻き込まないようにするはず。
「あのバカっ!」
苛立ちが止まらない。何者がやっているのかがわからないことそしてあいつに気を使わせていること。勝手にヒーローぶっていた自分をぶん殴ってやりたい。
「大丈夫?天城くん」
「佐川、、、すまんちょっと今は____
「野崎さんのことだよね?私にも手伝わせて!」
「いいのか?こんな大変なこと」
「ううん、私も生徒会長だもん。君のためにできることをやりたいの」
佐原と一緒にイジメの犯人を捜すようになった。しかし中々に巧妙なのか尻尾がつかめない。
一人で探すには心もとないため佐原が手伝ってくれているおかげで少しは気が楽になった。それでも事態は好転しない。ミナは誰とも話さないようになってしまった。俺は己の無力さを思い知った。小学校の頃から一緒に遊んでいた親友、学校で一番の成績を修めていたとしても価値観は変わらなかった。そんな大事な存在を救うことさえ俺にはできない。
二週間がたった。数日前からミナは学校に来なくなった。体調不良という理由で休んでいるらしい。その言葉を馬鹿真面目に捉えるほど腐ってはいない、だが証拠も手がかりもない俺になにか告発できる資格はない。俺は疲れた脳みそをリフレッシュするために仮眠をとる。現実から逃れるように。
「……なんだここは?」
瞼を上げると見知らぬ空間が目の前に現れた。ヨーロッパの洋館のように赤い絨毯が敷き詰められていている。しかし生活感は皆無であり人の住める状態ではない。扉を開けると玄関前のロビーに出てきた。大金持ちの別荘のように庶民が経験することができないような広さの建造物である。
「弱者ってのは辛いよなァ。誰も救えない、なにも得られない」
ドス黒い声が体の上からのしかかる。重く、痛く、恐怖を感じる。喉元にナイフが突きつけられた気分になる。
「はぁ、、、はぁ。誰だ!!!???」
後ろを振り返っても誰もいない。前にも後ろにも見当たらない。
「上だ。上を見ろヒーローくん」
上。上にはシャンデリアと天井しかないはず。つまりなにもない、しかしそこを指す言葉が聞こえる。俺は恐る恐る見上げた。心臓があり得ない速さで鼓動をうつ。そこには一人、いや一体と言うべきか。人間の形をした化け物が浮かんでいた。目は赤色に変化していて顔は色白く舌は黒。両手の爪は人を刺し殺せるほど長く鋭い。それでいて顔立ちは整っている。その乖離したいで立ちは人間の本能を恐怖で怯えさせる。
「お、お前は?……」
「オレは悪魔だ。名前はニッシュ」
悪魔だと?そんなものは神話上の生き物である、それが実在して俺に話しかけている。信じられないあり得ない非論理的だ。しかし先ほどまでこいつは宙に浮いていた。物理法則を無視したこいつを説明する方法はただ一つ、言っていることすべて本当のこと、目の前にいるのは悪魔である。
「………悪魔が惨めな俺に何の用だ」
「呑み込みが早くて助かるよ。やはりお前を選んだのは間違いじゃなかった。」
彼はケタケタ嬉しそうに笑う。
「お前こと天城レオは自分の力の無さに絶望している。オレにはわかる、助けたい人間がいるのに何もできない自分を呪っている」
流石は悪魔と言うべきかこちらが心の奥底で思っていることを正確に当ててきている。
「そこでだ。オレと契約しないか?」
「契約?」
「オレと契約すればお前の望んだ力が手に入る。あの女を助けたいんだろ?」
悪魔との契約。人間がやってはいけない代表格。それをまさか俺に持ちかけられるなんて
「もしそんな力が手に入ったとしてもその代償はなんだ?どうせタダな訳がない」
「クククッ、勿論だ。だが別に難しいことじゃないお前がその力を使って望んていたことを続ければ良いだけだ。そうすればこちらの条件は簡単に達成される」
俺が望むこと。それはミナのような善人を救い、自ら犯した罪から逃げる悪人を裁くこと。あんな良い奴が損をする世界を変えたい。でもそれは不可能だ、人間の力には限界がある。もし世界を変えれるか力があれば俺はそれが欲しい。奴が言うにはその力を使い続けることが条件。それ以外には特にないらしい。
「…わかった契約しよう。今の話に嘘はないな?」
「当たり前だ。人間的に言えばWIN-WINだ」
契約は結ばれた。その瞬間、悪魔は俺の体を腕で貫いた。そして心臓を掴み握りつぶした。口から血があふれる。
「ハッ!!??」
意識が覚醒する。時計を見ると仮眠をとってから30秒しか経過していなかった。夢だとしてもおかしいことがさきほど起きていた。
「安心しな、夢じゃない。契約成立したのは紛れもない事実だ」
「………お前のことは俺にしか見えないのか?」
「そうだ。だが例外がある、お前と同じく契約している人間だ。そいつに見せる
意思を持てば見せることができる」
つまり盗み見られることもない。悪魔とは人間界に降臨するのは難しいらしく、こうやって夢の中に出てきて契約を交わす。そうやって思念体として存在できるらしい。人間界を見たい悪魔や契約することで美味しい思いできることを狙ってのことだ。
「はぁ、、、」
非常識で非科学的なことばかりで頭がおかしくなりそうだ。
「で、どうやって力を使うんだ?」
「悪魔にもいろんな種類がいるんだ。オレは罰を司る悪魔だ。だから罪を犯して罰から逃げる人間に対して罰を下せる。」
罰の悪魔。罪の詳細を契約者が把握していれば、それから逃げている犯罪者を特定できる。顔を見ればすぐにわかるらしい。そして遠距離からでも犯人に罰を下せる。どんな罰を下すからは契約者の裁量に委ねられる。
「じゃあ今の俺ならイジメの犯人を見るだけでわかるな」
「さァ、お前…天城レオの最初の裁きを見してくれ」
3日後、俺はミナの家に行った。インターフォンを押しても反応はなし。引き下がる訳にもいかないため俺は自分の拳を使って激しくノックする。ドンドンドン!!!一分間それを続けると限界が来たのか不機嫌そうな顔で出てきた。
「うるさい」
「一緒に学校行こうぜ」
強硬手段できたことに驚いていたのか懐疑的な雰囲気を醸し出す。
「なんでうちに来たの?私がいるとレオにも迷惑かけちゃうよ…」
思っていた通り、いや想像以上に思い悩んでいた。でももう大丈夫だ。俺は自身満々に答える。
「ミナがいないと寂しい」
「え?」
「お前が学校にいると俺が嬉しい。だから行こうぜ。」
教室の目の前まで着いた。近づくにつれて不安そうな顔を見せるミナ。彼女がここ数週間経験したことはそれほど重かったのだ。
「安心しろ、もうお前をイジメるやつはいないよ。」
頭に手を置きゴシゴシと撫でる。今のミナを安心させる術はこれぐらいしか思いつかない。
教室に入ると多数の生徒が既に居た。ミナの説得で遅れた分他の生徒より後に到着した形になる。しかしそんなこと気づかれることはなかった。この空間ではそれよりも重大なことで持ち切りである。
「あんたこれどういうことよ!?」
「し、知らないよ。だってこれ私のアカウントじゃないもん!!」
修羅場。教室は怒りと殺気と軽蔑と困惑で満ちていた。正直なところ、俺もこの現状を受け止め切れていない。悪魔の力には間違いがあり誤解である。そんな展開を望んでいる自分もいる。しかし今目の前で起きていることがそれが本当のことだと証明している。
「あ……天城くん」
顔面蒼白とはこのことか。
「この動画、ずいぶんと不愉快と思わないか?……なぁ佐原?」
昨日の21時に謎のアカウントからクラス全員と教師に1つの動画が送られていた。5人の女子生徒が野崎ミナの机に赤い染料を零していた映像がきっちり記録されている。そしてそのメンバーの中に佐原キョーコの姿もあった。
「ち、違うのこれは…」
佐原キョーコ。今の生徒会長であり人気者の生徒会長。優等生として知られており、教師たちからの評価も高い。持ち前のコミュニケーション能力で広げた人脈は学校一と言っても良いだろう。
「残念だよ佐原。お前がミナのイジメを止めるのを手伝ってくれた時は嬉しかった。まさかこんなことをする人間だったなんてな」
悪魔の力を使ったときに事件の全貌が見えた。最初に犯人が佐原だと見えた時信じられなかった。それでも今の彼女を見ているとそれが間違いではないことが嫌でもわかってしまう。
「しょうがなかったの!!そ、そいつが調子に乗るから…」
ミナに激昂しながら指を指す。まるで自分は悪くない、気に食わない行動をしていたミナが悪いと訴えているかのようである。
「はぁ…。これでわかったよ。俺はお前みたいな女が嫌いだ、それにタイプじゃない」
「ど、どうして…。いやあああああああああああああああああああああああ」
罰を下す時に佐原の記憶を覗いた。彼女がなぜイジメを行ったのか。その理由に自分が関わっていたことも。
佐原キョーコの独白
私が人生で一番優先していること。それは周りからの評価である。自己肯定感なんて持ち合わせていない弱者と私は違う。顔はかわいいし、胸も大きい。成績は学校で二番目に良かった。自他ともに認める最高の女だと思う。そして最近になってある男子のことが気になりだした。この学校で唯一私より成績が良かった天城レオ。文武両道でイケメン、バスケで遊んでいるだけで女子が集まってくる超が付く人気者。私が彼の彼女になればすべてを手にしたと言っても馬鹿にはされない。私は彼に近づくためにいろんなことをした。デートにも行けた。
しかし彼の周りにはいつもあの女がいた。野崎ミナ、どうやら昔からの仲らしいがはっきり言って邪魔だ。この学校には私の言うとおりに動いてくれる駒がたくさんいる。ソレを利用してあの女に理解させてやった。この世界は力がすべてだし、力を持っている人間の機嫌を損ねた奴はどんな目に会っても文句を言う権利はない。
吐き気を催す記憶と感情。己の利益のために他者をゴミのように扱う奴らを俺は黙って見過ごすことはできなかった。全てを知った俺は罰を下すことにした。周りからの評価を使って悪行をする人間に対する一番の罰、イジメの現場を他の人間に拡散させる。悪魔の力によって存在しないアカウントが生成され密告が行われた。
騒動の後、やってきた教師たちに犯人らは連れてかれた。イジメが解決した安堵と佐原が犯人だったことによる不信感が混ざった空気がその一日を包み込んだ。
「言っただろ?もう大丈夫だって」
「……ねぇ」
「どうした?そんなモジモジしてお前らしくない」
「あ、ありがとう」
昔からの仲だ。面と向かって感謝されたのは久しぶりだ。俺はミナのために行動できた満足感を手に入れたが、少し恥ずかしくなった。
「まぁ、、、お前が元気なら良かったよ」
事件を解決した俺は確信した。この力があれば世界を変えられる。社会に溶け込んでいる悪人に罰を下す。そして平和な世界を創るんだ。
悪魔と交わした契約は平和への第一歩である。目には目を歯には歯を、小さき罪には小さき罰を大いなる罪には大いなる罰を………
初めて書く小説です。変な所があると思いますがよろしくお願いします。




